サンザイ砂漠とヤクホーシの謎 サンザイシティ
「歩けるか?」
少年はモモトへ手を差し伸べた。
「うん、大丈夫。」
モモトが立ち上がると、少女はほっと胸をなで下ろした。
「よかった……。」
小さな声だった。
少年は軽くうなずく。
「俺はサイリュウ。」
隣に立つ少女へ目を向ける。
「こっちは妹のビリュウ。」
ビリュウは少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「よろしく……。」
オーディは砂の中でうごめく怪物を見つめる。
「あの怪物は何なんだ?」
サイリュウは振り返った。
「あれはネッパツというサンザイ砂漠にすむ魔物だよ。」
「砂の中を自由に動き回って、旅人を襲うんだ。」
ネッパツは体を震わせながら、少しずつバインドパウダーを振りほどこうとしていた。
「長くは止めておけない。ここにいるのは危険だ。あそこに俺たちの町がある。そこへ行こう。」
サイリュウは砂漠の向こうを指さした。
「話は歩きながら聞こう。」
四人は砂漠を歩き始めた。
しばらくすると、大きな岩山が見えてくる。
その陰へ回ると――
「わあ……。」
モモトは思わず声を上げた。
そこには砂色の家々が並ぶ、大きな町が広がっていた。
家の屋根には強い日差しを遮る布が張られ、細い路地には砂よけの壁が続いている。
人々は頭から布をコートのようにかぶり、照りつける太陽の下を忙しそうに歩いていた。
「ここが……。」
「サンザイシティだ。」
サイリュウは静かに答えた。
サイリュウは二人を連れて、一際大きな屋敷へ入った。
屋敷の奥には、白いひげを胸まで伸ばした老人が静かに腰を掛けていた。
額には、炎の刻印が輝いている。
「フンサイ長老。」
サイリュウが頭を下げる。
「砂漠で旅人を助けました。」
長老はゆっくりと目を開き、モモトとオーディを見つめた。
「ほう……。」
その視線は、オーディの額で止まる。
「その満月の刻印……。」
オーディは一歩前へ出た。
「ジョーザイ王国の騎士、オーディです。」
フンサイ長老は驚いたように目を見開いた。
「ジョーザイ王国じゃと……。」
「よくここまで来られたのう。」
長老は懐かしそうに目を細める。
「実は、わしの兄も若いころ、ジョーザイ王国を目指して旅立った。」
「それきり、一度も戻ってはこん。今も元気にしておればよいがのう。」
「あっ!」
モモトは声を上げた。
「ぼく、その人に会ったことあるよ!」
「何?本当か」
フンサイ長老が身を乗り出した。
モモトはオーディを見た。
「ねえ、オーディも知ってるよね?」
しかし、オーディは首を横に振った。
「いや。私はジョーザイ王国で炎の刻印の者を見た覚えはない。」
「えー?」
モモトは目を丸くする。
「ぼくは、見たよ。街路樹の手入れをしてたもん。」
フンサイ長老は驚いたように立ち上がった。
「……そうか。でもサンザイの住人がジューザイ王国にいたかもしれんのだな。」
部屋の空気が静まり返った。
フンサイ長老はしばらく黙り込んでいた。
やがて、ももとを見て話し出した。
「もし……。」
「もし、また兄に会うことがあれば伝えてくれんか。」
モモトはうなずいた。
「何て?」
長老は静かに目を閉じた。
「わしらが……間違っておった、と。」
「あのとき、兄の言うとおりにしておれば……。」
「サンザイ砂漠は、こんな姿にはならなかったのかもしれん。」
モモトには、その意味がよく分からなかった。
それでも、長老の悲しそうな顔を見て、小さくうなずく。
「うん。」
「もし会えたら、ちゃんと伝える。」
長老は優しく微笑んだ。
「ありがとう。」
そのとき、オーディがモモトのピルケースへ目を向けた。
「おい!モモト。」
「モモトは、そのピルケースでジョーザイ王国へ来たんだよな。」
「ということは、もう一度開けば戻れるんじゃないか?」
「確かに!やってみる」
モモトは急いでピルケースを取り出した。
月の部屋へ手をかける。
カチッ。
ふたは開いた。
二人は息をのむ。
しかし――。
何も起こらなかった。
「……あれ?」
もう一度閉めて開ける。
それでも何も起こらない。
「どうして……。」
モモトはもう一度、炎の部屋を開いてみた。
何も起こらない。
月の部屋も開いてみる。
やはり、何も起こらなかった。
オーディは腕を組み、小さく息をつく。
「やっぱり、この世界では使えないのか……。」
フンサイ長老は静かに首を振った。
「その箱にも、まだ知られていない決まりがあるのかもしれんのう。」
モモトはピルケースを見つめた。
さっきまで自分をここへ導いてくれた箱は、まるで何事もなかったかのように静かだった。
サンザイ砂漠には来られた。
なのに、帰ることはできない。
モモトはピルケースをそっと握りしめた。




