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1話

よろしくお願いします。

窓から差し込む光が心地よい学園の昼時に、不釣り合いな悲鳴が廊下中に響き渡る


「きゃああああっ!」

「!どうしたリリアンヌ!」

「お義姉様が…わたしの事を睨んで」

「またか!何故お前はいつもそうなんだ!」


ふわふわと可憐に見える少女を守るように見目麗しい男達が立ち塞がる。


(何もしていない、なんて言ったら逆効果ね…)


彼女が入学して数ヶ月で、既に幾度も行われている光景に周囲の人達は関わりたくないとばかりに目を逸らす。


(当然ね…あの子の周りにいるのは何故か高位貴族ばかり、誰だって睨まれたくないもの。私だって当事者じゃなければ関わりたくない)


いつものように顔を俯かせて文句を聞きながらやり過ごしているが、今日はしつこいらしく、中々終わってくれない。


「大体、何故お前のような女が可憐なリリアンヌの義姉を名乗りながらのうのうと過ごしているのか!」

「もう少し立場を弁えて大人しくしてたほうが良いんじゃない?」

「よせ、そんな事もわからないからリリアンヌを虐める事が出来るんだろう」


私の婚約者、騎士団長の息子、宰相の息子、随分と誑し込んだものだ。正直その手腕には素直に感服する。…見習いたくはないが。


「みんな!やめてあげて?……お義姉様は愛を知らないから寂しいのよ…大丈夫!わたしは気にしてないから」

「リリアンヌ…」

「全く、優しすぎるんだから」

「なんて健気な……」

「ほら、行こう?みんな」


何かの茶番かと思うくらいにスムーズな流れでリリアンヌと愉快な仲間たちは去っていく。

……ようやく終わった。

辟易しながら顔を上げて急いで教室に向かおうとする。

そんな私の前に一人の男性が現れる


「裏取りは終わった。いつでも仕掛けられる」

「……近々、国王陛下からお言葉をいただける全校集会がありましたわね」

「ふっ…昔の君からは考えられない豪胆さだな」

「お褒めいただきありがとうございます」

「当然だ、そうでなくては。奴らの誘導は任せたぞ…出来るな?」

「当然です」


そう言葉を交わすと私達は別の方向に歩き出す。


(これは遅刻ね…成績への影響が少なければいいけど)




彼女が私の前に現れたのは、お母様が亡くなったのと同じ十年前の冬の事だった。


「シャルロット、この二人は今日からここで共に暮らすことになる。仲良く過ごせ」

「これからこの屋敷の女主人としてよろしくお願いするわね、シャルロット」

「わたし、これから侯爵家の令嬢なのね!とっても楽しみだわ!」


母の葬儀が終わり、滅多に屋敷に帰らない父が連れてきたのは愛人とその娘だった。

常識とは思えないあまりにも早すぎるその行為に当時七歳だった私は理解が追いつかず、ただ流されるままに父の言葉に従ってしまった。


「ねぇあなた?少し屋敷の内装を変えたいのだけどいいかしら?」

「お父様!わたし新しいドレスが欲しいわ!キラキラしたドレス!」

「もちろんだとも。お前たちの好きなようにしなさい。」


それからは数えるほどしか屋敷に帰って来なかった父が、毎日帰ってくるようになり、彼女達と共に食卓を囲みながら談笑する。

まるで理想の家族のような光景が屋敷で見られるようになった。

疎外感を感じながらも、私なりに歩み寄って、家族になろうとしていた…が


「あまり華美にすぎると悪目立ちするからやめた方がいいわ…こっちのドレスなら流行だし、リリアンヌに似合うと思うのだけどどうかしら?」

「そんな…ひどいわお義姉様!わたしが元平民だからってそんなこと!」

「いえ、そういうことじゃなくて」

「シャルロット…お義母様は悲しいわ…いくら私達が気に入らないとはいえ」


彼女達には私が放つどの言葉も嫌味に聞こえてしまうらしく、何年経っても上手く接することが出来ないでいた。


「シャルロット…仲良くしろと言った筈だ!そんな事も出来ないのか!不出来な奴め」

「旦那様!それはあまりにも…!」

「口答えする気か!」


苦言を呈する使用人は解雇され、そんなフラワーズ侯爵家の噂は社交界に広がり、母はもちろん父の親戚とも付き合いがなくなっていった。

まともな交流があるのはバッダード伯爵家…私の婚約者であるミヒャエル・バッダードの家のみとなっている。

もっとも、婚約自体が父の独断によるものでこちらとしては大した旨味のないものだったと聞いている。

今では、領地経営が上手くいかずに借金も抱えてしまった為、バッダード伯爵家も多少評判が下がっているとはいえ、侯爵家である我が家と関係を切れないのだろうとはよく噂されているが、それが本当かどうかは知らない。一つ言えるのは、まともな交流といっても当時の私からみても随分と薄い交流であることだった。だが…


「リリアンヌは可愛いなぁ…俺の婚約者がリリアンヌだったらなんと良かったことか」

「ミヒャエル様…わたしも、ミヒャエル様が…」


ミヒャエルの中では、大金と共に私に売られたという事しか頭にないらしく、もっぱら婚約者とのお茶会という名のリリアンヌとの逢瀬が目の前で繰り広げられていた。


まともな使用人もいなくなり、自分で身の回りのことが出来るようになった私は、皮肉にもこの家のおかしさに気付けるようになり、誰にも見つからないように家を出る準備を進めていた。


(お母様…申し訳ございません。私の力ではもうどうにもできないのです…もう疲れてしまいました…成人になり次第、無様に逃げる事をお許しください)


母が亡くなり、家に居場所が無くなり、私はもう限界だった。

立ち向かうことを諦めてしまったのだ。

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