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第8話:登録

登録証が発行されたのは、申請から三日後だった。


小さな金属製の板で、名前と所属が刻まれている。アルノー・ヴァレリウス、王立魔導学園在籍、とある。学務室の職員が「なるべく目立たないようにしてください」と言いながら渡してきた。アルノーは頷いて、それをポケットに入れた。


その日の放課後、アルノーはギルドに向かった。


西門をくぐり、石畳を歩く。前回と同じ道だが、今回は目的が違う。見学ではなく、登録のためだ。


ギルドの扉を押して入ると、前回と同じようにテーブルに冒険者たちが座っていた。その中に、ヴェルクの姿があった。アルノーに気づいて、口の端を上げた。


「また来たか、坊ちゃん。懲りないな」


アルノーはヴェルクを一瞥してから、カウンターに向かった。


エレナが受付に立っていた。アルノーが近づくと、登録証を見る前に顔を見た。


「来たか。登録証は取れたのか」


「はい」アルノーは登録証をカウンターに置いた。


エレナが登録証を手に取り、確認した。それから引き出しから書類を出して、アルノーの前に置いた。


「記名してください。これで正式な登録になります」


アルノーがペンを取ったとき、後ろからヴェルクの声がした。


「学園の推薦状まで取ってきたのか。ずいぶん根気があるじゃないか」ヴェルクがカウンターに近づいてきた。「だが坊ちゃん、登録できたからといって依頼が受けられると思うなよ。ここは実力の世界だ。紙切れ一枚で仕事ができるわけじゃない」


アルノーは署名を終えて、ヴェルクの方を向いた。


「実力が必要なのは、どの世界でも同じだと思います」


「……言うようになったな。なら見せてみろよ、その実力ってやつを」ヴェルクが右肩を動かした。微かに金属が擦れる音がした。「一週間前から、この装備の調子が悪い。蝶番が引っかかるんだ。学園の知識で直してみろ」


アルノーはヴェルクの右肩の装備を観測した。


蝶番が引っかかっているのではない。装備全体が、わずかに左に傾いている。そのせいで蝶番に不自然な負荷がかかり、結合部が歪んでいる。


「三日ほど前に、どこかにぶつけませんでしたか」


ヴェルクの動きが止まった。


「……なんでそれを知ってる」


「歪みの方向から分かります。左側からの衝撃で、全体が右にずれている。その状態で使い続けたので、蝶番が変形しています。放置すれば、戦闘中に外れますよ」


「直せるのか」


「完全に直すには工房での調整が必要ですが、今すぐ使えるようにはできます。三日以上は経っています」


ヴェルクがアルノーを見た。馬鹿にした色が、少し薄れていた。


「なぜ今まで言わなかった」


「登録が済んでからにしようと思っていました。登録前に何かを指摘しても、信用がありませんから」


沈黙があった。


エレナがカウンターの向こうで、かすかに口元を動かした。笑ったのか、それとも別の何かなのか、アルノーには判断できなかった。


「……工具を貸してやる」ヴェルクが低い声で言った。「直せるなら、直してみろ」


「工具は不要です」


「不要?」


「指先で十分です」


ヴェルクが怪訝な顔をしたまま、アルノーの前に立った。アルノーは右肩の装備の蝶番を確認した。ネジが一本、緩んでいる。工具があれば締めるだけだが、なくても問題ない。


蝶番の金属部分を指先で押さえ、最小限の魔力を流した。金属の歪みを観測しながら、緩みの方向と逆に微細な力をかける。均整を取るのではなく、締まる方向に少しだけ押す。


数秒後、蝶番が固定された。


ヴェルクが右肩を動かして確認した。それから、もう一度アルノーを見た。


「……本当に直った」


「緩みの方向に逆の力をかけただけです」


「魔法陣も使わずに?」


「小さな修正に、魔法陣は必要ありません」


ヴェルクがしばらく黙っていた。テーブルに戻った後も、何度か右肩を確認していた。


エレナが登録完了の証明書をカウンターに置いた。


「これで正式な登録が完了した。受けられる依頼のランクは最低から始まる。掲示板の白い紙から選びなさい」


「ありがとうございます」


アルノーは証明書を受け取り、掲示板に向かった。


背後でヴェルクが仲間に「今の、見たか?」と小声で話しているのが聞こえた。アルノーはそれを気にせず、白い依頼用紙の一枚を手に取った。


最初の依頼は、民家の加熱器具の修復だった。

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