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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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72. 本番はここから

 リックたちが戦っている間に、カンナは魔導巧機重鎧00号機と一緒に輸送車を起こし、エンジンがかかるのを確認してハルトのもとへと走行して降りた。


「おう。大丈夫そうか?」

「まあね。ただコンテナが歪んで開かないから自力で開けるしかないかな」


 隕石でも激突したのかと言わんばかりに歪んだ輸送車を見ながらカンナは魔導巧機重鎧00号を操作して半開きになったコンテナを強引にこじ開けた。


 軋む金属音とともに開かれたコンテナの中身をカンナは確認して一息ついた。


「良かったぁ。荷物は無事そう」


 カンナが安堵の息を漏らしたのも束の間、ドゴーン、という鈍い爆発音と地響きが伝わってきた。思わずそちらに向くと壮絶な戦いを繰り広げる二人の姿が目に映った。


 リックが魔力障壁を片手戦斧で破壊したり、ナタリアが魔力障壁で圧殺攻撃をしたり、とまるで二人の時間だけが早く流れているかのように高速戦闘を行っている。


 ザルツブルグにいるA級の冒険者でもしないような使用頻度でスキルや魔法をぶっ放す。


 魔法ですら処理速度をベテラン魔術師を遥かに上回り、しょうじき術式や脳が焼き切れても不思議ではない光景にカンナは思わず息を飲んだ。


「どう思う? あんな戦い方できると思うか?」

「いや、どう見ても無理っしょ」


 ハルトの問いにカンナはそう答えた。


「完全に消耗戦じゃん」

「まあ、そうなるだろうよ。リックも相手も防御特化だ。おたがいに耐性や対策をしてるとなると、最終的な決着は魔力が先に尽きたほうだ」


 ハルトは三日月のような笑みを浮かべながら、後頭部に手を組んだ。


「まあ、S級と付き合っていくならこのくらい普通だ。覚悟しとけよォ? 今後こういう奴らと関わってくようになるんだぜ?」

「……。ずいぶんと楽しそうじゃんね」


 カンナはそう言ってみたはいいものの、ハルトも余裕がないのは同じだ。カンナとハルトの二人だけで〝白陽の使徒〟を追跡することは可能だが、使徒を相手に二人だけの戦力で適う相手とは思っていない。それと目の前のナタリアが二人をちらちらとリックを相手にしながら確認しているのだ。見逃してくれる様子はなく、離脱しようとすれば即座に狙われることが確定している。今はただ固唾を飲んで見守るしかない。


 いつでも動けるようにして。


――


 リックは大盾から抜刀した展開式片手戦斧で魔力障壁を破壊する。

 飛んでくる魔力障壁を避け、戦斧を収納し、魔導銃に切り替えようとした瞬間だ。

 バキンッ、という硬い物が割れる音が響き、片手戦斧の部品が壊れた。


「――ッ!」


 リックは壊れた部品に目をやると、透明な物体が砕けて霧散する。それは魔導銃にも応用されている形を変えた魔力障壁だった。


(弾丸を見ただけで術式を構築したのか!)


 破壊はされていない。しかし、そのまま使用するのは危険と判断したリックは奥歯を噛みしめ、ナタリアの防御壁にわざと片手戦斧を叩きつける。片手戦斧は大きく跳ね、放物線を描きながら仲間の足元に刺さった。


 魔導銃を装備したリックは散弾モードに設定して発砲する。


 バン、バン、バン、と魔力障壁を割っていく。だが、ナタリアも本格的にリックと討伐しようと攻撃魔法を行使してきた。


 神聖術の攻撃魔法〈ホーリーセイバー〉が異常な速さで射出される。


 狙いはリックの魔導銃、の展開されて露出している銃口。狙いがわかったリックは展開中のフレームを即座に閉じた。魔導軽機関銃〈ヴォルグ04〉の外装はアダマンタイト合金製。どんな魔法だろうと防ぐことは可能だ。しかし、衝撃だけは消せない。光の剣が直撃したと同時に魔導銃と一緒に半身が後ろに持っていかれる。


 リックは冷静だ。逆に前へと持ってこられた大盾を構えて残りの魔法を防いだ。


 すぐさま魔導銃を榴弾モードに変更し、ナタリアに反撃した。


 榴弾が着弾し、爆発すると巻き上がった土埃がナタリアを隠す。瞬間、煙をかきわけるようにして魔力障壁がリックを襲う。


 リックは大盾で受け止め、


「――〈シールドインパクト〉ッ!」


 大盾から放たれた爆発的な衝撃波は、何重層にも重なっていた障壁を一気に破壊する。リックはすぐさま土魔法〈サンドストーム〉を行使し、視界を塞いだ。


 魔導銃を武装パックに戻し、リックは後退した。


 砂嵐が収まったのはそれから三十秒後。ナタリアの視界が晴れた瞬間を見計らい、リックはカンナから受け取った魔導光線砲銃をフルチャージして放つ。


 瞬間、巨大な光線銃がナタリアを飲み込んだ。


 エネルギーを出し切った光線は収束し、絹糸が反射したような残滓を見せて消えた。


 赤熱した銃身。立ち昇る熱気と煙。魔導光線砲銃から、カードリッジが強制排出され、同時にリックは魔力切れになり、膝を崩した。


 魔導巧機重鎧の特殊塗装の色が消え、本来の金属の色が現れた。


「リック!」


 カンナはリックに駆け寄って魔力補給薬を差し出すが、リックはそれを拒否した。


「平気だ。まだ一本残ってる」

「そう? 欲しかったら言ってね」


 カンナはそう言いながらコンテナのほうに走っていった。

 リックは荒い息を整えながら立ち上がった。


「白いのともう一勝負ある、ってのに派手にやったな」

「仕方ない。これくらいしないとこっちがやられる」

「ま、おかげであの聖女様も魔力切れになったようだ。これで先に進める」


 舞う土埃の中から姿を見せたナタリアは膝をついていた。あれだけ重厚に貼ってあった結界術が消えており、彼女の輪郭から放たれる魔力もない。魔力が枯渇した状態だ。


「おい、見ろよ。あの目。終わってないって感じだぜ」


 ハルトは腕を組み直しながらに言う。


「だな。まだほかに隠してるようだ」

「リックはなんだと思う?」


 ハルトは率直な疑問にリックは口を開く。


「一つ思い当たるのがある」

「ほう? というとなんだ?」


「俺には魔力をストックしておけるスキルがある。ナタリアがそれと同系統のスキルか魔法があると予想している」


「ああ、確かに。〝ハイスペッカー〟の戦いかた見てると魔力の消費量やばそうだもんな。なにかしらの対策しててもおかしくはないな」


「それに、最近になってわかったことだが、俺はほかと違って魔力消費量が少ない。無駄がなくなったというべきか。とにかく、素の燃費が良くなったんだ」


「お前の魔力量が一〇として、魔法が三から二。スキルが二から一とかそんな感じか?」

「そんな感じだ」


「たはぁ。そりゃ羨ましいぜ。消費量を抑えることはできるが、多分お前のニュアンスだとだいぶ違うだろ。とすると、あの結界術の乱発にも。普通じゃ」


 ハルトは笑いながらそう言って、


「てことはここからが本番ってわけか」


 拳を自分の手に叩きつけた。

 すると、息を整えたナタリアは立ち上がる。そして、大杖を地面に刺した。


 瞬間、巨大な光の魔法陣が展開された。


「なっ」

「そうきたか」


 展開式実体魔法陣。魔導具などを使用せず、自身の魔力のみで術式を構築、実体化させる高等技術だ。それを短時間で魔法陣を完成させた。


 そして、ナタリアがやろうとしているのは召喚魔法だ。


「来なさい――〈純白に輝く(エレメンタルストーン)大結晶精霊(・エルダーヴァイス)〉ッ!」


 ナタリアが召喚したのは、一〇メートルを優に超える巨大な白い結晶体だった。だが、ただの結晶体ではない。あの結晶そのものが魔物だ。それも危険度S級ランク。


「マジかよ。結晶の魔物、それも白、幻の存在、本当に実在してやがったのかよ!」


 ハルトは空想上の存在に驚愕していた。それはリックも同じだった。


 結晶の魔物は、浮遊する結晶体であり、クラゲのように大地を漂っている魔物だが、存在するだけで災害を引き起こす存在として恐れられている。


 結晶の魔物は基本的になにもしてこない。魔力を蓄積し、放出する、という行動を繰り返しているだけだ。しかし、その魔力の放出が爆発に匹敵し、町一つ簡単に吹き飛ぶ。


 魔物には悪気はない。ただの習性だ。

 前向きに考えるのであれば、ただのデカい資源。だが、同時に生きる災害でもあるのだ。


 そして、結晶の魔物には様々な色が存在する。その中でも特異な存在が、リックたちと対面している白い結晶体。あれは〝白漂領域〟で採集できる白い魔石や白結晶の類が魔物化したものなのだ。性質は一緒。だが、魔力補給ともなれば話はべつだ。


「なるほどな。白結晶ならロスなく供給できるってわけか」


 白い魔結晶は、その純粋な魔力を供給できる。どんな色にでも染まるなら、どんな用途にも使える。自身に魔力供給するなら白結晶ほど適しているものはない。


 召喚された魔物から、ナタリアへ膨大な魔力が注ぎ込まれていき、完全に回復した。


「――ッ!」


 リックはナタリアから圧迫感を感じた。魔力が全回復したと同時に彼女の雰囲気が変わった。目つきも先程より鋭くなった。そして、彼女から放たれる魔力の波が変化した。


「覚醒状態……〝ハイスペッカー〟と呼ばれる者の固有能力です」


 すると、ナタリアがリックの感じた違和感の答えを教えた。


「どういうことだ?」

「スキルによくある特殊状態になったみたいだ」

「マジか。そんなのがあるのか」


 あまりピンときていないのか、ハルトの反応は淡白だった。


「ここからが本番です。終わらせましょう」


 ナタリアはそう言って大杖を構え直した。


「リック。お前は準備しとけ。丸腰じゃ心もとないだろ?」


 ハルトは持っていた機械仕掛けの盾から片手直剣を抜刀した。


「やれるのか?」


「おいおい。リックのダチがあんなので怖気づいてられるかよ。俺は平気だ。これでもA級冒険者で、複数職業(マルチジョブ)の持ち主だ。時間稼ぎくらいお茶の子さいさいだ」


「……。わかった。なるべく早く戻る」

「おう。ごゆっくりぃ」


 リックは仲間を信じて後方へと下がり、余裕の笑みを浮かべながらハルトは前衛へと歩いていく。リックは輸送車の前で待機しているカンナのもとへ立った。


「準備はできてる。いつでもいけるよ」

「頼んだ」


 リックはそう言ってカンナに背中を向けた。カンナは魔導巧機重鎧00号機を動かして武装パックの換装作業に取りかかる。


 その間もハルトは余裕そうな笑みを浮かべながら剣を手を中心に回し遊ぶ。

 ナタリアの後方にいた結晶の魔物は役目を終えて消えた。


「初めての〝ハイスペッカー〟との戦いだ。どれだけ通用するのか試させてもらうぜ」


 ハルトはそう言いながら剣を構え直して地を蹴った。



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