サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 受け継がれたもの
『ジョーザイ王国とヒートドラゴン』を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございます!
今回は舞台をサンザイ砂漠へ移し、新たな仲間や新たな謎が待っています。
モモトたちの新しい冒険を、ぜひ最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。
次の日の放課後。
モモトはランドセルを背負ったまま、まっすぐ「まほの薬局」へ向かった。
話したいことが、たくさんあった。
ガラガラ――。
古い引き戸を開けると、おじいさんがいつものようにカウンターの向こうで笑った。
「いらっしゃい。おっモモト」
その一言を聞いた瞬間、モモトは一気に話し始めた。
「おじいちゃん! ぼくね、ジョーザイ王国へ行ったんだ!」
モモトは、フィルム王のこと。
オーディのこと。
ヒートドラゴンとの戦い。
命の泉。
そして、ピルケースのことまで、一気に話した。
おじいさんは途中で一度もうなずくだけで、最後まで静かに聞いていた。
「なるほどのう。」
話を聞き終えたおじいさんは、しばらく考え込んでいた。
「ジョーザイ王国に、オーディ。それにヒートドラゴンか……。」
おじいさんは驚いたような顔をしたが、何かを思い出したように顔を上げた。
「そんなことになったんじゃな。そんなとこに行ったことはないのぉ。』
「えっおじいちゃんはジョーザイ王国に行ったことないの?」
「ワシは行ったことないよ。そのピルケースも、わしも祖父からもらったものなんじゃ。」
おじいさんはゆっくりと立ち上がると、棚の奥へ手を伸ばした。
「正直に言うと、わしもあのピルケースが何なのか、詳しいことは知らんのじゃ。」
「そうなんだ。じゃあ、なんでくれたの?」
棚の奥から、小さな古い木箱を取り出した。
「それはの、子どものころ、わしの祖父から渡されてな。」
『いつか子どもに譲るものだ。』
「そう言われたんじゃ。」
おじいさんは木箱をカウンターの上に置いた。
「使い方も、何のためのものなのかも、教えてもらえんかったがの。」
おじいさんは木箱を見つめ、少しだけ遠い目をした。
「だからわしも、いつか子どもが来たら渡そうと思って、大事にしまっておったんじゃ。」
「まさか、本当に別の世界へつながっておったとはなぁ。」
そして、モモトを見て優しく笑った。
「祖父が『子どもに譲るものだ』と言っておったのは、そういう意味じゃったのかもしれんな。」
「じゃあ……信じてくれるの?」
モモトがおそるおそる聞く。
おじいさんは、にっこり笑った。
「モモトは、うそをつくような子じゃないじゃろ。」
そう言うと、おじいさんは木箱の中を整理し始めた。
中から出てきたのは、見たことのない道具ばかりだった。
細長い目盛りのついた透明な容器。
小さなスプーン。
目薬のような小さな入れ物。
「これ、何に使うの?」
「ここに貼ってるのは全部、薬を使う道具じゃよ。」
おじいさんがそう答えた、そのときだった。
道具の上に、一枚の薄茶色の紙がおいてあった。
「……これは?」
「薬を包む紙じゃ。」
おじいさんは薄茶色の紙をそっと持ち上げた。
「昔は薬を一つひとつ、この紙に包んで渡しておったんじゃ。特に粉薬はな。」
「どうして粉にするの?」
おじいさんは薬包紙をそっと広げた。
「錠剤がうまく飲めない小さな子どもや、お年寄りでも飲みやすいからじゃ。」
「それだけじゃない。」
「一人ひとりに合わせて、飲む量を細かく変えられるのも、粉薬のいいところなんじゃ。」
「みんな同じ量を飲むわけじゃないの?」
おじいさんは首を横に振った。
「そうじゃ。体の大きさや年齢によって、ちょうどいい量は違う。」
「じゃから昔は、一つひとつ量って、この薬包紙に包んで渡しておったんじゃ。」
「今では機械で包むことがほとんどじゃから、あまり使わんようになったがの。」
そう言って、おじいさんは薬包紙をモモトへ差し出した。
その瞬間――。
ピルケースが、かすかに震えた。
「えっ?」
モモトが取り出すと、七つの部屋のうち、炎の刻印が刻まれた部屋だけが赤く光っている。
「どうして……。」
光は少しずつ強くなり、まるで「開けて」と呼びかけているようだった。
モモトは、赤く光る炎の部屋を見つめた。
鼓動が少しずつ速くなる。
また、何かが始まる。
そんな予感がした。
「この中に、何があるんだろう……。」
少しだけ迷った。
けれど、確かめてみたい気持ちの方が強かった。
まるで光に誘われるように、モモトは炎の部屋へ指をかけた。
カチッ。
ふたが開いた、その瞬間――。
熱い風が吹き抜けた。
目の前いっぱいに赤い光が広がり、モモトの体がふわりと浮く。
「わあっ!」
景色がぐるぐると回り始める。
気づけば、モモトは光の中へ吸い込まれていた――。




