サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 テンビーンを追え
フンサイ長老はヤクホーシを見つめながら言った。
「テンビーンが今おる場所は、おそらく街の西側じゃ。」
長老は動く青い印を指差す。
「この地図で見る限り、西の岩山の手前あたりじゃろう。」
「街を出れば、数分ほどの距離じゃ。」
モモトは力強くうなずいた。
「分かった!」
「急ごう!」
モモトたちが店を飛び出そうとした、そのときだった。
「オーディ。」
モモトは店のテーブルに置かれた水差しを指さした。
「一応、水を飲んでおいて。」
「何があるか分からないから。」
オーディは少し笑う。
「俺は、水がなくても大──」
そこまで言いかけて、ふっと言葉を止めた。
命の泉の水を浴びたときのことが頭をよぎる。
あのとき、自分の力は確かに引き出された。
オーディは苦笑しながら、木のコップへ水を注いだ。
「……分かった。」
「備えられるなら、その方がいいな。」
コップの水を一気に飲み干す。
「よし。」
剣を腰に差し直すと、モモトへうなずいた。
「行こう。」
街を出てしばらくすると、足元の砂が少しずつ深くなっていった。
一歩進むたびに靴が沈み、思うように前へ進めない。
「歩きにくい……。」
モモトは何度も足を取られながら、オーディのあとを追った。
「この辺りは風で砂の形がすぐ変わる。」
オーディは周囲を見渡す。
「方向を間違えたら、同じ場所をぐるぐる回ることになるぞ。」
「じゃあ、どっち?」
「長老の話だと、あそこに見える岩山を目指せば――」
オーディの言葉が止まった。
「……なんだ、あれ。」
「え?」
モモトも顔を上げる。
岩山の向こうに、何かが見えていた。
緑。
砂漠へ来てから、一度も見なかった色だった。
モモトは思わず目をこする。
岩山の陰には、青々とした草木が広がっている。
その中央では、大きな水面が空の光を受け、水色にきらきらと輝いていた。
「水……?」
モモトは息をのんだ。
大きな木々。
生い茂る草。
風に揺れる葉。
そして、その真ん中に広がる透き通った湖。
ここへ来る途中には、絶対になかった景色だった。
「オーディ……。」
「ああ。」
オーディも目を離せずにいる。
「間違いない。」
「あれが……テンビーンだ。」
二人はその美しい景色にしばらく言葉を失っていた。
しかし、いつまでも立ち止まっているわけにはいかない。
テンビーンは今も動き続けている。
モモトたちは岩山へ向かって駆け出した。
岩山へ近づくにつれ、足元の砂はさらに深くなっていく。
そのときだった。
「あっ!」
モモトが岩山の向こうを指差した。
「サイリュウたちだ!」
遠くに、小さく二つの人影が見える。
サイリュウとビリュウは、何かを目指すように必死に走っていた。
「追いかけよう!」
モモトが駆け出そうとした、その瞬間――。
ズズズズズッ!!
足元の砂が大きく盛り上がる。
「来るぞ!」
オーディがモモトを後ろへかばった。
砂を突き破り、巨大なネッパツが姿を現す。
何十本もの足をうねらせ、大きなあごを鳴らしながら二人へ襲いかかった。
「またお前か!」
オーディは剣を抜く。
今度は迷いがなかった。
「モモト!」
「うん!」
モモトはすぐにオーディの後ろへ下がる。
ネッパツが勢いよく飛びかかる。
オーディは横へ飛び、その一撃をかわした。
砂煙が大きく舞い上がる。
「前みたいにはいかないぞ。」
オーディは剣を構え直した。
さっき店で飲んだ水が、体の奥へ染み渡るような感覚がある。
ネッパツが再び地中へ潜る。
「モモト! 離れるな!」
「うん!」
砂が盛り上がる。
オーディはその動きを見逃さなかった。
「そこだ!」
飛び出してきたネッパツへ、一気に踏み込む。
「ムーンブレイク!!」
白銀の光が剣から放たれる。
一直線に走った光は、ネッパツを大きく切り裂いた。
ドォォン!!
ネッパツは悲鳴を上げながら砂へ倒れ込み、そのまま動かなくなった。
静寂が戻る。
モモトは目を輝かせた。
「すごい! 一撃だ!」
オーディは剣をしまい、小さく笑う。
「今度は間に合ったな。」
しかし、その表情はすぐに引き締まる。
「急ごう。」
「サイリュウたちが待っている。」




