表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『星砂の降る船で』 桜井ジン  作者: 如月あげは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/12

第四話:頭が長いのはなやみすぎ?

頭が長いのはなやみすぎ?


 宝船のまわりは、真っ白な霧でいっぱいだった。海も空も、ドロリと溶けて、混ざり合う。船は一歩も動かず、ただユラユラと浮いている。甲板に、星砂がヒラヒラ積もる。霧の雫が、ポツリと落ちる。

 ロクさんは、船べりに座り、長い頭をポリポリとかいた。

「いつかは……終わるのかのう」

 声は、霧の中へスウと消える。霧の向こうで、波の泡がコポリと鳴っては消える。ロクさんは、それをじっと見つめた。えびやんが、ふにゃりと笑い、隣に座る。

「なにが?」

 ロクさんは、自分の長い影を指さした。影も、霧でにじんでいる。

「全部じゃよ。この船も、この海も、わしたちもな」

 船の時計が、カチリ。重い音が、甲板に落ちる。また、カチリ。霧の向こうに、深い闇がある気がした。ヒラヒラと、手招きをしているようにも見える。

 だいちゃんは、舵をギシギシと握った。けれど船は、ピタリとも動かない。

「順番のうちです」

 べにたんは、霧に向かって糸をポロンと鳴らした。音は、モワンと吸い込まれる。

「まだ、終わらないわ」

 ほていは、甲板にゴロンと横になる。霧がスヤスヤ顔にまとわりつく。そのとき。お腹が、グゥ。霧が、ゆらりと揺れた。

 おじいが、湯のみを持ち上げる。

「お茶があるよ」

 ロクさんは、立ち上がった。霧の中へ、そろりと一歩出る。足元が、ユラリと揺れる。星砂がヒラヒラ、足先をかすめる。長い頭が、少しだけ、にゅうと伸びた。えびやんが、袖をつまむ。

「伸びてるよ」

 ロクさんは、またポリポリとかいた。指先に霧がまとわりつく。

「考えると、伸びるんじゃ」

 船の時計が、カチリ。また、カチリ。だいちゃんは、こづちの角で甲板をトントンとたたく。

「今ではないのです」

 ロクさんは、じっと音を聞く。べにたんは、霧をそっと払った。

「まだよ」

 湯のみが、そっと差し出される。ロクさんは、それを受け取った。湯のみは、温かい。指先が、じんわりする。息を、ふう。湯気がヒラヒラと立ちのぼり、霧と混ざる。

「……温かいのう」

 えびやんが、にこにこして言う。

「ここは、あるね」

 ロクさんは、湯のみを両手で包んだ。長い頭が、少しだけ、縮む。

「いつか消えるからこそ、今が、いとおしいんじゃよ」

 波が、コポリと鳴る。しばらくして、風がそよと吹いた。霧がヒラヒラと、ほどけ始める。遠くに、小さな青がにじむ。船が、ギイと、わずかに動いた。

 ロクさんは、もう一度だけ霧を振り返る。闇は、もう手招きしていない。星砂がヒラヒラ、甲板を滑る。宝船は、ゆっくりと進み始めた。時計が、カチリ。甲板には、薄い水滴が残っている。その上を、七人の足が、ちんまりと動く。船は、まだ、浮いている。それだけで、十分だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ