第十四章 崩れた朝
犯行後、逃げずに罪を受け止める晴人。
知佳との面会で交わされる言葉は、愛の残酷さを静かに照らし出す。
警察が来るまで、僕は逃げなかった。
通報したのは自分だった。
震える手でスマホを操作しながら、「弟を殴った」とだけ言った。殺した、とは、すぐには言えなかった。
取り調べは、妙に事務的だった。
時刻、場所、凶器、動機。
動機を訊かれた時、僕はうまく答えられなかった。
弟が許せなかった。
紬のことがあった。
知佳が壊れていた。
でも、どれも本当のようで、本当じゃない気がした。
知佳には、警察から連絡が行った。
面会で初めて会った時、彼女は痩せて見えた。
でも目だけは、以前より静かだった。
静かすぎるくらいに。
「ごめん」
僕が言うと、知佳は首を振った。
「どうして謝るんですか」
「俺がやったことだ」
「……うん」
面会室の透明な板越しに、彼女は僕を見た。
「私のせいです」
「違う」
「違わない」
「違うよ」
知佳はしばらく黙っていた。
それから、小さく笑った。
「晴人さん、最後まで優しいね」
「優しくなんかない」
「ううん」
知佳の目は、やっぱり少しだけ濡れて見えた。
「私、ちゃんと愛してたよ」
その言葉で、喉が詰まった。
「知佳」
「最初から、ちゃんと」
彼女は泣かなかった。
ただ、静かに言った。
「だから、苦しかった」
面会終了を告げる声が響いた。
僕はガラス越しに手を上げかけて、やめた。
そんなことをする資格が自分にあるのかわからなかったからだ。
知佳は最後に、ほんの少しだけ笑った。
初めて会った日の、あの寂しそうな後ろ姿を思い出させる笑い方だった。




