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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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70. 二人目のハイスペッカー

 レイテコル鉱石山脈方面に向かうリックたちは平地を走り抜けていた。


 魔術師の、魔力の残滓を視認する技術を使って、使徒の残滓を見つけ出し、それを追っている最中だ。道はミガル王国、はたまたアルトラン公国からは大きく逸れ、草木に生えない灰色の平地が山脈まで続く、道なき道を使徒は進んでいた。


「にしてもあの白いのはなにをする気だ? こっちにはなんにもないぞ」

「山脈の麓にある町、ってわけでもなさそう」


 ハルトとカンナの二人は白陽の使徒の意図がわからず、不思議そうにしていた。


 なにもない灰色の平地。遺跡も迷宮もないただの平地。使徒はなにを考えているのか、皆目見当がつかなかった。


「にしてもヤケに準備が良かったな。どこか冒険にいく予定でもあったのか?」

「使徒が現れる数日前に、似たようなヤツを出会ったことがある」


「なに!? 白いのと出会ってたなんて初耳だぞ!? そいつは味方なのか?」

「味方だと思う。敵感知スキルも反応しなかった」

「なら安心か」


 胸に手を当てて安堵するハルト。まあ無理もない。魔物を通さない都市を使徒が平気で徘徊していたら安心して夜も眠れないだろう。


「そいつに忠告された。今のうちに準備しておけってな」

「ああ。だからあんな急だったんだ」


 あの夜の出来事から、リックは翌日からカンナに無理を言って備えた。なにもなければそれでよかった。だが、こうして起こってしまった。


「まっ、そのおかげで早く動けのはかなりデカいぞ。ここで一気に差をつけ――――」


 バンッッッッ、と突如として側面から強い衝撃を受け、自動車は大地をボールにようにバウンドを繰り返しながら転がって横転した。


「痛ったぁ……。みんな大丈夫?」


 頭を抱えて車内から這い出たカンナは二人に訊いた。


「なんとかなぁ……」

「俺も平気だ。いったいなにが?」


 同じく車内から這い出たハルトとリックはそう返した。

 リックは衝撃が襲ってきた方向に視線を送ると、そこには女性が立っていた。


 槍のような大杖を持ち、セミショートの金髪を靡かせ、エメラルドのような瞳は鋭くリックたちを刺すように見ていた。おそらく、強襲してきた張本人だ。


「おいおい。なんで聖女がいんだよ!」

「聖女? まさか、山脈の向こう側にある都市国家の」

「そうだ。通称、〝絶対領域のナターシャ〟。ハイスペッカーと言われてる神聖術師だ。ちなみに言うと、ナターシャは愛称で本名はナタリア・フォルトーナだ」


 ハルトはナタリアをそう呼んだ。カンナは唾を飲みこみ、「あの人が、聖女」と言った。


「つかなんで、あの聖女が俺たちを襲った?」

「わからない。だが、尋常じゃない敵意を向けられているのは確かだ」


 聖女が人を襲うということは悪人が魔物でもなければ起こらない。だが、現に目の前の聖女は明らかな敵意を向けている。おたがいに山脈を隔てた関係で。接点のない関係であるのにもかかわらず、挑発したわけでも、決闘を申し込んだわけでもなく敵対している。


 理由もわからずにいると、向こうから近づいてきた彼女からその答えが出た。


「リック・ガルートン。およびその仲間たち。我が友、ザルツブルグの聖女からの助けを受け、白陽の使徒の協力者であるあなたたちを、このナタリア・フォルトーナが討伐する」


 ナタリアと名乗った女性の言葉に三人は驚愕した。


「と、討伐だって!?」

「ちょ、なにかの間違いじゃないのか?」


 ハルトとカンナは問いかけるが、彼女は言葉の変わりに槍のような大杖を向けた。


 話し合いには応じない、という断固たる意志が彼女にはあった。それに彼女はザルツブルグの聖女と口にした。ザルツブルグで聖女と言えば二人。エリナとは面識がないから省くとして残りは一人。ミアはナタリアと面識があるだろうし、使徒に関しても知っていてもおかしくはない。だとすると、ミアがナタリアを呼びつけたことになる。


 最悪だ。よりにもよって〝聖女兼ハイスペッカー〟を利用してきた。異性として好きなグランのためとはいえ、あいかわらずやり方がえげつない。リックが知るかぎり、昔から感情的なミアはいつでもそうだった。


 使徒の協力者と疑われている以上、誤解を解くのは困難と悟ったリックは覚悟を決めた。


「戦うしかないようだ」

「そうなるよな。誤解を解くって雰囲気じゃなさそうだし。腹を括るかないか」


 リックは収納魔法から魔導巧機重鎧を装備し、ハルトは盾から剣を引き抜いた。


「カンナは後ろで待機……その間に輸送車を起こしてくれ」

「わかった!」


 瞬間、ナタリアは杖の先端をリックたちに向け、


「――〈ライトニング〉」


 電撃魔法を行使した。杖の先端から放たれた電撃はリックたちを捉えた。

 そこへハルトは前に出て、剣で雷を受け止め、


「――〈雷返し〉ッ!」


 ヒノワのスキルを発動して流すようにナタリアに電撃魔法を返して直撃した。


「これがヒノワ魂じゃァ!」


 ハルトは得意げにそう叫んだが、撃ち返された電撃を受けたナタリアは無傷だ。その様子にハルトは溜息を吐き、「ダメか」と呟いて剣を肩に置いた。


「これで倒せると思ってないけど、さっきのおかえしはできただろ」

「そのおかげでお前も目をつけられたようだ」


 リックはそう言いながらウェポンパックを動かし、左側武装の装置がカートリッジ式蓄積魔導剣を固定鞘から引き抜いて装備する。


「ハルトもここで待機してくれ。いざっていうときに支援してくれると助かる」

「あいよ。ハイスペッカーの戦いがどんなものなのかわからんしな」

「すまない」


 リックはそう言って走り出す。最初からスキルなしの全力疾走。三桁を有に超える速度で肉薄し、魔導剣を構え、剣スキル〈スラッシュ〉を繰り出す。


 刹那、カーンッ、と魔導剣は視えない壁に阻まれた。金属に叩きつけたような感触がリックの手に伝わり、リックとナタリアを阻む透明な壁は一度だけ波打った。


 次に、〈スパイラル・ピアス〉という螺旋を描く刺突技を繰り出すが、それも防がれ、火花が散るとともに波打った。


(硬いな)


 リックはそう思うなか、目の前のナタリアは微動だにしない。リックは次の行動に移行しようとした瞬間、周囲が赤みを帯び、次第に黄色味が出始めた。


「――ッ!」


 瞬間、バンッ、と爆発した。硬いなにかがリックの全身に衝突した。そして、吹っ飛んだ体は地面を転がり、減速するたびに透明な物体に押し出されるように体が飛んでいく。


 まるで自分が弾丸にでもなったのようだ。


 巨大な岩にめり込んで、ようやく止まった。リックが立ち上がろうとした瞬間、視界に光に反射して透明な壁が物凄い速さで突っ込んできた。


 リックは咄嗟に高出力スラスターを起動して、地面を滑るように回避した。間一髪でお攻撃範囲から抜け出した瞬間、岩場に巨大な大穴が空いた。


 強風に煽られて体制を崩したリックはスラスターを停止し、地面を転がって着地した。


「危なかった」


 リックはそう言いながら魔導剣をパックに戻し、魔導軽機関銃を装備した。


 ナタリアは一歩も動いておらず、足先がリックに向いているだけだ。リックを襲ったのは魔力障壁。つまり防御魔法だ。極薄の板を何重層にも重ねて彼女は射出している。おそらく、防御魔法〈バリア〉と〈マジックシールド〉、その他諸々の防除魔法も併用したナタリア独自の防御術と考えるべきか。それを攻撃手段として彼女は利用している。


「防御魔法による圧殺攻撃。まともに受けたくはないな」


 リックはそう呟いて回り込むように走り出す。今度は距離を置きながら攻撃を試みる作戦だったが、そこで動かなかったナタリアが動いた。


「――〈アクセル〉」


 ナタリアが移動魔法の〈アクセル〉を行使し、リックと並走した。


「なっ!」


 意表を突かれたリックは即座に大盾を構えてスキルを発動しようとしたが、作ってしまった一瞬の隙をナタリアは見逃さなかった。リックの懐に潜りこみ、素手で鎧に触れた。


「――〈ミステリアルバースト〉


 魔力を直接送って爆発させる魔法がリックに炸裂した。

 バンッ、と吹き飛んだリックは地面に激突し、数回転がった後に足をついて止まった。


「外側で弾けた。その職業(ジョブ)で魔法防御が高い……さすがといいますか、対策はしっかりしているのですね。そのミスリルの鎧はファッションではないみたいで安心しました」


「先輩〝ハイスペッカー〟にそう言ってもらえるとは光栄だ」

「それはよかった。でも残念だけど、君は〝ハイスペッカー〟じゃない。強いけど」

「元よりそんな自覚はない」


「そう。それじゃ、すぐにでも倒れてくれるとありがたいんだけど?」

「そうもいかない理由があるんだ」


 ナタリアは「そう」と短く答え、障壁をリックに撃ち込んだ。


 リックは即座に回避して、回り込むようにして、最大発射速度一五〇〇発に設定した魔導軽機関銃の引き金を引いた。


 連射された弾丸は容易にナタリアの魔力障壁を破壊した。パリンッ、とまるでガラスのように砕け散る光景に彼女は驚いた表情を浮かべた。


 リックは引き金を引いたまま、次々と何重層にも展開された障壁を破壊していく。ナタリアの展開する防御魔法とリックの魔導銃の弾丸は同じ魔法のものだ。形が違うだけでも殺傷能力でいえばリックの弾丸のほうが上だ。


「その魔導銃の弾は私の展開する防御魔法と同じものですか。世の中には面白い発想力を持つ職人がいるものですね」


 ナタリアがそう言うと、魔力障壁の強度が増した。すぐに破壊することはできなくなったが、数発ほど当たればまだ破壊は可能だ。しかし、このままではジリ貧だ。


「次はこっちからいかせてもらうぞ!」


 リックはそう言って、銃から剣に持ち替えて突進する。ナタリアは無駄だと言わんばかりに障壁を展開した。だが、リックの渾身の一撃は重なっている障壁を破壊した。


「なっ」


 驚愕するナタリアを一瞥し、リックはさらに剣を振るう。ガンッ、と固いものを叩く感触が立花を襲った。さらに強度を上がった魔力障壁のようだが、リックもさらに力を加えて押しこむ。徐々にヒビが入り、砕けた。


「なんて力」


 だが、ナタリアは驚く表情を見せているが、その顔には焦りというものは含まれていない。意外だったくらいの反応だ。


「――〈アースランス〉ッ!」


 リックは強く踏み込み、地面へと魔力を流し、土の槍を放つ魔法〈アースランス〉を行使する。だが、地面から突き出た切っ先鋭き一撃は、ナタリアには届かない。


「物理と魔法、どちらにも対応してるのか」


 防御魔法は結界術に分類される。一枚の光の板、魔力障壁はそれの初級技術だ。そして、魔力障壁や結界は物理系と魔法系の二種類が存在する。ワンチャン、何重層にも魔力障壁を展開している複雑な術式なら、同時に展開できないとリックは予想したが、その考えは甘かったようだ。相手はハイスペッカー。両方を使えても不思議ではない。


 リックは飛ばしてくる魔力障壁を回避し、魔導剣を障壁に突き刺す。すると、何重層にも重なっていた魔力障壁に刺さった。瞬間、真横から魔力障壁を叩きつけられて魔導剣がテコの原理で折れてしまった。


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