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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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65. 各々の休日

 リックが白影の使徒と呼ばれる者と出会った数日後。

 蒼く澄み渡った空が広がり、周囲の色が鮮明になった一日。


 ここ数日、リックの要望で大急ぎで準備をしていたカンナは大きくあくびをした。

 今日は、エリナと遊ぶために広間で待ち合わせている。リック抜きの女子二人で。


「……。あっ、やっほー。エリナちゃん」


 ザルツブルグではなかなかお目にかかれない銀髪の女性が近づいてくるのを見て、それがエリナだと確信したカンナは、ぴょんぴょん、と跳ねながら手を振った。


「おはようございます。カンナさん」

「おはよぅ」


 軽く会釈をしながら丁寧に挨拶してくれるエリナに、カンナも挨拶を返した。

 今日のエリナは、いつもの白を基調とした冒険者装備ではなく私服だ。


 上から縦線の入ったセーターの上に上着を羽織り、ロングスカート、ロングブーツを履いている。色も白以外の色も取り入れ、全体的に落ち着いた雰囲気に仕上がっていた。


 舐めまわすようにエリナの服装を見て、満足したカンナは明るい笑みを返す。


「その服、似合ってるね」

「ありがとうございます」


「アメリアと選んだの?」

「いえ、服選びはリックさんが協力してくれました」

「うっそ!? あのリックが!?」


 普段からファッションセンスが疑われるような服装のリックが選んだ。その事実に驚愕するカンナ。驚きのあまりもう一度エリナを見ると、化粧をしていることに気がついた。それと、爪も手入れされており、艶々としていた。


「そういえば女性の知り合いが多いんだっけか……」


 冒険者一筋リックの顔の広さを改めて思い知らされたカンナ。同時にどれくらいの交友関係があるのか気になってしまった。


「カンナさん?」

「あっ、ごめんごめん。それじゃいこっか」

「はい」


 カンナは今日のプランはなく、適当にぶらぶら歩いて遊ぼう、と考えている。さっそく思いついた外部からの商人が集まる市場に向かおうしたと矢先だ。


「姉ちゃんたち。女子二人で遊んでんのぅ?」

「俺たちと遊ばね」


 おそらく外部から来た冒険者であろう二人組がカンナたちに話しかけてきた。これはあれだ。ナンパだ。そうわかった瞬間、カンナは溜息を吐いた。


「嬉しいお誘いですが、今日はカンナさんと遊ぶ約束をしていますので」

「そんなこと言わないでさぁ。一緒に遊ぼうよぅ」


 そう言いながら男はエリナに肩を回そうとした。


「エリナちゃんから離れて!」


 カンナはそう言って男を突き飛ばし、エリナを抱き寄せた。


「痛てぇな。おい。ああ、こりゃ、あばら骨が折れちまったなぁ」

「そりゃぁ大変だぁ。こりゃ、かわいこちゃんたちに癒してもらわねぇとな」


 下卑た笑みを浮かべる男二人組。芝居がかった二人の視線はエリナに釘づけだ。いや、どこかと言えば胸だが。不思議なことにエリナの魅力というのは男性女性問わず、引きつけてしまう。まるで魔法にかかったかのような。


 それはいい。まずは目の前の男をどうにかすることに専念するか、とカンナは溜息まじりに前に出て男たちを挑発する。


「まどろこっしいから、全員でかかってこい。私に勝てば好きにしていいからさ」

「言ったな。小娘が!」

「ひん剥いて楽しませてもらおうか!」


 数分後。男二人組はカンナによってぼこぼこにして路地裏のゴミ捨て場に捨てられた。

 カンナはというと、無傷で屈強な冒険者を倒した。まあ、口ほどでもなかった。


「いこう。エリナちゃん」

「はい」


 気を取り直してカンナとエリナの二人は遊びに出かける。

 予定どおり市場に向かい、見て回った。


 異国の装飾品に衣服、武器に防具、魔導具や置物、食べ物に香辛料、あらゆる品物が露店に並んでいた。といってもどれも琴線に触れるような品物はなかった。


 エリナもこれといって欲しい物はなさそうだった。というよりは、興味を示す素振りは見せるものの、すぐに視線を戻して何事もなくカンナを待っているといった感じだ。


 まるで、自分には許されていない、と言わんばかりの行動をする。この行動はカンナがエリナの面倒を見始めた頃から変わっていない。彼女自身は気づかれてないと思っているようだが、おそらくリックにもバレているだろう。


 カンナはそう思うも、今は楽しむことだけを考え、ザルツブルグの武具店、服屋、道具屋、装飾店とエリナを連れていった。


「なにも買わずにいいんですか?」

「いいのいいの。エリナちゃんも欲しいのとかなかったんでしょ?」


「まあ……」

「ならいいの。ちょっと早いけど、お昼ごはん食べにいこ」


 カンナはそう言ってエリナの手を引いて露店のほうへと向かった。祭りの行事がなくても露店で商売しているところは多い。道中、手軽に食べられるのが露店の良いところ。


「今日はなにを食べようかなぁ。最近じゃ胃袋の容量増えたわけだし」


 リックと冒険をするようになってからというもの、カンナの胃袋の容量は二倍になった。彼の影響なのか、それとも冒険が影響なのかは不明だ。だがまあ、美味しい食事がたくさん食べられると考えれば特だ。


 たくさん食べるなら、一つの露店からご飯を一品ずつ買っていこうと、カンナはすたすたと最初の露店の前に立ち寄った。


「すみませーん。お好み焼き二つくださーい」

「おう、らっしゃい。すぐに作るからま――あっ」

「ん? あっ」


 露店から顔を覗かせたのは、エプロン姿のハルトだった。


「なにやってんの?」

「なにって、依頼に決まってんだろ。リックも冒険に出ないらしいから暇だったんだよ。そしたらここの大将が腰悪くしちまったらしくてな。代わりにやってんだ」


 リックみたいなことやってる、とカンナは思った。


「おっ、エリナもいたのか」

「こんにちは。ハルトさん」


 エリナは軽く会釈して挨拶をした。


「あの、つかぬことをお聞きしますが、リックさんとは一緒ではないのですか? 今日はギルドで依頼を受ける、と聞いていましたので、てっきり一緒なのかと思ってました」


 リックの予定を聞いていたらしいエリナはそう訊ねた。


「ああ。確かに会ったぞ。あいつは畑仕事だ」

「畑仕事、ですか」

「おう」


 それを聞いたカンナは、相変わらずだなぁ、と思いながら苦笑した。いつ休みを入れてるのか不明な彼は、冒険に出ない日はザルツブルグ内で依頼をこなしている。カンナが休んでいるんだろうな、と思っている間も依頼をこなしてたのだから末恐ろしい。


 だが、仕事一筋なのかと言われればそうでもなく、付き合いは良いし、面倒見もいい。でなければエリナを自宅に住まわせようとは思わないだろう。


「それで? お好み焼きどうする?」

「二つで」

「あいよ」


 ――


 一方その頃、リックはザルツブルグの外、崖下に広がる農場で、麦わら帽子を被り、肩にかけたタオルで汗を拭いながら仕事をしていた。


 収穫した作物を入れた最後のコンテナを運搬車に乗せ、昼前に作業を終えた。そして、リックは休憩用に用意された逆さにした収穫コンテナに座って一息ついた。


「おつかれさまぁ。リックくん。はい、お茶」


 声をかけてきたのは同じく休憩に入った今回の依頼主である農家の嫁であった。農作業姿のハイエルフのエイラは、冷たい緑茶を淹れた紙コップをリックに差し出した。


「ありがとうございます」


 リックはそれを受け取って、いただきます、と一言おいて一気に飲み干した。喉が渇いていたこともあって緑茶の渋みが心地よく体に沁み込んでいった。


 一息つくと、「おかわりどうぞ」とハイエルフのエイラは、カラになった紙コップに冷たい緑茶を注いでくれた。リックは、「ありがとうございます」と言ってもう一度煽った。


「いつもありがとうね。リックくんがお手伝いに来てくれたおかげですぐに終わったわ。ゴロイモにサツマハンイモ、アパラガスにキウウリ、とたくさんあったのにね」


 収穫した作物を指を折りながら数えるエイラ。


「いえいえ。こちらも貴重な体験をさせてもらってます。冒険者家業をしてると農作業に触れる機会なんてありませんから」


「リックくんは近年まれに見るできた冒険者なんですね」

「いいすぎですよ」


 エイラの穏やかな口調で褒められて、リックは笑って照れを誤魔化した。


「ちょっと早いですけど、お昼にしましょうか」


 エイラはそう言って竹の皮に包んだおにぎりをリックに差し出す。リックはそれを受け取って包みを開けて『いただきます』とおにぎりを手に取る。


 すると、エイラが大きな瓶を取り出し、蓋を開け、


「リックくん。キウウリの一本漬けをどうぞ。良い感じに漬かってますよ」


 串に刺さしてキウウリ一本まるまる漬けた漬物をリックに差し出した。


「ありがとうございます。いただきます」


 リックは受け取って一口食べる。カリッ、と爽快な音ともにほどよい塩加減とわずかな刺激がリックの口の中にに広がった。新鮮なうちに漬けたおかげで咀嚼するたびに、カリカリッ、とした歯応えが病みつきになりそうになる。


「とても美味しいです」

「よかった」


「アクセントにシシガラシを入れてます?」

「そうそう。ちょっとの辛みが癖になるでしょ」


 嬉しそうに微笑むエイラはもう一つの大きな瓶を取り出して、蓋を開けた。


「これも食べてみて。オオサトニラの甘漬け」


 そう言って割箸で掴んだオオサトニラを、「はい、あーん」とリックの口に運んだ。


 それをリックは口で受け取って咀嚼する。シャキシャキ、とした歯応えととともに強い風味と辛み、そして、ほんのり甘酸っぱい味が口に広がった。


「これは。おにぎりが進んじゃいますね」

「そうでしょ。そうでしょ。私もこれ好きなの。この二つ貰ってって」


「そんな、いいんですか?」


「貰ってって。余らすより食べてもらったほうがいいから。それにリックくんにはいつもお世話になってるし、これくらいはね」


「……。では、遠慮なく貰います」


 報酬以外に漬物までもらって申し訳ない、と思いつつも、農家の厚意を無下にもできず、リックは快く大きな漬物瓶を受け取った。


 エイラは満足げに、うんうん、と微笑みながら今度はおかずの入った重箱を開けた。


「これはおかずね。アパラガスのベーコン巻きがいっぱいあるからたくさん食べてね」

「ありがとうございます。そういえば、今日収穫物の中にもありましたね」


「そうなの。嬉しいことに聖女様がうちのアパラガスを気に入ってくれてね。定期的におろしてるの。アパラガスが大好物なんですって」


「聖女?」


「リック君は知らない? レイテコル山脈を超えた先、ミガル王国の西北くらいに位置する都市国家よ。そこはもともとは荒れた土地だったらしいのだけど、ある聖女が訪れたことによってあっという間に自然あふれる土地に変えちゃったみたいなの」


「聞いたことが正しければ、そこってミガル王国の土地だったはずでは?」

「数年前の話よ。なんでもシャルティルハーニャ教を後ろ盾にしてぶんどったらしいのよ」


「あの宗教を後ろ盾に。只者ではないようですね」

「なんでも、はいすぺっかー? らしくて、すごい結界術を使うらしいのよ」

「ハイスペッカー……」


 リックはそれを聞いて内心で驚いた。〝ハイスペッカー〟。友人にリックがその一人だと言われて以来、耳にしたことがなかった言葉。聞くまで忘れていたくらいだ。まさかこんな近くにその一人がいるとは思いもしなかった。


「すごいわよねぇ。若くしてそんな大立ち回りができるなんて。私ももう少し若かったらそういうこともできたかもしれないわねぇ」


「……。ん? エイラさん六八歳ですよね? 成人してそんな経ってなかったはず」

「あなたぁ? 私の年齢バラしたわねぇ?」


 ハイエルフの成人年齢は四〇歳。約一万年生きると言われている長寿の種族だ。そう言われてるのは老衰で死んだハイエルフが確認されていないから。おかげで平均年齢もいまだわかっていない。それはエルフも同様である。


 つけ加えるなら、ブルース地方という魔境で暮らす者たちは、土地の影響をもろに受けて平均年齢がほかの土地と違って倍だ。人間でも平均年齢が一三〇歳。しわが出始めるが八〇歳後半くらいである。


「お話しましょう?」


 エイラは満面の笑みを浮かべなら、自分の夫へと近づいていったのだった。

 どうなるのやら、と二〇代前半の夫を心配しながらリックはおにぎりを頬張った。



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