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第73話:提出と反応

追加報告書が完成したのは、期限の三日前だった。


リュミエールとの作業を三回重ねて、草稿から最終版まで仕上げた。計測記録の追加分、レイドとソレルの実績、ギルドの修復案件の記録、そして均整理論と流れの原則の繋がりについての記述。全部で前回より三割ほど分量が増えた。


「伝わる正しさ、という基準で書きました。」リュミエールが最終版を確認しながら言った。


「難しい部分も、読みやすくなっていますか。」


「なっています。あなたの書いた理論の部分を、私が少し書き直しました。意味は変えていません。」


「ありがとうございます。」


「礼はいりません。報告書が通れば、私にも関係があることです。」


提出の当日、二人でオルテの居室に向かった。


廊下を歩いていると、クレインとすれ違った。


クレインがアルノーを見た。それからリュミエールを見た。何も言わずに通り過ぎた。


「また何か考えていそうですね。」リュミエールが小声で言った。


「観測中です。」


オルテの居室に入った。


オルテが机で書類を確認していた。二人が入ると、顔を上げた。


「期限より早いですね。」


「準備が整ったので。」


アルノーが報告書を手渡した。オルテが受け取り、確認し始めた。


最初のページから順番に読んでいく。計測記録の部分で少し止まった。均整と流れの原則の繋がりの部分で、また止まった。


「……これは。」オルテが顔を上げた。「均整理論と流れの原則が同じ根を持つという記述が入っています。」


「はい。旧市街の地下室で見つけた三百年前の記録から、そのことが分かりました。」


「旧市街の地下室。」オルテが繰り返した。「どこで見つけたのですか。」


「北区画の廃墟の地下室です。学務室への申告は済ませています。」


オルテが少し間を置いた。


「この内容は——審査委員会で議論を呼ぶ可能性があります。王立が三百年間認めてこなかった考え方が、記録として存在していたということになる。」


「そうなります。ただし——段階的に提示しています。王立の体系への直接的な批判は含めていません。」


「読めば分かります。」オルテが報告書を見た。「書き方は慎重です。ただし——内容は慎重ではない。」


「内容は正しいと思います。」


「正しいことと、通ることは別の話だということを、あなたはもう知っているはずです。」


「知っています。ただし、正しいことを書かない理由もありません。」


オルテがしばらくアルノーを見ていた。


「……相変わらずですね。」


それからリュミエールを見た。


「セレスティナ。あなたはこの内容に同意していますか。」


「はい。」リュミエールが答えた。「私の陣式で実際に確認しました。歪みを認めて方向を与えた結果、数値が改善されました。三百年前の記録が示していることと、一致しています。」


オルテが報告書を机に置いた。


「受理します。」オルテが受理の判を押した。「審査結果は一週間後に出ます。それまで、不必要な行動は控えてください。特に旧市街への立ち入りは。」


「分かりました。」


二人は居室を出た。


「一週間後ですね。」リュミエールが廊下で言った。


「はい。」


「通ると思いますか。」


「確率は上がりました。しかし、最終的な出力は観測するまで分かりません。」


「あなたらしい答えです。」リュミエールが微笑んだ。「私は、通ると信じています。それが今の私の『均整』ですから。」


アルノーは窓から空を見た。


一週間後。


その頃には、月は再び細くなっているだろう。


しかし、残された記録は消えない。


アルノーは一歩ずつ、灰練への道を歩き出した。

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