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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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66. 体温

 

 カンナとエリナの二人は、ハルトからお好み焼きを購入後、ほかの露店も見て回り、食べたい物を次々と購入して、小高い丘のベンチで食事をした。二人してわりと食べるほうなので、食事はあっという間に終わり、食後休みに景色を眺めていた。


「美味しかったねぇ」

「そうですね」


「エリナちゃんは今日食べた中で一番気にいったものとかある?」

「どれも美味しかったですが、強いて言うなら、お好み焼きがとくに美味しかったです」


「確かに美味しかったよね。ハルトって料理上手だったのか意外だったかも」

「わりとリックさんのご自宅に来る際、差し入れに手料理を持ってきてくれますよ」


「ふーん。なんだか通い妻みたい」

「ハルトさんは男ですよ」


「エリナちゃんは知らないかもしれないけど、世の中には同性愛というものがあるんだよ」

「同姓で愛し合うことが……世の中は広いですね」


「まあ、リックとハルトの場合、どっちもノンケだろうけどね」

「ノンケ?」


 初めて聞く単語に首を傾げるエリナ。新鮮な反応をする彼女にカンナは笑みを浮かべた。


「そういえば、ザルツブルグでの生活はもう慣れた?」


「はい。リックさん、カンナさんを含め、いろんな方々が手を貸してくれましたので、こうやってなに不自由なく過ごせています。とても、優しくしてくれました」


「戸惑うことも多かったんじゃない?」


「そうですね。見るものすべてが初めてで、多種多様な種族同士が手を取り合い、複雑に絡み合っている。私には想像もつかなった光景です」


「この都市はどこよりも特殊かもね。でも、私はこのザルツブルグが大好きなんだ。一部を除けば良い人ばかりだし、美味しいご飯がたくさんあるし、ほかの都市に住みたいとか全然おもわないし。エリナちゃんにももっとこの都市を好きになってもらいたいな」


「はい」


 他愛ない会話を弾ませながら、のどかな時間が過ぎ去っていくのをただ楽しむ。雲に隠れていない太陽が照りつける世界は澄み渡り、風が運ぶ暖かな空気が顔を撫でるたび、食後ということもあってか少し眠気を誘ってくる。


「この都市ではいろんなことを学ばせていただきました。冒険者の心得に戦闘、生活に必要な知識と。といっても、私が一番に学ばなければいけなかったのは常識でしたけど」


「最初の頃ねぇ。男に誘われたら断らずに連れられていかれそうになった時は怖かったな。マジか、とちょっとドン引きしたときもあったし」


「あの時は本当にご迷惑をおかけしました」

「いいって。リックからは事情を聞いてたし、なにせあの旧時代の宗教となればね」


「……。そうですね。私のいた場所はこの世界からすれば邪教の巣窟ですから」


「エリナちゃんが染まり切ってなくてホントよかったよ。染まり切ってたら世界がどんなふうに見えてたか、怖くて想像もしたくないな。こんなふうにも話せなかっただろうし」


「……、」


 空を流れていた小さな雲が太陽を隠し、カンナたちのいる丘に影が落ちる。


「いっこ聞いていい?」

「……。なんでしょうか?」

「エリナちゃんって自分の気持ちを隠そうとするよね。気持ちを表に出すのは、怖い?」


 カンナの問いに、エリナは太陽が射す彼方を眺めながら口を開く。


「……。よくわかりません。でも、これは、癖、といったほうがでしょうか」

「癖?」


「私がいた寺院では、会話を制限されてしました。意見も反論ももってのほか。もし逆らえば痛みによって教え込まれます。二度と口を出さないように」


「なに、それ……」

「それが寺院の教えです。私は天にも親にも見放された存在のようなので」


 抑揚のないエリナの言葉は続く。


「シスターフッドは私にこう言いました。『あなたは天にも親にも捨てられた存在。誰も必要としないと下された、生きているだけの罪人。あなたの声も、感情も、行動も、その無駄に発育した肉体も、等しく無価値。それでも生きたいと願うなら従いなさい。あなたの価値なんてそれくらいです』と」


 エリナの脳裏に浮かぶのは、氷のように冷たい目を向けるシスターフッドの姿だ。エリナに告げる言葉すら無駄な労力と言いたげな声音で言われ続けられた記憶。思いだすほど心が締めつけられる思いをしている。だが、時が経つにつれてそれに慣れてしまっていた。


 カンナはそれを、なにか言うわけでもなく聞き続けた。


「私は否定され続ける存在。それが私のあたりまえ」


 エリナは過去を語りながら微笑んだ。まるで懐かしむように。


「誰かのためであれ。見返りを求めるな、とも言われましたね。私も誰かの助けになるのならそれでよかった。でも、同時に寺院への疑問も大きくなっていったわけですが」


 そして、言葉を続ける。


「ですから、ザルツブルグに来て、肯定されたような気がしました。こうして食事をして、喋っているだけなのに、こんなにも心穏やかなことが心地よくて安らぎます」


 エリナがカンナに視線を送ると。


 じょばぁぁぁぁ、と滝のような涙を流すカンナの姿がエリナの視界に入った。


「あの、どうして泣いてるのですか?」


 エリナは戸惑いを感じながらも、平然とした口調で訊いた。

 その間も、カンナは鼻を啜りながら口を開く。


「私、そんなこと言われて育ったことないからっ。悲しくて。悔しくて。エリナちゃんんはこんなにも素直で良い子なのにっ。平気な子になっちゃったんだねっ」


 カンナは涙を拭いながら、啜りながら、エリナを強く抱きしめた。


「あの、どうして、抱きしめるのですか?」


「へへっ。小さい頃、一番上のお兄ちゃんがよくしてくれたんだ。辛いとき、こうしてくれると、とても落ち着くの」


「そう、ですか……」


 エリナはただカンナに身を任せる。だけど、それは従順であることを命じられた自分ではなく、心から、彼女の包容を受け入れていた。力強く、それでいて優しい包容。他人から抱き締められるのは生まれて初めての体験だった。


 この後、自分はどうすればいいのかわからなかった。


 わけらないけど、このままでいい、ともエリナは思った。エリナの中で冷たいなにが溶けていくようで、ほぐされていくようで、それが心地よくて、


「……人の体温って、思ったより熱いんですね」


 自然と涙が出た。


 ――


 しばらくして、カンナは目を擦りながらエリナと小高い丘を降りていた。


「うぅ……。ごめん。一人で泣いちゃって」

「ふふっ。平気です。むしろなんだか心が軽くなった気がします」


 エリナは微笑しながらそう言った。その笑みをカンナは見逃さなかった。


「今、笑ったよね? 笑ったでしょ!」

「は、はい。笑いました」


 カンナの指摘に、エリナは驚きながらそう答えた。


「やっぱり! へへぇん。リックより先に良いの見ーちゃった」

「そんなによかったですか?」


「そりゃそうでしょ。心から笑ったエリナちゃん初めて見たんだもん」

「そう、ですか」


 エリナが短くそう言うと、また柔らかい微笑みを浮かべた。

 そんな姿にカンナも笑みが零れた。彼女の微笑、そのわずかな変化に嬉しさを感じながら、帰ったらリックに自慢しよう、と心躍らせた。


 だが、それも長くは続かなかった。


 刺すような視線と気配。それが二桁を超える人数が、カンナたちを囲っていた。

 カンナが気配を感じ取って振り返ると、白いフードに身を包んだ者たちがいた。そして、エリナが不思議そうに振り返った。


「どうしましたか?」


 そう訊ねたエリナの背後に一人の影が立った。それに気づいたカンナたちが振り返った瞬間、エリナは怯えたようにその人物を見上げた。


「シスターフッド」


 エリナはそう言った。それは彼女の口から何度か聞いた人物、それもエリナという存在を人格を否定し続けた張本人であった。


「この人が、あの……」


 白い正装、肌を見せないその服装の人物を見ながら、カンナが呟いた瞬間、シスターフッドは持っていた棍棒でエリナの顔面を殴りつけた。


 どすっ、鈍い音を立てながら倒れそうになるエリナをカンナは支えた。


「なにするの!」


 カンナは怒声を上げ、収納魔法から武器と、魔導巧機重鎧00号機を取り出した構えた。

 だが、シスターフッドは意に返すことなく、棍棒を振るった。

 瞬間、カンナたちと、シスターフッドの間に一つの影が入り、棍棒を受け止めた。


「そこまで」


 その者はハロルドだった。


「えっ、誰?」

「初めましてかな。カンナさん。私はハロルド。教会で牧師をしています」

「シャスティルハーニャ教の……なんでここに?」


 いつもなら教会にいる者が、こんな人気に出るはずがない。


「いま街中では白いフードに身を包んだ連中が現れて、プチパニック状態なのです。嫌な予感がしてエリナ様の安否を確認すべく、馳せ参じたというわけです」


「そんなのに、様づけ、とは。随分と良いご身分になったのですね。エリナ」


 先程まで喋らなかったシスターフッドがそう言った。


「そんなとは、失礼なご婦人だ。彼女はシャスティルハーニャ教が庇護する聖女であらせられる。古巣とはいえ、侮辱は許しませんよ?」


「それが、聖女に?」


 不思議そうに怯えるエリナを睨みつけるシスターフッド。カンナはそんな彼女を睨み返した。カンナの手に伝わるエリナの震え。どれだけこの者に恐怖しているのかがわかると同時に怒りが湧いてきていた。


 一触触発の状態。だが、それを諫めたのはハロルドだ。


「頭があっぱっぱらぱーでないのでしたらどうでしょう? ギルド本部でお話合いといきませんか。後ろに隠れてる白いの」


 すると、白いフードをかきわけて、それは姿を現した。


 純白の髪。白磁の肌。そして、目の白い部分が反転したかのように黒く、その中央には琥珀色の瞳。アルビノ、とは少し違うその男は不気味な笑みを浮かべた。


「失礼なものいいですね。でも、良いでしょう。その話、乗りましょうか」


 そう言って純白の男は両手を広げ、


「私はアルブ。君たちが邪教と呼ぶ組織の頭だ」


 アルブと名乗った。




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