第78話:通知
結果が来たのは、翌朝の第一刻だった。
灰練の廊下に学務室からの使いの者が来て、アルノーに封書を渡した。厚みのある白い封筒で、委員会の封印が押されていた。
レイドが部屋から顔を出した。
「来たか」
「来ました」
「開けろよ」
アルノーは封を切った。
中に二枚の紙が入っていた。
一枚目を読んだ。
追加報告書の内容について、審査委員会として承認する。均整理論を学術的な研究として正式に認定する。なお、記録陣式の年代については王立研究所に独自調査を依頼する。調査結果は委員会が別途受理する。
二枚目は研究所への調査依頼の通知写しだった。
アルノーは二枚を読み終えた。
「通りました」
「条件は無いのか」
レイドが言った。
「研究所が別途、年代を調査するようです。ただしそれはアルノーへの条件ではなく、委員会が独自に動くということです」
「つまり完全に通った」
「そうです」
レイドが大きく息を吐いた。
「よかった」
それだけだった。余計な言葉はなかった。アルノーには、その短さの方が長い言葉より重く感じた。
ソレルが廊下の奥から来た。
「声が聞こえた。通ったか」
「通りました」
ソレルが頷いた。
「計測の確認は誰がやるんだ」
レイドが言った。
「王立研究所が独自に調査します。私たちが関与するのではなく、研究所が記録陣式を直接調べて委員会に結果を提出する形です。旧市街への案内は必要になるでしょうが、私たちの手を離れたところで検証が行われます」
「それでいいのか」
「いいです。研究所の専門家が認めれば、これ以上疑う余地がなくなります」
アルノーはリュミエールの自習室に向かった。
彼女は既に起きていて、机に向かっていた。アルノーが封書を見せると、彼女はしばらくそれを凝視した。
「承認されましたね」
「はい」
「研究所の調査……。クレインの指摘を、委員会は重く見たということでしょうか」
「いいえ、むしろ逆だと思います」
アルノーは言った。
「承認を出した上で、補強のために研究所を動かした。これは公式な記録として残すための手続きです。クレインがこれ以上口を出せないようにするための、ヴァルス委員長の判断だと思います」
リュミエールが少し考え、納得したように頷いた。
「分かりました。ヴェラとアルデンにも知らせます。研究所の担当者が来たときに案内できるよう、地下室の状態を確認しておきます」
「順番が決まっています」
「やることが見えているだけです」
リュミエールが立ち上がった。
「オルテのところへ、一緒に行きましょう」
二人は自習室を出た。
オルテの居室に向かう廊下を歩いていると、オルテの方から先に出てきた。手に封書を持っていた。アルノーたちを見て、少し止まった。
「ちょうど良かった」
オルテが言った。
「承認の通知は届きましたか」
「届きました。研究所が年代を独自調査するという通知も入っていました」
「そうです」
オルテが言った。
「記録の年代については、委員会として王立研究所に調査を依頼しました。学園の生徒が行うより、研究所の専門家による調査の方が証明として重みがある。旧市街への案内が必要になった際には、また連絡します」
「分かりました」
「もう一つ、伝えておくことがあります」
オルテが封書を見た。
「今朝、王立魔法学会から学園に照会が届きました。均整理論の研究内容について、学会として詳細を確認したいという内容です」
アルノーは少し間を置いた。
「照会、ですか」
「学術的な照会です。今の段階では、それ以上の意味はありません」
オルテが言った。
「ただし——」
オルテがアルノーを見た。
「承認が出た翌朝に届いた、ということは伝えておく必要があると思いました」
「分かりました」
「立ち入り制限の解除は確認しました。旧市街への立ち入りを再開して構いません」
オルテが廊下を歩いていった。
リュミエールが小声で言った。
「承認の翌朝に学会からの照会……。誰かが情報を流していますね」
「いいえ、情報の伝達速度が速いだけです。それも均整の一部かもしれません」
アルノーはそう答えて、窓の外を見た。
雨は上がっていた。




