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第68話:地下室

翌日、学務室への申告を朝のうちに済ませた。


廃墟の建物の観測、という名目で申告した。場所は北区画の廃墟、同行者はレイド。職員が記録を確認して、受理の判を押した。


放課後、レイドと二人で北区画に向かった。


「廃墟の地下室か。」レイドが歩きながら言った。「なんかわくわくするな。」


「床が抜けている場所がある可能性があります。気をつけてください。」


「分かった。お前の後についていく。」


北区画に入った。昨日確認した廃墟の前に着いた。


レイドが建物を見上げた。


「古いな。」


「七十年以上、誰も手を入れていないと思います。」


「大丈夫か。」


「外壁はまだ立っています。ただし、中は慎重に進みます。」


アルノーが北側の扉を押した。軋む音がして、開いた。


中は薄暗かった。窓がないため、外の光が届かない。アルノーが指先に照明を作った。


広い空間が広がっていた。かつては何かの倉庫だったのか、壁際に古い棚の残骸が並んでいた。天井の一部が崩れており、石の破片が床に散らばっている。


「足元を確認しながら進みます。」


アルノーが床を観測しながら進んだ。一歩ずつ、床の状態を確認する。沈む感触があれば止まる。


レイドが後ろで慎重についてきた。


「ここ、踏まない方がいいか。」レイドが床の一か所を指した。


アルノーが確認した。


「そうです。基礎が弱っています。右側を通ってください。」


建物の奥に進むと、下へ続く階段があった。石造りの階段だが、角が削れている。


「地下室です。」


階段を降りた。


照明の光が、地下の空間を照らし出した。


冷たい空気が漂っている。湿り気があり、カビの匂いがした。広さは、上の部屋の半分ほどだ。


壁を見た。


アルノーは息を呑んだ。


壁一面に、符号が刻まれていた。


「……すごいな。」レイドが小声で言った。「全部、あの符号か。」


「そうです。壁画にあった符号も、オーリンの家の壁にあった符号も——それ以上の数の符号が、ここにあります。」


アルノーが壁に近づいた。


照明の光を壁に這わせる。


符号は、ランダムに刻まれているわけではなかった。一定の規則を持って並んでいる。まるで、本の一ページのように。


「全部読めるのか。」レイドが聞いた。


「今すぐは読めません。写しを取る必要があります。」


「どのくらい時間がかかる。」


「全部を写すには、何度か来る必要があります。今日は——最も重要な部分だけ。」


アルノーは壁を観測しながら、どこから始めるかを考えた。


師匠が言っていた。源は内容を示す。


源の符号が、どこかにあるはずだ。


探した。


奥の壁の中央に、源の符号があった。


その周囲に、他の符号が集まっている。


アルノーが近づいた。


源の符号の周囲の文章を、読める符号から順番に確認した。


流れ——止まらない——形は変わる——ただし——根——は——残る。


「流れは止まらない。形は変わる。ただし根は残る。」


オーリンが言っていた言葉と、同じ方向だ。


次の行を読んだ。


三百年前——王立——排除——理由——恐れ——


「三百年前に、王立が恐れた何かがある。」


レイドが後ろで黙って聞いていた。


さらに次の行を読んだ。


均整——と——流れ——は——同じ——根——から——


アルノーは手を止めた。


もう一度確認した。


均整と流れは、同じ根から。


「均整理論と、流れの原則が——同じ根を持つ。」


レイドが言った。


「どういうことだ。」


「三百年前の人間が——均整理論と流れの原則が、同じ起源を持つと記録していた。」


「それは——すごいことか。」


「すごいことです。」アルノーは言った。「ただし、まだ全部は読めていません。続きがあります。」


アルノーは無我夢中で、写しを取り始めた。

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