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まほうのピルケース ジョーザイ王国とヒートドラゴン  作者: 南 春


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2/6

ピルケース

次の日の学校帰り。


モモトは、「まほう薬局」と呼ばれている古びた薬局の前で立ち止まった。


「あのーこんにちは。」


 そっと戸を開けると、カラン、と鈴が鳴る。


「おお、昨日の少年か。」


 おじいさんは目を細めた。


「踏んづけた荷物は大丈夫だったかの。」


「うん。上履きだったから。あのー、ケースありがとう。」


 モモトはランドセルからピルケースを取り出した。


「これ、まだ何も入れてないよ。」


「フォッフォッフォ。それでいい。いつか使う時も来るじゃろ」


「薬局って初めてみたけど。薬ってたくさんあるんだね」


モモトは店内を見渡しながらおじいさんに話しかけた。


 おじいさんは棚から小さな箱を取り出した。


「薬はな、いるんな形や種類があるが、それぞれ意味があるんじゃ。」


「たとえばこのカプセルは、胃ではなく腸で溶けるようにできている。みんなそれぞれの製剤に理由があるんだよ。」


モモトは箱の中をもう一度のぞき込んだ。


さっきまでただの薬に見えていたのに、一つひとつが違う役目を持っているように思えてくる。


「薬って、おもしろいね。」


おじいさんは目を細めて笑った。


「そうか、薬に興味持つのは珍しいのう。」


それからというもの、モモトは学校帰りになると、ときどき薬局へ立ち寄るようになった。

カウンターの前に座って、おじいさんが薬をそろえる様子をぼんやり眺める。


お客さんが来れば静かに待ち、お店が落ち着くと、「今日はどんな薬の話?」と目を輝かせる。


おじいさんはそんなモモトを見て笑い、少しずつ薬の秘密を教えてくれた。


「こっちは長い間、光に当たりすぎた薬じゃ。」


モモトは白い錠剤を見つめた。


「少し黄色くなってる。」


「そうじゃ。光が苦手な薬は、こうして本来の力が弱くなってしまうことがある。」


「じゃあ、そういう薬はどうしたらいいの?」


おじいさんは薬棚から銀色の袋を取り出した。


「だから、光が当たらないように遮光しゃこうシートや、光を通しにくい袋に入れて守ってやるんじゃよ。」


「薬って、大事に守られてるんだね。」


「そうじゃ。薬には、それぞれ一番力を発揮できる方法があるんじゃ。」


「へぇ。」


 モモトは目を輝かせる。


 薬は、思っていたよりずっと不思議だった。


話の終わりになると、おじいさんはいつもこう言った。


「モモト。薬はのう、ただ飲むものじゃない。」


「役目を知る者だけが、本当の力を引き出せるんじゃ。」


モモトは「うん」と返事をした。


 でも、その言葉があとになって、何度も自分を助けてくれることを、このときはまだ知らなかった。


     *


薬局に通い始めて一か月が過ぎた、ある日の夜。


夕ご飯を食べ、お風呂にも入って、宿題を終えたモモトは、大きく伸びをした。


 ふと机の上を見る。


 そこには、おじいさんにもらったピルケースが置かれていた。


「そういえば……。」


 モモトは何気なく手に取る。


 七つの仕切りがある、ごく普通の薬を入れるケース。


 何気なく眺めていると、ふたの表面に、かすれた絵が刻まれていることに気づいた。


 長い年月で色はほとんど消え、爪でなぞらなければ分からないほど薄くなっている。


 一つ目には満月。


 二つ目には炎。


 三つ目には水のしずく。


 四つ目には大きな木。


 残る三つにも、星や太陽、大地のような模様が並んでいた。


「こんなの……前からあったかな。」


 首をかしげる。


 その中でも、不思議と満月だけが少しだけはっきり見える気がした。


 理由は分からない。


 けれど、どうしても気になった。


 モモトはそっと満月のふたへ指をかける。


 カチッ。


 小さな音が部屋に響いた。


 その瞬間――


 窓も開いていないのに、やさしい風が部屋を吹き抜けた。


 カーテンがふわりと揺れる。


 机の上のプリントが宙へ舞い上がった。


「えっ?」


 白い光がピルケースからあふれ出す。


 モモトは思わず目を閉じた。


 体がふわりと浮くような、不思議な感覚に包まれる。


 ――どれくらい時間がたったのだろう。


頬をなでるひんやりとした風。


どこからか、小鳥のさえずりが聞こえる。


恐る恐る目を開けると、そこは自分の部屋ではなかった。


足元には、白く丸い石が敷きつめられた道。


道の両側には、白い建物が整然と並んでいる。


四角い家もあれば、丸い屋根の家もある。


不思議と町全体が白で統一されていた。


遠くには、白く輝く大きな城がそびえている。


そして空を見上げたモモトは、思わず息をのんだ。


青空の中に、大きな満月が浮かんでいた。


昼なのに。


まるで、この世界ではそれが当たり前であるかのように。


「ここ……どこなんだろ。」


返事はない。


聞こえるのは風の音だけ。


モモトはピルケースをぎゅっと握りしめた。


どうやら、自分はとんでもない場所へ来てしまったらしい。


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