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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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69. 都市国家サーテレリアの聖女

 これは少しだけ昔の、ある聖女のお話。


 あるところに、親を少し前に泣くし、孤児となった少女がいた。途方に暮れていた少女は、人気のない道端で見つけた壊れた祠に祈りを捧げて聖女になったという。


 神託はざっくり言うとこうだ。


『自由に生きて。ですが、聖女とバレてはならない。不幸になる。あなたは未来に必要だ。だから力がつくまでの間、私が導いてあげます』


 神様は最初に『近くのお屋敷にいき、聖女と名乗り、娘の病を治してあげるのです』と少女に告げた。少女は神様の神託どおりに動いて大人になっていった。


 時が経ち、自立した聖女が一五歳となり、従者を連れて定住の地を探して旅に出た。

 そんなとき、聖女はミガル王国から西北に存在する荒れた土地に立ち寄った。


 そこはかつて、百階層も続く迷宮が存在し、燃料として魔結晶の一大産地だった。


 だが、過剰な採掘、心臓部からのパイプでの汲み上げによって巨大な迷宮は枯れてしまったのだ。そのせいで土地は荒れ果て、水は枯れ、緑が消え、資源を採り尽くした土地は王国の地図から町もろとも抹消されてしまった。


 職を失って路頭に迷う住民、流れ着いた犯罪者に満ち溢れた町。

 秩序と呼べる物が一切なくなった町で聖女は、


『諦めちゃダメ。私がなんとかするから、この町を復興させましょう!』


 胸を張って聖女はそう宣言した。だが、そんな復興計画も野盗が邪魔をした。

 聖女はなぜ野盗がいるのかと思った。野盗たちは片腕を欠損した者ばかりだ。


 もしかしたらそれが原因か。なら原因を排除してしまおう。と思い至った聖女は、野盗たちの片っ端から腕を治していった。というより生やして元通りにした。


 最初、野盗たちは理解できなかったみたいだったが、元に戻った自分の腕を見て、歓喜し、聖女に感謝し、野盗たちは心を入れ替え、絶対的な忠誠を誓った。


 そして、野盗たちを仲間にした聖女は、街の復興に尽力した。大地に奇跡の力を使い、雨を降らせ、かつての緑豊かな土地を取り戻した。そして、枯れたあの迷宮を復活させた。


 それからも、聖女と住民たちの大躍進は続き、食糧問題を解決し、居場所を追われた者たちを受け入れ、町を拡大し、気づけば都市国家として成立させた。


 それも、ここ十年の間の話だ。


 以降も、聖女はその都市国家に腰を据え、悠々自適に暮らしている。


 ――


「以上が、聖女であらせられるナタリア様が成し遂げてきた偉業にございます」

「先程から誰と話しているのですか?」


 専属メイドの独り言に聖女ナタリアはそう言った。

 聖女専用の大浴場。一仕事を終えたナタリアは汗を流しているところだった。


 ナタリア・フォルトーナ。二六歳女性独身。聖女。身長は一六七センチ。小麦畑のような金髪のセミショート。エメラルドのような澄んだ瞳。卵型の小顔に添えられた桜色の唇。


 肩幅は狭く、華奢な印象を与えるものの、ほどよく引き締まった肉付きの身体に映えるきめ細やかな白い肌は、名だたる芸術品を彷彿させ、喉を鳴らなざるにはいられない。


「そんな柔肌から実ったCカップの胸と、絶妙なお尻回りは世の男と女を狂わせる」

「私の体を見ながらなにを言ってるのですか」


 浴場から出たナタリアは、無表情でまじまじと見つめるメイドから体を隠した。


 専属メイド、カレン・ダーヤホン。切れ長の茶色の瞳。暗い茶髪ロングをハーフアップにしている。身長はナタリアより若干高く、豊かな胸の持ち主だ。とある領主とメイドとの間にできた娘であり、出会って以来ナタリアにつかえている。


 カレンは少しおかしい。頭のネジも飛んでいる。長年の付き合いということもあってナタリアは気にしていないが、問題視するならカレンが持つ射影の魔眼だろうか。


 カメラ機能のような代物で、魔眼を通して見たものを完全記憶する魔眼。今も体を拭いているナタリアを見ながら、カレンは無表情を保ちながら盗撮している。


 魔導具を使えば現像できるため少々厄介だ。現状、私的利用以外での配布はしていないし、誰にも気づかれていない。それに毎日身の回りのお世話をしてもらっている手前、これも彼女なりのご褒美になるならとナタリアは見逃している。


「お腹すいたぁ。今日のお昼はなぁに?」


 着替え終えたナタリアは、カレンに今日の献立を訊いた。


「はい。今日はナタリア様の大好物のアパラガスのベーコン巻きでございます」

「やった!」


 無邪気に喜ぶナタリアの姿は、聖女には見えず、普通の女の子のようだ。


 ナタリアは取り繕わない。聖女らしい振る舞いをしない。なにを言われても公共の場限定の形式のみ。あとは関係ないと言わんばかりに好きなようにしている。


 この都市〈サーテレリア〉でおいてもそうだ。聖女として敬意を払われることはあっても、住民たちとは和気藹々とした交友関係を築いている。


 誰もが思うような聖女象とは、かけ離れた聖女である。


 テラスに移動し、カレンが用意したアパラガスのベーコン巻きをナタリアは美味しそうに食べた。「うーん♡」と唸りながら頬に手を当て、次を口に入れる。


「今日はとれたて新鮮なアパラガスが届きましたので、たくさん作りました」

「アパラガスは鮮度が命だからねぇ」


「ナタリア様はいつも美味しそうに食べますね。作り甲斐があります」

「そう? カレンの料理は美味しいからねぇ」


「私はナタリア様も美味しく調理して食べたいです」

「主食はないのかしら?」


 完全に流されたカレンは目に涙を浮かべながら焼き立てのパンを出した。


「ナタリアさん。お食事中すみません」


 すると、領主であるルーカスが顔を出した。


「こんにちは。ルーカス。今日はどうしたのかな?」


 彼とは都市国家ができる前からの旧知の仲。昔、荒廃した町を仕切っていた野盗のリーダーだ。片腕を失い、職を失い、生きるために野盗になった男だ。


 今では領主と大出世を果たし、住民からの支持も厚い。本当ならナタリアが領主になる予定だったが、嫌がったのでなし崩し的に領主になった経緯がある。

 そんな彼は、一通の手紙をナタリアに渡した。


「これは?」

「ザルツブルグの聖女からです」

「ホントに! 最近ぜんぜん手紙が来ないから心配してたのよ」


 目を輝かせながらナタリアは手紙を受け取って封を開けた。


「初めて出会ってからもう数年は経つのか。人生って早いなぁ」

「はっはっはっ。それを言うには若すぎやしませんか?」

「そんなことありません! 二六歳はもうおばさんも同然です!」


「そ、そうですか……」


「これでも迷ってるんです。三十を超えたら年齢を非公開にしようかなって。私が長寿とはいえ、リアルな数字はちょっと恥ずかしい」


 頭を悩ませるナタリアに、ルーカスは苦笑いを浮かべた。


「それより、読まないのですか?」

「あっ、そうでしたね。お姉さん元気にしてるといいのだけれど」


 そう口にしながらナタリアは手紙を読み始める。


「そういえば最近、ザルツブルグで二人目の聖女が現れたみたいなんです」

「みたいですね。近いうちに時間を作って会いにいきたいですね……」


 ルーカルと会話をしながら手紙を読んでいたナタリアは、ある文面が目に入った瞬間、目を見開いて、ばっ、と椅子から立ち上がった。


「なんですって!」


 ナタリアの只事ではない反応にルーカスも横から手紙を確認する。

 手紙の内容には、〝白陽の使徒〟のことが書かれていた。それも最近、S級冒険者となったとされるリック・ガルートンが手引きしていることが書かれていた。


 そして、使徒の写真まで同封されていた。


「信じられない。あの〝難攻不落のリック〟が使徒に協力しているというのですか?」


「そういうことでしょう。元パーティメンバーが説得を試みたみたいですが、怪我を負ってしまったみたいです。この写真を見るに事実なのでしょう」


 ナタリアは急いで昼食を食べ切った。


「いくのですか?」


「もちろんです。あれを倒すのが約束ですから。交渉の余地はなし。接敵と同時にリック・ガルートンを叩きます。――カレン、準備を!」


 カレンは会釈してナタリアの武装を準備してくれた。


 白と青紫を基調としたの武装。スレッドの入ったロングワンピースの上にフード付きスカプラリオを身に纏い、ベルトと金装飾とハイサイソックスとロングブーツを装備。


 そして、ナタリアはカレンから変形機構を備えた槍のような大杖をもらった。

 円形状の部品に魔核石がはめこまれており、先端は槍のようになって片方側面には小さな槍が四本ほど飛び出ているようなデザインとなっている。


「わたくしも準備ができ次第、ナタリア様を追いかけます」

「わかりました。ですが、無理だけはしないでください」

「承知いたしました」


 カレンはそう言って準備をするために室内へと戻っていった。そして、ナタリアはルーカスとともに庭園の広場に出た。


「ルーカス。私が留守の間はサーテレリアをお願いします」

「おまかせください」


 ルーカスはそう返して、近くの仕掛けを作動させた。

 すると、地下に続く通路が現れた。それはナタリアが単身で出陣するための地下通路。このまま都市を覆う結界の外に出られるのだ。


「プロテクトプレート解放完了しました。いつでも出られます」


 ルーカスがそう言うと、ナタリアは地下通路の前に立つ。


「いってきます――〈アクセル〉ッ!」


 ナタリアは移動速度を上げる魔法〈アクセル〉を行使し、地下通路を一気に走り抜けた。

 徐々に速度を上げていき、時速二〇〇キロが超えた頃には地下通路を抜けた。


 レイテコル鉱石山脈へと向かい、正規ルートを無視して山脈へと向かう。平坦な地形が続くため目的地まで一時間もかからない。


 そして、山脈にもうまもなくというところで、ナタリアはある魔法を行使して、不可視の物体を踏みこんで跳躍する。さらに不可視の物体を展開と同時に風魔法も使用して飛び、山脈の獣道に着地した。息切れもせず、涼しい顔をしながら岩場を駆けていく。


 途中、魔物と遭遇するも、ナタリアの間合いに入った魔物は、視えない壁に払いのけられ、次々と岩場に叩きつけられていった。


 ナタリアは顧みない。ただまっすぐ、リックのいるザルツブルグへと向かう。


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