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2話

王妃様主催のお茶会、そこまで堅苦しいものではないが当然一定以上の所作が求められる。

子供だけで挨拶をさせるそれは中々挑戦的で、私達子供世代はもちろん親世代も自分達で交流しながら時折こちらに視線を向けてハラハラしている。…流石の父もこの場にリリアンヌを連れてくるほどの度胸はなかったらしい。


「久しぶりねシャルロット、どんどんアイリーンに似て綺麗になっていくわ」

「ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません」

「私の方こそもっと貴女に会いに行くべきだったわ…少し痩せた?」


王妃様と私の母は学園時代の親友だったらしく母が存命の頃はよく連れられて交流をしていた。

母が亡くなってからは家の事情もあって、私の方から交流を絶っていただけるように手紙を出したのだ…


(母との日々を思い出す優しい笑顔を浮かべる王妃様に迷惑をかけたくはなかったから、本当はこのお茶会にも参加したくはなかったんだけれど…)


それに私は母との思い出の詰まった家を出るつもりでいる、そんな私には王妃様にあわせる顔がなかった。


「…これは内緒だけど、本当は貴女にギルバートと婚約してもらおうと思って内々に陛下とアイリーンと話を擦り合わせてたのよ」

「っ…もったいないお言葉です」


第三王子であるギルバート殿下は、まだ婚約者がいない。このお茶会には顔合わせの意味も含まれていると、参加している多くの貴族は思っている。


(そんな中で内緒話とはいえとんでもない事を聞いて咄嗟に反応出来た事は奇跡かもしれない…)


こっそり辺りを見渡しても聞かれた心配はなさそうで安心する。…王妃様は先程までの笑顔ではなくとてもいい顔をしている…


(そういえば…悪戯好きでよく母もからかわれていたっけ…)


その度にいつも困った顔で笑う母を思い出す…じわりと涙が滲んだ私に気付いて、何かを察したのか王妃様は優しい顔で微笑み、傍の侍従に私を薔薇園に連れていくよう指示をする。


「覚えているかしら?あの薔薇園はアイリーンとよく一緒に行ったのよ?あまり来られる場所ではないから少しゆっくりしていきなさい」

「そ、れは……ありがたい申し出ですが、あまりにも…」

「大丈夫よ、私とアイリーンが親友であったことは皆よく知っているし、今のフラワーズ侯爵家の事情も余程でなければ察しているわ……十二歳の女の子が母との思い出に浸る、それを無粋に詮索するような輩は……ね?」




王宮の薔薇園、優秀な成績を残していた学園時代の母と王妃様は、その功績を認められ、魔法を使って色々と工夫をしながら王宮の薔薇園を改良していったらしい。

変わらず様々な色が一面を覆う薔薇園は、母と王妃様と共に過ごした日々を思い出させる。


(王妃様と一緒に母に悪戯を仕掛けて二人して怒られたっけ…今思うと親友とはいえ侯爵夫人が王妃様を叱りつけるなんて中々出来る事じゃないな…王妃様も叱られながらも笑っていて、それが許されるくらいに二人は仲が良かったんだ……)


母の葬儀でも令嬢の矜持として努めて泣かないようにしていたのに、ここ最近の事や、先程の王妃様とのやり取り、母との思い出で私の涙腺は緩みきっていたらしい。

ひとしきり泣いたあと、それでも私はあの家を諦めるのか、と自問自答をする。

本当は諦めたくなんてない、それは当然で、でも私にあの家族を相手取れるほどの力が無いのも事実だ。


「…でも、諦めたくないんだろう?」


背後から聞こえてきた声に振り返るとそこにはギルバート殿下が立っていた。


「!?ギルバート殿下」

「良い、楽にしろ。私が勝手に入ってきただけだ」


急いで淑女の礼をとる私にそう言うと、ギルバート殿下は私の座るベンチの隣に腰掛けた。


「噂が有名だからな、大方の事情は把握しているつもりだ……………逃げるのか?」

「……どうにか出来る実力も、頼れる味方もおりません、逃げては、いけませんか」

「一人の少女が耐えられるような事では無いと思う……逃げてもいいだろうさ、誰も文句は言わない……私以外は」

「?どういう事でしょうか」

「昔から、母に君と婚約し、将来は君と共に侯爵家を継ぐと伝えられてきた……色々疑問はあったがフラワーズ侯爵家は歴史があり、そこまで規模が大きくないにも関わらず、とても優秀な家だったし、あの抜け目のない母が言うくらいだ、特に問題なくそうなるだろうと思っていたよ」


だが、と殿下は続ける


「実際は違った、君は別の男と婚約したし、フラワーズ侯爵家はどんどん社交界での評判を落としていく。後にも先にもあれ程出し抜かれたと憤る母は初めて見たよ」

「……そう、ですか」

「とはいえ、こうなった以上は仕方ない、と思ったが…やはり気に食わない」

「気に食わないと仰られましても…」

「君がどうこうした訳では無いと分かっているが、幼い頃から婚約者だと言われていた君との婚約がなくなった事は私にとって耐え難い屈辱だ」

「屈辱…ですか」

「何故か負けた気分になる」

「えぇ……そう言われましても……」


ギルバート殿下はとてもプライドが高いらしい、知らぬ内に傷つけていたようだ…婚約を決定したのは父だから、その苛立ちの矛先は父に向けてくれないだろうか。


「君も屈辱だろう…家を乗っ取られ、正統な後継者である君が追いやられようとしている………ああいや、自ら諦めて逃げようとしているのだったか」

「それが、何だと仰るのですか」

「駄目だ。勝手に諦めるなんて許さない」

「っ…!先程から何を勝手に!」

「力がないなら蓄えればいい、頼れないなら頼らないほど強くなればいい、そもそも、私の母を利用するくらいの気概を見せるべきだ」


ギルバート殿下はそんな豪胆な事を簡単に言ってのけてみせる…思わず顔を見ると真剣に考えているらしい…


「逃げるのもいいだろう、だがそれは今じゃない。このままいけば君も私も学園に入る。義務だからな、そこが狙い目だ。君の婚約解消、フラワーズ侯爵家の問題、私との婚約、全て片付けるぞ」

「共に来い、シャルロット・フラワーズ。君に諦めたくないという気持ちがあるなら」


どこまでも傲慢で、自分の事しか考えていない発言で、それでも、あの時の私には…………

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