サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 幻のオアシス テンビーン
フンサイ長老は静かに立ち上がると、壁に掛けられた古い絵を外した。
そこには、青く輝く大きな湖と、緑に覆われた草原が描かれていた。
「これが昔のサンザイ砂漠じゃ。」
モモトは目を丸くした。
「えっ!? 砂漠じゃない!」
長老はうなずく。
「昔、この地は一面が緑の草原だった。」
「その恵みを与えておったのが、幻のオアシス――テンビーンじゃ。」
オーディが身を乗り出す。
「幻のオアシス?」
「そうじゃ。」
「テンビーンは、一つの場所にはとどまらん。」
「砂漠の中を、絶えず移動し続けておる。」
「動くってどういうこと?まさか生き物?」
モモトが尋ねる。
長老は首を横に振った。
「いや、生き物ではないが、意思を持っておる。」
「それもあって、テンビーンは、自ら行き先を選んでいるようなのだ。」
「行き先を?」
「人が誰も住めぬ土地には、決して姿を現さぬ。」
「人々が生きる場所を探し、水を与え続けてきた。」
長老は静かに目を閉じる。
「しかし、ある日を境に、テンビーンは姿を消した。」
「その理由は、今も分からぬ。」
部屋は静まり返った。
やがて長老は、小さくつぶやく。
「兄は、その理由を知る"鍵"があると言って旅に出た。」
「じゃが……。」
「わしらはそれを笑ってしまった。」
「そんなもの、あるはずがない、と。」
長老は拳を握る。
「もし、あの時……。」
「兄の言葉を信じておれば……。」
フンサイ長老は静かに微笑んだ。
「今日は長旅で疲れたじゃろう。」
「難しい話は、このくらいにしておこう。」
長老はサイリュウへ目を向ける。
「サイリュウ。この二人を町へ案内してやりなさい。」
「せっかくじゃ。一緒に食事でもしてくるといい。」
サイリュウは小さくうなずいた。
「分かりました。」
その横で、ビリュウも少しうれしそうな表情を浮かべる。
モモトは思わず笑顔になる。
「やった!」
オーディも立ち上がり、小さく息をついた。
「まずは腹ごしらえだな。」
サイリュウに案内され、四人は市場へ向かった。
サンザイシティの市場は、とてもにぎやかだった。
あちこちから、おいしそうな香りが漂ってくる。
「わあ……。」
モモトは目を丸くした。
並んでいる料理は、どれも見たことのないものばかりだった。
丸い団子。
薄くのばして焼いたせんべいのようなもの。
そして、丸く焼き上げられた、ふわふわの食べ物。
「それ、おいしそう!」
モモトが指をさすと、ビリュウが小さく笑った。
「これはコーナだよ。」
「サンザイシティで一番人気の食べ物なんだ。」
「コーナ?」
「甘い蜜をかけて食べる人もいるし、お肉や野菜をはさんで食べる人もいるよ。」
「ホットケーキみたい!」
モモトはうれしそうに声を上げた。
サイリュウは首を傾げながら。
「ホットケーキが何かは分からないけどな。」
四人は市場の店先で、コーナを食べていた。
ふわふわの生地に甘い蜜がかかり、モモトは思わず笑顔になる。
「おいしい!」
オーディがモモトを見た。
「そういえば、モモトは俺たちの世界のことをたまにわかってることがあるよな。」
「命の水を俺にかけることも知っていた。」
「どうしてなんだ?」
モモトは少し考えてから答えた。
「近所のおじいさんが、いつもいろんなことを教えてくれるんだ。」
「そのお爺さんは物知りなんだな。」
サイリュウが感心したようにうなずく。
「そういえば、ここにくる前におじいさんにもらった紙があった。」
モモトはポケットから薄茶色の紙を取り出した。
「これ。」
サイリュウは紙をのぞき込む。
「変わった紙だな。」
オーディが手を伸ばした、そのとき――
「あっ!」
ビリュウが慌ててコップに触れてしまった。
コップの水が、紙を濡らす。
「ご、ごめんなさい!」
ビリュウが慌てて紙を拾い上げる。
その瞬間だった。
「あれ……?」
ビリュウは思わず紙を見つめた。
薄茶色だった紙に、青い線が一本、ゆっくりと浮かび上がる。
「えっ!?」
モモトたちは一斉に身を乗り出した。
線は少しずつ増え、やがて砂漠のような模様を描き始める。
サイリュウが息をのんだ。
「……これは。」
誰も、その紙から目を離せなかった。




