第6話:申請
翌朝、アルノーは学務室に向かった。
学務室は白棟の隣の管理棟にある。学園に関する各種申請を受け付ける窓口で、入学手続きや履修登録もここで行う。アルノーが来るのは入学手続き以来、二度目だ。
窓口には、五十代ほどの男性職員が座っていた。眼鏡をかけており、大量の書類に囲まれている。アルノーが近づくと、書類から目を上げずに「何の用ですか」と言った。
「冒険者ギルドへの登録許可を申請したいのですが」
職員がようやく顔を上げた。アルノーの制服を一瞥して、眉をわずかに寄せた。
「灰練の一年生ですね」
「はい」
「冒険者登録の申請は、原則として二年生以上を対象としています」
「規則書を確認しましたが、学年の制限については記載がありませんでした」
職員が眼鏡を押し上げた。
「記載はありませんが、慣例として一年生は対象外としています。学業に専念する期間が必要であるという判断からです」
「慣例と規則は別のものだと思いますが」
「……それはその通りですが」職員が少し言葉に詰まった。「ただし担当教師の推薦が必要です。担当教師から推薦状をもらってきてください」
アルノーは頷いた。
「担当教師というのは、どなたですか」
「基礎理論担当のセルダン先生です。灰練の一年生を担当しています」
「分かりました」
学務室を出て、アルノーはセルダン教師の居室に向かった。基礎理論を担当するセルダンは、最初の授業でアルノーに「必要のない改変だ」と言った教師だ。推薦状をもらうのは難しい相手かもしれないとアルノーは思った。ただし感情的な判断を持ち込まない人物であれば、話は別だ。
セルダンの居室の扉をノックすると、「入りなさい」という声がした。
中に入ると、セルダンは机で書類の採点をしていた。アルノーの顔を見て、手を止めた。
「ヴァレリウスか。何の用ですか」
「冒険者ギルドへの登録申請の推薦状をいただきたいのですが」
セルダンが眉を上げた。
「冒険者登録? あなたは一年生ですよ」
「学務室でも同じことを言われました。ただし規則上の制限はないとのことで、担当教師の推薦があれば申請できると聞きました」
セルダンがしばらくアルノーを見ていた。
「理由を聞かせなさい。なぜ一年生のうちからギルドに登録したいのですか」
「ギルドには魔法陣の修復依頼が積み上がっています。王立の標準陣式を使った機器が経年で歪みを生じた案件です。私の観測眼があれば対応できると判断しました」
「学園の外で魔法陣を扱うことは、王立の管理外になります。何か問題が起きたとき、学園は責任を負えません」
「問題が起きないよう注意します」
「そういう問題ではありません」セルダンは言った。「あなたは入学してまだ一週間も経っていない。学園の基礎課程を修了する前に、外部の依頼を受けることは適切ではありません」
「基礎課程で学ぶ内容のほとんどは、すでに独学で習得しています」
「それは自己申告です」
「では試験を受けます。どのような内容でも構いません」
セルダンが採点の手を完全に止めた。
しばらく沈黙があった。窓の外から、訓練場の生徒たちの声が微かに聞こえてくる。
「……分かりました。明日の放課後、もう一度ここへ来なさい。基礎課程の修得状況を確認するための試験を行います。それに合格すれば、学年主任への取次ぎを検討しましょう」
「ありがとうございます」
アルノーは一礼して、部屋を出た。
扉を閉めるとき、セルダンがまた書類に目を戻すのが見えた。その横顔には、規律を重んじる教育者としての厳しさと、それだけではない何かが混ざっているように見えた。




