3話
誤字報告ありがとうございました!
この学園では年に数回、国王陛下からお言葉を頂戴する機会がある。その際には貴族、平民、この学園に通う全ての生徒が講堂に集まる。
誰もが姿勢を正して、陛下がご到着するまで緊張しながら自席で待つのがこの時期、この場所の普段の光景である。
しかし、今回は珍しい事に何故か生徒代表でもない者たちが壇上に上がり、信じられない事を口に出していた。
「シャルロット・フラワーズ!可憐なリリアンヌに対する邪智暴虐!最早我慢できるものでは無い!全校生徒が集まる今この場でリリアンヌに謝罪をしろ!」
「本当に最低だよね、リリアンヌが優しいのをいいことに階段から突き落とそうとするなんてさ」
「奇跡的にリリアンヌが無傷で済んだから良かったものを……恥を知りなさい」
「お義姉様……そんなにわたしが嫌いなの……?」
愚かにもこの場で茶番を始めだした彼らを止めるものはいなかった…いや、彼らがこんなことをしでかす前に止めきれなかった教員達は、既に殿下の部下が私達に分からないように拘束しているので最早彼らは止まることが出来なくなっていた。
「私はそのような事をしていませんし、仮にそれが事実だとしても直に陛下がいらっしゃるこの場ですることではないのでは?」
「この場でなければ貴様は逃げるだろう?しかし、陛下が訪れるのにも関わらずこのような事をするのは品が無いのも確かだ…なればシャルロット、早くリリアンヌに誠心誠意謝罪をすることだな」
「優しいリリアンヌは危険な目にあったのにも関わらず、謝罪をすれば君の事を許すって言ってるんだよ?」
「健気で聖女のように慈悲深いリリアンヌに感謝しなさい、悪女め」
恋は盲目とは言うが、彼らは周りの視線も何も見えていないのだろう…発言する度に自身の首を締めていく彼らは、全てが終わった時にどうなるのだろうか。
「何より許し難いのは、リリアンヌが現フラワーズ侯爵から受け継いだ当主の指輪を取り上げようとしたことだ……そんなにも当主の座が欲しいのか、卑しい女め」
「君みたいな奴がいるから僕達騎士の仕事が増えるんだよ」
「君がこの調子では、前侯爵夫人が優秀というのも信じがたいな」
落ち着け私…まだよ、既に多くの取り返しのつかない失言はあるが私達が欲しいのは完全な勝利なのだ。
これは、もう少し分かりやすく誘導した方がいいかもしれない。
「リリアンヌが持つべきではない物です。それに仮にも婚約者であるあなたもその場にいない方が賢明なのでは?」
「遂に本性を現したなシャルロット!貴様のような女との婚約など破棄だ!そして私はこの可憐なリリアンヌとの新たな婚約を宣言する!」
「やれやれ、抜け駆けだなんてずるいな…けど君が一番昔からリリアンヌの事を好きだったからね、騎士として尊重するさ」
「全く…困った人達だ…」
「ミヒャエル様……嬉しい……わたしもミヒャエル様が大好きです!」
「リリアンヌ!」
「ミヒャエル様!」
寒気のするような茶番劇が始まり、愛する二人が抱きしめ合う。
(…予想通りならここまで盛り上がればそろそろ彼らは動く筈ね)
「やはりこの指輪は君にこそ相応しいよ」
「それって…わたしの…」
「見つけておいたんだ…君に渡すために」
ミヒャエルがそう言ってリリアンヌの指に嵌めたのは我が侯爵家に伝わる当主の指輪、美男美女が行うそれは茶番であっても絵になって……
ここしかないと私達は動き出す。
「おめでとう。君達の婚約破棄と婚約成立、私が保証しよう」
「ギルバート殿下!ありがたき幸せです」
「ところでその指輪は…」
「お喜びください!次代を担う新たな侯爵家の誕生です!」
「なるほど……すぐにこいつらを捕らえろ!侯爵家の乗っ取りだ!」
「な、何をするんだ!はなせ!」
ギルバート殿下の一声で彼の部下が壇上に立つ彼らを拘束する。
「どういうことですか!殿下!」
「どうもこうもない、今貴様らは歴史ある侯爵家を乗っ取ろうとしただろう?そこの女の指に嵌められた指輪が証拠だ。何故侯爵家の当主でもない貴様がそれを持ち、その女に嵌めた?」
「リリアンヌが持つべきものです!それに私は侯爵家へと婿入りするのです!持っていても不思議ではないでしょう!」
「……心身ともに弱っていたとはいえ、こんなのに負けそうになっていたのか君は」
「思っていたとしても口にしないでください。一番恥ずかしいのは私なんですから」
「シャルロット!貴様の差し金か!」
「そもそも侯爵家の当主は私の母で、父はあくまで当主代理、一切侯爵家の血が流れていないリリアンヌがどうして次期当主になれると?」
「…は?」
口を呆けた間抜けな顔を見るに、本気でリリアンヌが侯爵家を継ぐと思っていたらしい。
(…父が何故私とリリアンヌを差別しながらも私とあなたの婚約を破棄せずにいたのか、分かっていないのね。)
「シャルロットとの婚約破棄は私が認めた。つまりこれは、侯爵家に関係のない貴様達が勝手に指輪を盗み、フラワーズ侯爵家だと名乗りを上げたことになるな」
「わ、わたしは侯爵家の令嬢です!」
「いいえ違うわ、だって貴方達母娘はフラワーズ侯爵家に籍を置いていないもの」
「お義姉様!」
「公の場に父に連れていかれた事があって?国に申請を出していない以上、あくまで貴方達はあの屋敷に住んでいるだけなのよ」
記録に残らなければ証拠ではない、と思っていたのかそれとも別の思惑があったのか。貴族社会には大小あれど後ろ暗い事がある者は多い、高々愛人とその娘が屋敷にいる程度で苦言を呈して我が身に返ってきたら困るから他の貴族は侯爵家に関わらないようにするだけだったのだ。
自身よりも遥かに上の権力、混乱の中明かされる思いがけない真実、彼らが処理仕切る前に畳み掛けたのが良かったのだろう。
やけにあっさりと私を苦しめてきた物事に一つの決着が着いた。
(けれど最後に……確かめたいことがある)




