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黒忌み姫のお輿入れ  作者: 黒田ちか(クロッチカ)
第6章 私はここにいたいのです

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06

 エリアスの爆弾発言に、室内はシンと静まりかえった。


「……エリアス、ここは友人同士の悪ふざけが通用する場ではないのだぞ」


 最初に我に返ったフェルディナンドがたしなめるように言うと、ビアソンも片眼鏡を外し眉間を揉みながら「いつものおふざけなら止してください」と同意する。


「オリヴィア姫は西の地の生まれ。東の地とは交流のないフィローン国からいらしたのですよ」

「もちろん、そんなことは重々わかってるよ、ビアソン」

「ならば」

「ビアソン、そこまでにしておきなさい」


 勢い込んで反論しかけたビアソンを、ハンゲイト侯爵が止める。


「いつまでも女性を立たせておくものではない。まずは座って、ゆっくりお茶でも飲んで落ち着いてからマルドネス伯爵の話を聞こうではないか」

「……わかりました。――皆さま、どうぞあちらへ」


 ビアソンはハンゲイト侯爵の助言を素直に聞き入れ、場を仕切り直した。


 促されるまま皆はソファに座り、侍女達が供してくれたお茶を飲む。室内に奇妙な緊張感が漂っているせいか、誰も口を開こうとしない。


(……味がしない)


 多分この場で一番緊張しているのはオリヴィアだろう。

 侍女が淹れてくれた最高級の紅茶の香りすらわからず、ただ緊張でからからになってしまった喉を潤すことしかできない。

 唯一の心の拠り所は、同じソファにフェルディナンドが座っていることだ。

 体温を感じられる距離にいてくれるだけでとても心強く感じられる。


「さて、そろそろ説明をさせてください」

「先程の発言は冗談ではないというのか?」

「もちろんです、フェルディナンド様。悪ふざけでも、冗談でもありません。納得していただくためには、ひとつ昔話を聞いていただかねばなりません。……昔々――正確には二百八十七年前のことだと伝えられています――テレント国では王位を巡る争いが起きたのです」


 高位貴族と結託した王弟が謀反を起こしたのだ。

 その争いの中、王弟が放った暗殺者により王が命を落とし、王太子は拘束されたまま塩湖に流され海竜の餌食となった。


「では現在のテレント王家は、その王弟の子孫なのですか?」

「確かに王弟の子孫だけど、王太子のほうの弟の子孫だよ」


 エアリスがビアソンの質問に答える。


 父親と兄を失った弟は、王位奪還の為なら手段を選ばない王弟に対して反感を抱いた貴族や民を率いて、一気に王弟軍を攻め滅ぼした。


「弟君は勝者となられたが、王位には就かれなかった。自らはあくまでも代理の王だと宣言し、正統の王の帰還を死ぬまで待ち続けられた」

「王太子は海竜の餌食になったのだろう?」

「王弟派はそのように言っていたようですが、実際は違ったのですよ。行方不明になってから二年後、王太子から手紙が届いたのです。海竜に襲われたが、無事逃げ延びてフィローンに流れ着いたと……」

「海竜が我が物顔で跋扈するあの塩湖を越えて、テレントの対岸に辿り着いただと?」


 ありえないと、フェルディナンドが断言する。


 塩湖は広大だ。

 船で対岸に渡るだけでもたぶん一ヶ月以上かかる。海竜の巣となっている塩湖を航海することなど不可能だし、食料もない状態で生き延びられるわけがない。


「ですが王太子は辿り着いたのです。半死半生だったそうですがね。その後、フィローン王家に保護され、傷ついた身体を癒したのだそうです。そして、フィローンの王女と恋に落ちた」


 だが二人の関係は、フィローンの貴族達の望むところではなかった。

 そして、強硬な手段でふたりを引き裂こうとする貴族達から逃れる為に、王太子はフィローンの王女を連れて逃げた。


「テレントに届いた手紙は、その時に書かれたものでした。王太子は手紙に、()()()()()()()()()と記していた。だからこそ弟君は王位を継がず、正統の王が戻られるのを待ったのです」

「……現在の王家が弟君の血縁ならば、王太子はけっきょく戻られなかったのだな?」

「はい。何年待っても戻られなかった。不審に思った弟君はフィローンに密偵を送り込みました。――王太子は王女を攫って駆け落ちしたわけですからね。さすがに正面から問い合わせることはできなかったようです」


 密偵によってもたらされた報告は驚くべきものだった。

 王太子と思われる人物は、王女を誘拐しようとした咎で罪人として処刑されていたのだ。

 そして王女も貴族派の筆頭と結婚した後、産褥で亡くなっていた。


 その話を聞いたオリヴィアは思わず呟いた。


「もしかして、あの昔話の盗賊がテレントの王太子だったのかしら……」

「昔話とは?」

「フィローン王家に忌み子が生まれるようになった理由を語ったものなのですが」


 エリアスに問われたオリヴィアは、フィローンの王家に伝わる昔話を語った。


 もの凄く恥ずかしかったが、フィローン王家が中二病っぽく自らを天神シィノーンの末裔だと名乗っていることも前提条件として話しておく。


 王座を巡る骨肉の争いの末、ひとりだけ生き残った王女が盗賊に攫われ子を身ごもり、天神シィノーンの怒りを買ったこと。

 そして天神が、自らの愛する大切な王家の血筋を守る為に、あえて王家に呪いをかけたこと。

 全ての王族に汚らわしい血が混じらないよう、ただひとりの者だけに汚れた血を収束させるという呪いを……。


「王女を誘拐した盗賊は黒髪黒目だったそうです。だから忌み子も黒髪黒目で生まれるのだそうです。……この私のように」


 オリヴィアが自分の髪に触れると、エリアスの視線はその黒髪に向けられた。


「テレントの王族は、ほとんどが黒髪黒目です。王太子もそうだったと伝わっています」

「ああ、なんてこと……。フィローンの貴族達は、他国の王太子を盗賊扱いして処刑していたのね」


 天神シィノーンとやらの血脈を守る為に、なんとしても王女を取り戻す必要があったのだろう。

 その為に他国の王太子を盗賊扱いして殺したのだ。


 遠国ゆえ、バレたとしても戦にはならない、しらを切り通せば良いとでも考えたのだろうか?

 なんと恐ろしい。


「待ってください。この段階で王太子の死は確定したのですよね? ならばなぜ、弟君は生涯王座につかなかったのです?」


 ビアソンが不思議そうに首を捻った。


「正統の王の証がなかったからです」

「テレント国の王の証は『黒の王冠』だろう? 以前、公式訪問した際にテレント王の頭を飾っているのを見たが」

「テレント国自慢の古代王国のアーティファクトですね。……眉唾物ですが」


 ビアソンが失笑気味に呟くのを聞いて、オリビアは好奇心を刺激された。


(東の地にも、西の地と同じ伝説があるのね)


 バルハラ大陸の中央、現在広大な塩湖が広がる場所には、かつて大陸全てを支配していた巨大な王国が存在していたという伝説が西の地には残っていたのだ。


(たぶん、巨大隕石で一瞬で滅んだのかも……)


 そして古代文明の中心地は広大な塩湖となり、生き延びた人々はそれぞれの地で新たな王国を築き上げて現在に至っているのだろう。


 古代王国の魔法文明は現在よりも発展していたと伝えられていて、ごく稀に古代王国の遺物が発見されると、それらはアーティファクトと呼ばれ希少価値ゆえに高値で取引される。

 とはいえ、実用可能な魔道具が発見されたという話は聞いたことはなく、ほとんどが偽物だろうと言われていた。


 だからこそ、ビアソンも失笑気味だったのだが……。


「ここだけの話にして欲しいのですが、あれは偽物なんですよ」


 エアリスも苦笑している。


「本物のテレント王の証、黒の王冠は王太子と共に失われたままなんです」


 そしてエリアスは、一転して真面目な顔になってオリヴィアを見た。


「オリヴィア姫、()()()()()()()()()()()()

読んでいただきありがとうございます。

次話は四日に更新予定です。

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