サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 ヤクホーシ
「あれ……?」
ビリュウは思わず声を漏らした。
水がこぼれた薄茶色の紙に、青い線がゆっくりと浮かび上がっていく。
「何これ……。」
モモトたちは一斉に身を乗り出した。
何も描かれていなかった紙は、いつの間にか砂漠を見下ろいたような一枚の地図へと変わっていた。
道のような線。
岩山の印。
そして、その中央には、小さな青い水たまりのような印が描かれている。
「これ……湖?」
モモトが指をさした、その瞬間だった。
青い印が、ゆっくりと動いた。
「えっ!?」
四人は息をのむ。
風で紙が揺れたわけではない。
誰かが動かしたわけでもない。
青い水たまりだけが、生き物のように砂漠の上をゆっくりと移動していた。
「動いてる……。」
ビリュウが小さくつぶやく。
サイリュウは紙を見つめたまま、信じられないというように首を振る。
「そんな……。」
「地図が動くなんて、聞いたことがない。」
まだ食事の途中だった。
それでもサイリュウは立ち上がると、店を飛び出した。
「兄さん!」
ビリュウが呼び止める間もなく、その姿は人混みの中へ消えていく。
モモトたちは、紙を見つめたままだった。
青い水たまりのような印は、今もゆっくりと動いている。
「本当に動いてる……。」
モモトがつぶやく。
オーディも目を細めた。
「地図が生きているようだな。」
誰も紙から目を離せなかった。
しばらくして、息を切らしたサイリュウが戻ってきた。
その後ろには、フンサイ長老の姿があった。
「どこじゃ!」
長老は肩で息をしながら店へ入る。
サイリュウが紙を差し出した。
「これです。」
フンサイ長老は震える手で紙を受け取った。
そして、その瞬間――。
表情が変わる。
「……なんじゃ、これは。」
長老の目は、紙の上をゆっくりと動く青い印へ釘付けになった。
何度も目をこすり、もう一度見つめる。
「間違いない……。」
その声は震えていた。
「これは……テンビーンへの地図じゃ。」
部屋の空気が張り詰める。
長老は青い印を指差した。
「しかも、この印は……。」
「今も動いておる。」
フンサイ長老は震える手で紙を受け取った。
青い印は、今もゆっくりと砂漠の上を動いている。
長老は目を見開いた。
「……兄の言っていたものは、本当にあったんじゃ。」
モモトが首をかしげる。
「お兄さん、何て言ってたの?」
長老は紙から目を離さず、小さくつぶやいた。
「兄は言っておった。」
『テンビーンを追う地図の名は、ヤクホーシ。』
『それさえあれば、必ずテンビーンへたどり着ける。』
「わしは伝説だと思っておった。」
「まさか、この目で見る日が来るとは……。」
「ここは……。」
ビリュウがヤクホーシを見つめ、小さくつぶやいた。
「サンザイシティの近くじゃない。兄さん」
サイリュウも地図をのぞき込み、うなずく。
「間違いない。」
「急げば追いつける。」
そう言うと、サイリュウはヤクホーシを手に取り、店を飛び出した。
「兄さん!」
ビリュウも慌てて後を追う。
「お前たち、待て!」
フンサイ長老が声を張り上げた。
「街の者を集めてから向かうんじゃ!」
しかし、サイリュウは振り返らない。
あっという間に二人の姿は市場の人混みへ消えていった。
長老はため息をつく。
「……仕方ない。」
そしてモモトとオーディを見つめた。
「すまんが、あの二人を頼む。」
「わしらも街の者を集めて、すぐ後を追う。」
モモトはうなずいた。
「うん!」
長老は少し寂しそうに笑う。
「あの二人は、わしの兄……ダジョウの子どもなんじゃ。」
「えっ!?」
モモトとオーディは顔を見合わせた。
「ビリュウは、まだ幼かった。」
「父親のことは、ほとんど覚えておらんじゃろう。」
「じゃが、サイリュウは違う。」
長老は市場の出口へ目を向ける。
「あの子は父親と過ごした日々を覚えておる。」
「兄、ダジョウが夢見たものを、自分の目で確かめたい。」
「そして……。」
少し言葉を選ぶように目を閉じた。
「兄が間違っておらんかったことを、誰より証明したいと思っておるのかもしれんな。」




