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ハイスペック・タンクウォーリア ‐コストがかかると追放された壁役重戦士はS級冒険者になって無双する‐  作者: 兎藤うと
一章 白き聖女編

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63. 悪意と失望

 路地裏の奥へ、奥へと逃げるようにして走っていくグラン。誰も寄りつかない、というか人が住んでいる気配すらない、実質廃墟の場所まで逃げてきたグランはその場でようやく立ち止まった。路地裏にグランの荒い息遣いだけが聞こえる。


 そして、グランは膝から崩れ落ちた。


『グラン。俺はお前に嫉妬していた』


 グランの脳裏に浮かぶリックの言葉。数年前から憎悪を抱いていた存在から発せられたその言葉は、今まで見向きもしなかったモノと目を合わせてしまったかのようだった。


 同じ依頼量をこなしていたはずなのに、パーティメンバーを見比べても突出して成長していくリックに、不快感を感じ始めたのは、彼が複数職業(マルチジョブ)になってからだった。


 リックの活躍は目を見張るものだった。それも有名になりつつあった『バラン・ガタッタ』というパーティが霞むほどに。


『悔しかったんだ。ただ立って壁になってることが――――』


 活躍を奪っていく悪者にして、自分の置かれている状況を把握していなかった。リックが陰で努力を重ねている間、グランは仲間と食事をして、飲んで、寝る。


 仕事以外、なにもしていない。A級冒険者に昇級してから尚更。


(じゃあなにか。俺は自分の弱さをリックを言い訳にしてたのか?)


 有名になりたい。ちやほやされたい。されて当然。故郷でも、ザルツブルグに向かう道中でも、努力しなくても難なく成果を上げてきた。剣士の上位互換である魔剣士を発現し、英雄と呼ばれたこともあった。俺なら当然だ、とグランは思っていた。


 俺を慕う仲間、良い女に囲まれ、魔物を一撃で倒す英雄になった。


 つもりだった。


 今はどうだ。自分はどう見られ、どれほど惨めな存在か、とグランは思った。


 仲間には見限られ、うち一人はリックがいたから在籍していたと言った。


「グラン……」


 追いついたミアは心配そうに名前を呼んだ。


 現実を直視して放心状態のグラン。ふと、装備している黒い腕輪が淡く黒い光を帯びた。鑑定もせず、呪いの確認だけして身につけた装備だ。


 この瞬間、そのアクセサリーの効果が発揮した。

 グランはそれに気づかない。ミアも同様にだ。


「……。違う。ぜんぶリックのせいじゃないか。リックさえいなければ俺は変わらず注目の的だった。あんなのがいたから、――俺はッ!」


 目に鋭い眼光が宿り、グランは奥歯を噛みしめた。リックが憎い。


 憎い。憎い。憎い。憎い。


 なんであんなのと一緒にいたのか、と過去の自分を呪った。


 すると、ミアがグランを後ろから優しく抱き締めた。


「大丈夫よ。グラン。私はわかってるから。あなたが強いことを」


 ミアは微笑みながら、優しい口調でグランを励ます。


「………………。ミアは、俺についてきてくれるか?」

「もちろんよ。だってあなたは、頂点に立つ男なのだから。それに――」


 ミアは不敵に微笑み、言葉を続ける。


「あいつを痛めつける、とっておきの手があるの」



 ――



 とある暗い部屋。タブレットの光が唯一の光源の一室。わずかな光が照らすのは、机上に山積みにされた本に、それらに囲まれながらタブレットで配信を視聴しているネイサンの姿であった。視聴しているのはグランが率いる『バラン・ガタッタ』だ。


 配信を見ているのは、べつに応援しているからというわけではない。迷宮産の武装を渡して以降の近況を知りたかったからで、それ以上の興味はなかった。


「やはりこうなりましたか」


 ネイサンは呆れた素振りもなく、淡々とその事実を受け止めていた。映像の中で、魔物を倒して剣を天高く掲げるグランの手にあの黒い腕輪があった。


 ネイサンがグランに譲渡した迷宮産の武装の一つだった。


「簡易的な鑑定しかしていませんが、あの魔導具には所有者の負の感情を増幅させ、ステータスを向上させる効果がありますが、同時にステータスと人格を変質させる力まで備わっている。難易度Sランクの迷宮で手に入れた装備となれば効果も強力。リックを恨んでいるグランの身にどんなことが起こっているのやら。面倒なことになりましたね」


 ネイサンはタブレットを操作して映像を止めた。


 迷宮内で産出された武装や道具は装備する前に冒険者は必ず鑑定しなければいけない。どんな効果が付与されているか不明な状態で装備するのは非常に危険だからだ。中には所有者の体を乗っ取る魔導具も存在する。最悪な状況を回避するために鑑定は必須とされている。冒険者界隈では常識だ。


 だが、それをグランはやっていない。あの黒い腕輪がすべてを物語っていた。鑑定をしていれば、身につけようとは思わない代物なのだから。A級冒険者が聞いて呆れる。


「ここまで面倒を見なければいけなかったとは。冒険者失格ですよ。グランさん」


 ネイサンがそう言った瞬間、ぱっ、と部屋に明るくなった。


 部屋を明るくした犯人はシャノンだ。

 真紅の長髪を纏め、エプロン姿で、部屋の出入り口で仁王立ちしていた。


 頬を膨らませてる姿から、彼女が怒っているのは明らかだった。それもそうだ。いつものように夕食を準備して、食卓にネイサンが来るのを待っていたのだから。


「叔父様! 何度よべば部屋から出てくるんですか! 晩ご飯冷めちゃいますよ!」

「待たせてしまい申し訳ない。今いきます」


 ネイサンはそう言って立ち上がり、ぷりぷりと怒るシャノンとともに部屋を後にした。






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