第2話 素朴な食卓と、疼く違和感
村長の家の食堂は、木の温もりを感じる素朴な空間だった。
天井から吊るされたランプの柔らかい光が、木製のテーブルと椅子を照らしている。
夕食が運ばれてきた。
煮込んだ根菜と豆のシチュー、少し硬い黒パン、わずかな塩漬け肉。
正直、味気ない。地球の基準で言えば「まずくはないが、毎日これか……」というレベルだ。
俺は一口食べてから、静かに村長に話しかけた。
「素材は新鮮で良いですね。でも、味付けがシンプルすぎる気がします。ここら辺は香辛料があまり取れないんですか?」
村長のガルドは、苦笑しながら頷いた。
「そうなんじゃよ、悠真さん。王都から運んできても値が張るし、保存も難しい。塩以外はほとんど使わんのが普通でな。味気ないのはみんなわかっとるんじゃが……」
隣に座るリリアが申し訳なさそうに肩を縮めた。
「ごめんなさい……私、もっと美味しいものを作れるようになりたいんですけど、村のみんなも同じようなものしか食べたことなくて……」
彼女の声は柔らかく、少し自信なさげだ。
金色のポニーテールがランプの光に輝き、白いワンピースの胸元が緊張で小さく上下している。
俺は無限倉庫から小さな紙袋を三つ取り出した。
コンソメ、黒胡椒、乾燥ローズマリー。ほんの少しだけ。
「じゃあ、試しに少し加えてみていいですか?」
許可を得てシチューに軽く振りかけ、木べらで混ぜながら弱火で煮込む。
すぐに、食欲を刺激する香ばしい匂いが部屋中に広がった。
村長の目が大きく見開かれる。
「おお……! なんて良い香りじゃ!」
リリアもスプーンを口に運んだ瞬間、体をびくっと震わせた。
「っ……! すごい……温かくて、奥深い味が……!お肉の旨味が全然違います! 悠真様、どうしてこんなに……?」
俺は肩をすくめて軽く答えた。
「昔、ちょっと料理に興味を持って調べたことがあるだけですよ。この村の食材は本来、もっと美味しくなるポテンシャルがあると思います」
周りにいた村の女性たち(村長の妻と近所の叔母さん)も集まってきて、大絶賛の嵐になった。
「本当に美味しいわねえ!」
「これなら毎日食べられそう」
「悠真さん、旅の人なのにすごいね!」
俺は内心でほっとしていた。
(よし、上手くいった。スローライフするなら、飯だけでも満足できる環境にしたい)
ただ、派手に自慢する気はない。目立つのは面倒だ。
だからあえて控えめに微笑んだ。
「みんなが喜んでくれるなら、滞在中にたまに味付けの手伝いしますよ。……俺はのんびりさせてもらえれば、それで十分ですから」
リリアの瞳が熱を帯びて輝いた。
彼女は俺のすぐ隣に体を寄せ、腕が触れ合う距離で食事を続ける。
時折、甘い汗と若い女性特有の柔らかい体臭がふわりと漂ってくる。
食事が進む中、俺は軽く鑑定EXを発動させてみた。
【リリア・フォン・ヴェルナ 18歳】
・村長の娘
・現在の好感度:78(急上昇中)
・身体的特徴:敏感体質・未経験
・感情状態:強いときめき+性的興奮の兆し+保護欲
……瞬間的に、詳細な情報が頭に流れ込んできた。
同時に、ズキンという鋭い痛みが後頭部を襲う。
脳が直接圧迫されるような重い倦怠感。軽い目眩までする。
(……これはヤバいな。情報量が多いほど負担がデカい)
俺はすぐに鑑定を切った。額に薄く汗が浮かぶ。
(スキルは便利だけど、こんな代償があるなんて……本気でチートを連発したら、のんびりするどころか寝込んで終わりだ)
リリアが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「悠真様……どうかしましたか? 顔色が少し悪いですけど……」
「いや、大丈夫。ちょっと疲れが出ただけだよ」
俺は笑って誤魔化した。
本当は「君のステータスを見たら頭痛がした」とは言えない。
食後、リリアは俺の部屋に湯を運んできた。
桶から湯気が立ち上り、彼女の首筋を湿らせている。
「背中……お流ししましょうか?汗を流した方が、きっと楽になりますよ……」
声が上ずり、瞳は潤んでいる。
白いワンピースの布地が汗で体に張り付き、柔らかな胸の形と細い腰のラインがくっきりと浮かび上がっていた。
俺は丁寧に断った。
「気持ちは本当に嬉しい。でも今日はもう十分。君も疲れただろうから、ゆっくり休んでくれ。」
リリアは少し残念そうに唇を尖らせたが、すぐに優しく微笑んだ。
「……わかりました。でも、本当に何かあったら、いつでも呼んでくださいね。夜中でも構いませんから……私は、悠真様のお力になりたいんです」
去り際に彼女は俺の手を両手で包み、熱い掌を長く押し当ててきた。
指先が小さく震え、名残惜しそうに離れていく。
一人になった部屋で、俺はベッドに深く腰を下ろした。
(……何か、おかしい)
リリアの反応が、ただの親切や好意の範囲を超えている気がする。
転生してまだ一日目だというのに、こんなに懐かれるのは不自然だ。
再び軽く鑑定EXを起動しようとしたが、すぐに頭痛が再発したので止めた。
(やっぱり使わない方がいい……。
俺は戦いたくないし、目立ちたくもない。ただ静かに、のんびり暮らしたいだけなんだ)
無限倉庫から冷えたビールを取り出し、一口飲む。
冷たい炭酸が喉を通り、心地よい。
外からは虫の声と、リリアが自分の部屋で小さく口ずさむ歌声が聞こえてきた。
甘く、熱を帯びた、どこか切ない旋律。
俺は天井を見つめながら、静かに思った。
(この村で、ゆっくりやっていけるといいけど……
何か、予感がするな)
女神アリアが最後にくれた「特別な祝福」の本当の効果に、
俺はまだ全く気づいていなかった。
21時に投稿していきます。
もう一つの作品も投稿してますので良ければおねがいします!
面白かったらブックマークしていただけると励みになります!
誤字等あれば指摘してくださると助かります。
次回もよろしくお願いします。




