ヒートドラゴンとの対決
モモト(主人公)
ジョーザイ王国の住人
オーディ (騎士)
フィルム国王
チュアブル (近衛騎士)
モモトとオーディは、カート山脈の奥へ進んでいた。
「森を抜けると、景色は一変した。
地面にはひびが入り、草は茶色く枯れている。
遠くの景色は、熱でゆらゆらと揺れていた。
「暑い……。」
モモトは額の汗をぬぐう。
「カート山脈のふもとは、何か月も雨が降っていないんだ。」
オーディは前を見つめたまま言う。
「だから、この辺りは昼になると焼けるように暑くなる。」
モモトは乾ききった大地を見渡した。
「あれが……湧き水の泉?」
「ああ。」
モモトは胸に抱えていた聖杯を見下ろした。
あの水をくみ、王国へ持ち帰ればいい。
そう思った、そのときだった。
グルルルル……。
地面を揺らすような、低いうなり声が響いた。
泉の前に横たわっていた大きな岩が、ゆっくりと動き出す。
「岩じゃない……。」
モモトは息をのんだ。
それは、巨大なドラゴンだった。
赤黒い体を覆ううろこ。鋭く曲がった二本の角。大きな翼を開くと、熱い風が一気に吹きつけてきた。
「ヒートだ。」
オーディが剣を抜いた。
ヒートが目を開く。
燃えるように赤い目が、二人をとらえた。
「モモト。」
オーディはヒートから目を離さずに言った。
「俺がこいつを引きつける。その間に泉へ走れ。」
「でも、一人で大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなくても、やるしかない。」
オーディは剣を構えた。
「聖杯に水をくむことだけを考えろ。」
次の瞬間、オーディは地面を蹴った。
「こっちだ、ヒート!」
剣を振り上げ、ヒートの足へ斬りかかる。
ガキンッ。
剣は固いうろこに弾き返された。
ヒートが大きな前足を振り下ろす。
オーディは横へ飛び、間一髪で爪をかわした。
「今だ! 走れ!」
モモトは聖杯を抱え、泉へ向かって走り出した。
熱い風が背中を押す。
足元の石は、靴の上からでも熱さが伝わるほどだった。
あと少し。
もう少しで泉へ手が届く。
そのとき、後ろから大きな音が響いた。
「オーディ!」
振り返ると、オーディが地面に倒れていた。
剣は遠くへ弾き飛ばされている。
ヒートは大きな口を開けた。
口の奥に、真っ赤な炎が集まっていく。
「行け! モモト!」
オーディが叫んだ。
「俺のことはいい! 水をくめ!」
けれど、モモトの足は止まっていた。
このまま泉へ向かえば、聖杯に水をくむことはできる。
でも、その前にオーディが炎に包まれてしまう。
「そんなの、できないよ……。」
ヒートの口の奥で、炎が大きくふくらんでいく。
もう時間はない。
そのとき、おじいさんの声が頭の中によみがえった。
『役目を知る者だけが、本当の力を引き出せるんじゃ。』
「役目……。」
モモトは命の泉へ目を向ける。
王国のみんなは、この水がなくて苦しんでいた。
この水には、人を元気にする力がある。
その瞬間、オーディの言葉が頭によみがえった。
『俺は、水がなくても動ける。』
「そうか!」
モモトは目を見開く。
「水がいらないんじゃない!」
「この水なら、オーディだって!」
モモトは泉へ飛び込むように駆けた。
聖杯を水へ沈める。
透き通った水が一瞬で満ちる。
そのままモモトは振り返った。
ヒートは大きく息を吸い込み、今にも炎を吐こうとしている。
「オーディーー!!」
モモトは全力で駆け寄り、聖杯の水を勢いよくオーディへ浴びせた。
水は無数の光の粒となり、オーディの全身を包み込む。
胸の満月の刻印が、青白く輝いた。
「な……なんだ、これは……。」
オーディは驚いたように自分の手を見つめる。
握った剣から、今まで感じたことのない力があふれてくる。
「力が……みなぎる!」
オーディは驚いたように自分の手を見つめる。
握った剣から、今まで感じたことのない力があふれてくる。
重かった足が軽くなり、握った剣はまるで体の一部のようになじんだ。
オーディは静かに剣を構えた。
青白い光が、胸の満月の刻印から剣へと流れ込んでいく。
ヒートが大きく口を開き、灼熱の炎を吐いた。
オーディは地面を蹴った。
「ムーンブレイク!!」
一瞬でヒートの懐へ飛び込む。
青白い光をまとった剣が、ヒートの胸元を斬り裂いた。
ガキィィン!!
今まで傷ひとつ付かなかったうろこに、一筋のひびが走る。
バキッ。
小さなひびは、みるみる広がっていった。
まるで氷が割れるように、赤黒いうろこが次々と砕け落ちる。
「グオオオオオッ!!」
ヒートは苦しそうに叫び、大きく後ずさった。
崩れ落ちたうろこの下からは、淡い青い光があふれ出す。
ヒートは初めて恐れるような目でオーディを見つめた。
やがて大きな翼を広げると、熱風を巻き起こしながら空へ舞い上がる。
一度だけモモトとオーディを振り返る。
そして低くうなると、そのまま岩山の向こうへ飛び去っていった。
辺りは静けさに包まれる。
モモトはその場にへたり込み、大きく息を吐いた。
「助かった……。」
オーディはゆっくりと拳を握る。
「不思議だ。」
「体が、こんなに軽い。」
何度か剣を振ると、驚いたように目を見開いた。
「命の泉の水が……俺の本当の力を引き出したのか。」
モモトはほっと笑った。
「よかった。」
オーディはモモトを見つめる。
「……怖かっただろ。」
「うん。すごく怖かった。」
モモトはうなずいた。
「なのに、どうして戻ってきた。」
「だって、オーディがやられそうだったから。」
オーディは苦笑する。
「俺は、お前に水をくめって言ったのに。」
「でも、オーディを置いていけないよ。」
オーディは目を丸くし、少し照れくさそうに笑う。
そして、モモトへ手を差し出した。
「ありがとう。」
モモトはその手をぎゅっと握り返した。
「うん!」
二人は笑顔を交わし、再び命の泉へと目を向けた。
モモトはもう一度、聖杯を泉へ沈めた。
今度はこぼさないように、ゆっくりと水をくんでいく。
聖杯が満たされると、水は淡い光を放ち始めた。
「これで、王国を助けられるんだね。」
「ああ。帰ろう。みんなが待っている。」
オーディはうなずいた。
モモトは聖杯を大切に抱えた。
二人は並んで歩き出す。
来たときには遠く感じた道も、今は少しだけ近く感じられた。




