81. 二人の冒険者
ミガル王国。王都〈アンデハイル〉近辺。その西南。
ザルツブルグを繋ぐ唯一の道から逸れると存在する森にて、ミガル王国に属する有人搭乗機ゴーレム部隊が未確認の魔物によって壊滅していた。
「イヤァァァァッ! イヤッ! 助けてッ!」
女性のみで構成された五人組の試験機体専用部隊。ミガル王国で第一王子を筆頭に有人搭乗機ゴーレムの開発が盛んに行われており、その新型機体の試運転として彼女たちは配属されている。というより、女性を出世させたくない者たちの策略ともいっていいが。
この部隊は、厄介払いなのだ。試験機体も粗悪品。殉職することを前提にしている。そのせいで、謎の魔物によって壊滅させられている。
のっぺらとして、目がなく、人間のような歯を持った魔物の群れ。獣のようで、だけど人間のような手を持っている不気味な見た目をした存在。
現在、そいつらに機体を破壊され、搭乗していた女性が次々と引きずり出されている。
「い、痛い、痛い……っ! か、返して、私の腕っ! 返してっ!」
「あぐ、が、ぁぁ……ぁぁぁぁっ」
引きずり出された一人目は腕を引きちぎられ、二人目は、ゆっくりと嚙みつぶされようとしていて軽く頭蓋が砕かれたばかりで、三人目は、引きずられたばかりだ。
「死にたくないっ! 死にたくない!」
四人目はぎりぎり動く機体を操作してもがいていた。そして最後、部隊のリーダーである黒髪ショートの女性は搭乗口をこじ開けられたばかりだ。
「い、嫌だっ。ま、まだ……こんな化物なんかに!」
涙目になりながら訴えてもそれに答える者はいない。
にや、と口角を上げた魔物が手を伸ばす。
もう終わりだ。死を覚悟した瞬間だ。
ドゴン、と弾丸のように横切った黒い影が魔物に直撃した。そして、魔物はそのまま地面に叩きつけられ、影のクッション変わりとなって踏み潰された。
「えっ、誰……」
影の正体は人間だった。艶のある白銀に近い金髪のミディアムヘアーが風で靡き、日差しで光が波打つ。『豆腐メンタル』と書かれただぼだぼのTシャツと半ズボン、そしてサンダル。あまりにも場違いな服装をしたその者は振り返った。
キリっとした蒼い目が特徴的な女性……いや、凛とした雰囲気を漂わせた美男子が呆然としている部隊のリーダーを見て、安全と確認した男は魔物の群れに目を向ける。
「――〈フルヘイト〉ッ!」
そう叫んだ瞬間、空気の波が周囲に広がり、その場にいたすべての魔物が男に意識が向く。腕を引きちぎった仲間を捨て、噛み潰されかけた仲間を捨て、掴んでた仲間を捨て、全員の仲間に向いていた意識がすべて、男に集中した。
「な、なにを……」
リーダーは男がなにをしているのかわからなかった。
だが、次の瞬間、彼の正体に気づいた。
男の腕から光が覆い始めた。胴体まで到達すると同時に腕が実体化して鉄の鎧が現れる。機械的に見えるその鎧は、部位ごとに装甲が半開きになっていた。
次々と実体化していくと同時に、鎧が動き始めて、仮止めしていたモノをすべてしめるかのように、ガチャガチャ、と装甲パーツが合体していく。
片方の足を順番に上げながら頭部までの装着が終わり、背中に実体化した銃と剣のウェポンパックが、ガチャン、とがっちりと換装された。男が「コードF」と言うと、その武装の装甲が白色に変色した。そして、最後に機械仕掛けの大盾が実体化した。
「まさか、S級冒険者のリック・ガルートン。〝難攻不落〟の、あの」
ミガル王国にいるはずのない人物が目の前にいた。
ここにいる理由はわからない。だが、それ以上に心強い味方は彼以上にいなかった。
「リックさん」
すると、仲間と思われる銀色の長髪の神聖術師が姿を現した。静しげでミステリアスな雰囲気を漂わせ、サファイアのような瞳が淡々と戦場を見渡していた。
そして、迫力のある大きな胸だ。
「エリナは怪我人の手当てを頼む」
「わかりました」
エリナと呼ばれた女性は腕を引きちぎられた仲間の元へ歩いていった。
その間も、魔物の群れはリックを見ていた。そして、一体目がリックに肉薄した。
「さて、こちらも手早く終わらせる」
ウェポンパックから剣の鞘が展開し、手の届くところまで移動し、リックは剣を柄を掴んで抜刀した。剣先が扇状に開いた両刃の直刀が現れる。
そして、間合いに入った魔物を一瞬にして両断した。スキルを使用していない一振りで部隊が苦戦した相手を屠ってみせた。
次々と肉薄する魔物を大盾で横殴りにし、回転をかけて大盾から搭載していたであろう剣が展開されて魔物を斬殺した。
瞬間、リックが消えたと思った瞬間、魔物数体が両断された。なにが起こったのか、それは尋常ではない速度で移動したのだ、と地面を踏み抜いた痕でわかった。
数で来ようと物ともしないリック。優れた機動力で回避し、大盾でいなしては殴り、剣で両断していく。圧倒的だった。成すすべなく魔物が倒れていくのだ。
最後の一体となり、ようやく事の重大さを理解した魔物が逃げ出した。
その先には治療しているエリナの姿があった。
「危ない!」
女性のリーダーがそう叫んだが、もう回避するには遅い距離まで到達していた。
エリナが視線を向けたときには、魔物は手を振りかぶっていた。
だが、エリナは冷静に大杖を持って立ち上がり、ドーム状の結界を風船を膨らませるかのように展開して魔物を押しのけた。
宙に浮いた魔物にエリナは大杖を向けた瞬間、無数の白い光剣が魔物を貫いた。
それは〈ホーリーセイバー〉だったが、通常のとは違って生成と射出が同時に行われ、四本が限度の光の剣が大量に高速射出されていた。
ハチの巣にされた魔物は力なく地面に転がった。
エリナはほっと息をつくと、何事もなかったかのように治療に戻った。
正体不明の魔物の群れは、たった二人の冒険者によって無事に討伐された。
部隊のリーダーは、ずっと呆気に取られているわけにもいかず、機体のコックピットから出てリックの前に足を運んだ。
「私は試験機体専用部隊のリーダーを務めているリノン・シャルテーラといいます。この度の加勢、誠に感謝いたします。あなたがたがいなければ私たちはとっくに全滅していました。本当にありがとうございます」
リノンは深々と感謝の意を示した。
振り返ったリックは、全身が光に包まれて元の薄着に戻った。
「いえ、ちょうど依頼を受けて王都に向かってたところだったので。むしろ、死者が出る前に助けられて良かったです。お怪我はありませんか?」
「こちらは大丈夫です」
すると、治療を終えたエリナが仲間たちを連れて歩いてきた。
「怪我人の治療が終わりました」
「ありがとう。エリナ」
リックがお礼を言うとエリナは会釈した。
腕を引きちぎられた仲間の腕は元通りになり、噛み潰されそうになっていた仲間も歯型は残っていたが治っていた。リックを含め、彼女は神聖術師としての実力は相当なものだと見てとれた。
「王都に向かっているんでしたよね? 近くに機体専用の大型車両があります。機体の回収が終わり次第にはなるのですが、よければ一緒に乗っていきませんか?」
「私たちミガル王国の民はあなたがたを歓迎いたします」
その提案に、リックとエリナの二人は顔を合わせ、
「ご迷惑ではなければお願いします」
リノンの提案を受けてくれた。
「では、機体の回収も手伝います」
「いえいえ! どうか二人は休んでてください! ご厚意は嬉しいのですが、命の恩人にそんなことさせられません!」
「まあまあまあ」
「あっ、ちょっ、あの!」




