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まほうのピルケース   作者: 南 春


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13/15

サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 テンビーンを追え

 フンサイ長老はヤクホーシを見つめながら言った。


「テンビーンが今おる場所は、おそらく街の西側じゃ。」


 長老は動く青い印を指差す。


「この地図で見る限り、西の岩山の手前あたりじゃろう。」


「街を出れば、数分ほどの距離じゃ。」


 モモトは力強くうなずいた。


「分かった!」


「急ごう!」


 モモトたちが店を飛び出そうとした、そのときだった。


「オーディ。」


 モモトは店のテーブルに置かれた水差しを指さした。


「一応、水を飲んでおいて。」


「何があるか分からないから。」


 オーディは少し笑う。


「俺は、水がなくても大──」


 そこまで言いかけて、ふっと言葉を止めた。

 命の泉の水を浴びたときのことが頭をよぎる。

 あのとき、自分の力は確かに引き出された。

 オーディは苦笑しながら、木のコップへ水を注いだ。


「……分かった。」


「備えられるなら、その方がいいな。」


 コップの水を一気に飲み干す。


「よし。」


 剣を腰に差し直すと、モモトへうなずいた。


「行こう。」


 街を出てしばらくすると、足元の砂が少しずつ深くなっていった。

 一歩進むたびに靴が沈み、思うように前へ進めない。


「歩きにくい……。」


 モモトは何度も足を取られながら、オーディのあとを追った。


「この辺りは風で砂の形がすぐ変わる。」


 オーディは周囲を見渡す。


「方向を間違えたら、同じ場所をぐるぐる回ることになるぞ。」


「じゃあ、どっち?」


「長老の話だと、あそこに見える岩山を目指せば――」


 オーディの言葉が止まった。


「……なんだ、あれ。」


「え?」


 モモトも顔を上げる。

 岩山の向こうに、何かが見えていた。


 緑。


 砂漠へ来てから、一度も見なかった色だった。

 モモトは思わず目をこする。

 岩山の陰には、青々とした草木が広がっている。

 その中央では、大きな水面が空の光を受け、水色にきらきらと輝いていた。


「水……?」


 モモトは息をのんだ。


 大きな木々。


 生い茂る草。


 風に揺れる葉。


 そして、その真ん中に広がる透き通った湖。

 ここへ来る途中には、絶対になかった景色だった。


「オーディ……。」


「ああ。」


 オーディも目を離せずにいる。


「間違いない。」


「あれが……テンビーンだ。」


 二人はその美しい景色にしばらく言葉を失っていた。

 しかし、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。

 テンビーンは今も動き続けている。

 モモトたちは岩山へ向かって駆け出した。

 岩山へ近づくにつれ、足元の砂はさらに深くなっていく。


 そのときだった。


「あっ!」


 モモトが岩山の向こうを指差した。


「サイリュウたちだ!」


 遠くに、小さく二つの人影が見える。

 サイリュウとビリュウは、何かを目指すように必死に走っていた。


「追いかけよう!」


 モモトが駆け出そうとした、その瞬間――。


 ズズズズズッ!!


 足元の砂が大きく盛り上がる。


「来るぞ!」


 オーディがモモトを後ろへかばった。

 砂を突き破り、巨大なネッパツが姿を現す。

 何十本もの足をうねらせ、大きなあごを鳴らしながら二人へ襲いかかった。


「またお前か!」


 オーディは剣を抜く。

 今度は迷いがなかった。


「モモト!」


「うん!」


 モモトはすぐにオーディの後ろへ下がる。

 ネッパツが勢いよく飛びかかる。

 オーディは横へ飛び、その一撃をかわした。

 砂煙が大きく舞い上がる。


「前みたいにはいかないぞ。」


 オーディは剣を構え直した。

 さっき店で飲んだ水が、体の奥へ染み渡るような感覚がある。

 ネッパツが再び地中へ潜る。


「モモト! 離れるな!」


「うん!」


 砂が盛り上がる。

 オーディはその動きを見逃さなかった。


「そこだ!」


 飛び出してきたネッパツへ、一気に踏み込む。


「ムーンブレイク!!」


 白銀の光が剣から放たれる。

 一直線に走った光は、ネッパツを大きく切り裂いた。


 ドォォン!!


 ネッパツは悲鳴を上げながら砂へ倒れ込み、そのまま動かなくなった。

 静寂が戻る。


 モモトは目を輝かせた。


「すごい! 一撃だ!」


 オーディは剣をしまい、小さく笑う。


「今度は間に合ったな。」


 しかし、その表情はすぐに引き締まる。


「急ごう。」


「サイリュウたちが待っている。」


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