サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 ユウガイ旅団
岩山を回り込んだモモトたちは、その場で足を止めた。
テンビーンのほとりには、サイリュウとビリュウが立っている。
しかし、その前には五、六人の男たちが立ちはだかっていた。
全員が黒いマントをまとい、砂漠の旅人のような格好をしている。
中央には、一人だけ腕を組んだ男。
周りの男たちは、その男を守るように並んでいた。
「サイリュウ!」
モモトが叫ぶ。
サイリュウは振り返ると、ほっとしたような表情を浮かべた。
「モモト!」
モモトは男たちを見つめる。
「この人たちは……誰?」
サイリュウは険しい表情で答えた。
「分からない。」
「俺たちがテンビーンへ着いたら、もうここにいた。」
「ずっとテンビーンを見張っていたみたいだ。」
その言葉を聞き、中央の男が小さく笑った。
「見張る……か。」
「まあ、間違ってはいない。」
中央の男は、モモトたちを見回した。
「一つ聞こう。」
「お前たち……どうやって、この場所へたどり着いた。」
サイリュウは迷うことなく答えた。
「この地図だ。」
そう言って、ヤクホーシを掲げる。
「これを見つけたから、テンビーンまで来られた。」
「サイリュウ!まて!」
オーディが思わず声を上げた。
「そんな簡単に見せるな!」
サイリュウは首をかしげる。
「え?」
「隠す必要があるのか?」
オーディは額に手を当てた。
「あるに決まってるだろ……。」
男は静かに笑い始めた。
「ははは……。」
「やはり、ヤクホーシだったか。」
その目が鋭く光、男は静かに笑った。
「そうか、持っていたか。これで全てがうまくいく。」
モモトは眉をひそめる。
「ヤクホーシ?」
男はゆっくりとサイリュウへ歩み寄る。
「その紙をこちらに渡してもらおう。」
サイリュウは一歩下がり、ヤクホーシを胸に抱えた。
「なんで渡さないといけない!」
「我々が探していたものだからだよ。」
「探してた?」
モモトが聞き返す。
男はヤクホーシを指さした。
「お前たちは、そのヤクホーシを使ってここまで来たのだろう。」
「ああ。この地図があったから、テンビーンを見つけられた。」
サイリュウが答えると、男は鼻で笑った。
「地図?」
「何がおかしい!」
「お前たちは、本当に何も知らないのだな。」
男はテンビーンへ視線を向けた。
青く澄んだ水面が、太陽の光を受けて静かに輝いている。
「ヤクホーシは、テンビーンの居場所を示すだけのものではない。」
「え?」
「テンビーンを、望む場所へ留めることのできる唯一の道具だ。」
「留める……?」
モモトはヤクホーシを見つめた。
「じゃあ、テンビーンが動かなくなるってこと?」
「そういうことだ。」
男は口元に笑みを浮かべる。
「我々はそのために、長い間ヤクホーシを探していた。」
オーディが剣の柄へ手をかけた。
「それで、ヤクホーシを使って何をするつもりだ。」
「決まっている。」
男はテンビーンを見渡した。
「ここを我々のものにする。」
「そして、この地に新たな王国を築くのだよ。」
サイリュウは眉をひそめた。
「王国……?」
「ああ。」
「ヤクホーシでテンビーンを動けなくすれば、もう水を追いかける必要はない。」
男は両手を広げた。
「この豊かな水も、緑も、すべて我々のものになる。」
「ちょっと待て。」
サイリュウが一歩前へ出る。
「テンビーンは、サンザイ砂漠のみんなに水を届けてるんだぞ。」
「それがどうした。」
男は冷たく言い放った。
「我々の国には関係のないことだ。」
「そんな……。」
ビリュウが小さく声を漏らす。
男は再びサイリュウへ手を差し出した。
「分かっただろう。」
「さあ、ヤクホーシを渡せ。」
サイリュウはぎゅっとヤクホーシを握りしめた。
「……渡せない。」
「テンビーンは、お前たちだけのものじゃない!」
サイリュウが叫ぶ。
男の笑みが消えた。
「そうか。」
後ろにいた五人の男たちが、一斉に前へ出る。
「ならば、力ずくでいただくまでだ。」
オーディが剣を抜いた。
「やっぱりそうなるか。」
男も一歩前へ出る。
「覚えておけ。」
「私の名は――キンキ。」
そして、後ろに並ぶ男たちを従えるように両手を広げた。
「我々は、ユウガイ旅団だ。」
男は不気味に笑った。
その目は、モモトたちではなく、サイリュウの持つヤクホーシだけを見ていた。
「さあ。その紙を渡してもらおう。」
「ダメだよ!」
モモトが思わず声を上げる。
男は初めてモモトへ視線を向けた。
「関係ない者は黙っててもらおう。」
「関係なくないよ!」
モモトが言い返そうとした、その前にオーディが剣を抜いた。
「関係あるさ。」
男の目がオーディへ向く。
「何?」
「そのヤクホーシの本当の持ち主は、サイリュウじゃない。」
オーディはモモトの前へ立った。
「こいつだ。」
男の視線が、ゆっくりとモモトへ移る。
「……お前が?」
モモトは少し緊張しながらも、しっかりとうなずいた。
「うん。だから渡さない。」
一瞬、男は黙った。
やがて、その口元に笑みが浮かぶ。
「そうか。」
「なら、話は早い。」
男が片手を上げる。
それを合図に、後ろにいた男たちが一斉に前へ出た。
「持ち主が誰であろうと関係ない。」
「渡さぬというのなら――力ずくで奪うまでだ。」
オーディも一歩前へ出て、剣を構えた。
ジャリッ。
砂を踏む音が響いた。
部下たちが一斉に襲いかかる。
「モモト!」
オーディは前へ飛び出した。
「サイリュウ! モモトを守れ!」
「バインドパウダー!」
サイリュウが両手を突き出す。
白い粉が風に乗って舞い、ユウガイ旅団の部下たちへ降りかかった。
「うっ!」
「動けない!」
足元へまとわりついた粉が体の自由を奪う。
「今だ!」
オーディが一気に踏み込んだ。
「ムーンブレイク!」
白銀の斬撃が一直線に走り、動きを止められた部下たちを次々と吹き飛ばす。
テンビーンのほとりに砂煙が舞い上がった。
「ほぉ、やるな。」
キンキが口を開く。
「サンザイの魔法使いと剣士か。」
「なかなか悪くない組み合わせだ。」
オーディは剣先を向けた。
「次はお前だ!」
二人は同時に飛び出す。
「バインドパウダー!」
サイリュウの粉がキンキへ降り注ぐ。
しかし――。
キンキは一歩も動かなかった。
『アッカ!』
ボォンッ!!
目に見えない衝撃が放たれる。
白い粉は一瞬で吹き飛び、砂の中へ消えた。
「なっ!?」
サイリュウが目を見開く。
その隙にオーディが間合いへ入る。
「ムーンブレイク!!」
鋭い一撃がキンキへ迫る。
キンキはわずかに体をひねった。
剣は黒いマントをかすめるだけだった。
「……ムーンブレイクか。」
キンキは初めてオーディをじっと見る。
「なるほど。お前、月の騎士だな。」
オーディの表情が変わる。
「知ってるのか?」
「ああ。」
キンキは静かに笑った。
「強いわけだ。」
オーディは息を整え、再び剣を構える。
しかし、キンキは首を横に振った。
「だが……。まだまだだな。」
右手を静かに前へ突き出す。
『アッカ!』
ドォォン!!
「ぐああっ!!」
オーディの体が大きく吹き飛び、テンビーンの外まで転がっていった。
「オーディ!」
サイリュウが駆け寄ろうとする。
「バインド――」
魔法を唱えるより早く、
『アッカ!』
再び衝撃が走る。
「うわあっ!!」
サイリュウも大きく吹き飛ばされ、オーディのすぐ横へ叩きつけられた。
ヤクホーシが手から離れ、砂の上へ落ちる。
キンキはゆっくりと歩み寄り、それを拾い上げた。
「これでいい。」
モモトは思わず駆け出す。
「返して!」
だが、部下たちが立ちはだかる。
キンキはヤクホーシを見つめ、満足そうに微笑んだ。
「ヤクホーシは、もらっていく。」
「我々は――ユウガイ旅団。また会おう。」
そう言い残すと、キンキたちはテンビーンの中へ姿を消していった。
すると、テンビーンはゆっくりと砂漠を滑るように動き始める。
「待って!」
モモトが叫ぶ。
しかし、オアシスは少しずつ遠ざかり、やがて岩山の向こうへ消えていった。
モモトは動けないオーディを支えた。
ビリュウはサイリュウを抱き起こす。
追いかける力は、もう残っていなかった。
四人は悔しさを胸に、サンザイシティへの帰路についた。




