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第7話:学年主任

オルテ学年主任の居室は、管理棟の二階にあった。


セルダンの居室が廊下の突き当たりにある簡素な部屋だったのに対し、オルテの居室は扉が重厚な木製で、両側に小さな魔法灯が置かれている。格が違う、ということをさりげなく示す作りだとアルノーは思った。


扉をノックすると、少し間があってから「どうぞ」という声がした。


中に入ると、六十代と思われる男が革張りの椅子に座っていた。白髪で、体格は細い。しかし背筋が伸びており、目に力がある。机の上には書類が整然と並んでいた。左右対称に配置されており、几帳面な性格が見て取れる。


「ヴァレリウス三男か」オルテは書類から目を上げずに言った。「セルダンから話は聞いている。座りなさい」


アルノーは椅子に座った。


「冒険者登録の件ですね」オルテがようやく書類を置いて、アルノーを見た。「セルダン先生が推薦状を出せなかった理由は理解していますか」


「秩序の問題だとおっしゃっていました」


「それは表向きの理由です」オルテは静かに言った。「本当の理由は別にあります」


アルノーは黙って続きを待った。


「あなたが入学試験で試験陣を修正したことは、すでに学園全体に知れ渡っています。灰練の一年生が王立の標準陣式に手を加えた。それだけで、複数の教師から問い合わせが来ています」オルテは続けた。「その上で、冒険者登録をして学園の外で魔法陣を扱い始めたとなれば、それはもはや個人の問題では済まない。王立の権威に関わる問題です」


「歪みを直すことが、なぜ権威に関わるのですか」


「正しいかどうかではなく、誰が困るかという話だ」


「学会は、私の均整理論の何を問題にしているのですか」


「問題にしているわけではありません。まだ、知らないだけです」オルテは言った。「知られる前に大きくなれば、問題になります」


「知られる前に止めるということですか」


「止めるのではなく、管理する、と言いたいところです」オルテが初めてわずかに表情を動かした。「ヴァレリウス、一つ聞かせなさい。あなたは何のために均整理論を使いたいのですか」


「魔法陣の歪みを直したいからです」


「それだけですか」


「それだけです」


オルテがしばらくアルノーを見ていた。


値踏みとも、観察ともとれる目だった。アルノーはそれを受けながら、オルテの居室を観測していた。書類の配置は左右対称で几帳面。しかし窓際の棚だけが、他と比べてわずかに乱れている。誰かに急いで片付けた跡のように見えた。


「正直な答えです」オルテが言った。「ただし、正直であることと、許可を出すことは別の話です」


「分かっています」


「では、条件を出しましょう」


アルノーは少し驚いた。拒否ではなく、条件が出てくるとは思っていなかった。


「ギルドへの登録は認めます。ただし、受ける依頼は学務室に事前申告すること。また、扱う魔法陣の内容を記録して月に一度報告すること。これを守れるなら、推薦状を出します」


「理由を聞いてもいいですか」


「管理できるなら、許可した方が得策だからです」オルテは率直に言った。「あなたを止めることはできません。規則上の根拠がない。ならば、把握しておく方を選びます」


合理的だ、とアルノーは思った。


「分かりました。その条件でお願いします」


オルテが頷き、用意してあった書類に署名をした。


「ヴァレリウス。学園の外は、学園の中よりも歪んでいます。それをすべて直そうとは思わないことです」


「できる範囲でやります」


アルノーは推薦状を受け取り、一礼して部屋を出た。


廊下に出ると、窓から夕日が差し込んでいた。均等に伸びる影。しかしその先にある壁は、長年の劣化でわずかに膨らんでいる。


直そうとは思わないこと、か。


アルノーはそう反芻しながら、推薦状を大事に懐にしまった。

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