第60話:数列の答え
三回目の観測は、二日後に行った。
今回はレイドも地下通路の中まで入ることを認めた。観測の邪魔をしないこと、話しかけないこと、入り口近くにいることを条件にした。レイドは「分かった」と言って、照明陣の範囲の端に静かに立った。
「今日で場所の数列が完成する可能性があります。」アルノーがソレルに言った。「前回取れた一桁目と二桁目に続く、三桁目を聴き取ってください。」
「分かった。」
「一周期の中で、三つの異なるリズムが順番に来るはずです。前回は一つ目と二つ目が確認できました。今日は三つ目に集中してください。」
「集中する。」
ソレルが目を閉じた。
アルノーも陣式の観測を始めた。
螺旋状の流れ。低い音のパターン。その中の細かいリズム。前回までに確認した一桁目と二桁目のパターンを頭の中で照合しながら、三桁目が来るタイミングを待った。
「一桁目が来た。」ソレルが静かに言った。「三回高く、一回低い。前回と同じだ。」
アルノーが記録した。
「二桁目。」ソレルが続けた。「……二回高く、二回低い。これも前回と同じだ。」
「三桁目を待ちます。」
しばらく沈黙が続いた。
ソレルの耳が、ゆっくりと動いている。集中している証拠だ。
「……来た。」ソレルが言った。「三桁目だ。一回高く、三回低い。」
アルノーは記録した。
一桁目:三回高く、一回低い。
二桁目:二回高く、二回低い。
三桁目:一回高く、三回低い。
「これで場所の数列が揃いました。」
「解読できるか。」ソレルが目を閉じたまま聞いた。
「師匠の記録に対応表があります。後でアルデンと照合します。」
観測を終えて、三人で通路を戻った。
地上に出ると、レイドが「どうだった」と聞いた。
「三桁目が取れました。」
「場所が分かるのか。」
「照合すれば分かります。」
三人で旧市街を離れた。
アルノーは工房に向かった。レイドとソレルは学園に戻った。
アルデンは表の部屋にいた。器具の修復をしていた。アルノーが観測記録を見せると、アルデンは師匠の記録を取り出した。
対応表のページを開いた。
「数列を読み上げろ。」
「一桁目、三高一低。二桁目、二高二低。三桁目、一高三低。」
アルデンが対応表を確認した。
しばらく黙っていた。
「……北区画、第七通路、東壁。」
「それが場所の数列の意味ですか。」
「そうだ。」アルデンが対応表を閉じた。「旧市街の北区画、第七通路の東壁。そこに次の陣式がある、ということだ。」
「北区画の第七通路。」アルノーは繰り返した。「ヴェラに確認が必要ですか。」
「必要だ。北区画の地下構造は、俺は詳しくない。ヴェラなら知っているはずだ。」
アルデンがヴェラに連絡を入れた。ヴェラは翌日、工房に来るということだった。
翌日の放課後、工房でヴェラと会った。
アルノーが解読結果を伝えると、ヴェラは少し間を置いた。
「北区画、第七通路、東壁。」ヴェラが繰り返した。「……知っている場所だ。」
「知っていますか。」
「旧市街の北区画は、今は使われていない区画だ。建物が古くなって、人が住まなくなった。地下通路も、長年誰も入っていない。」ヴェラが続けた。「ただし——その通路の東壁に、古い壁画があるという話を聞いたことがある。」
「壁画。」
「旧市街の古い住人から聞いた話だ。誰が描いたか分からない、何が描かれているか分からない、でも消えない壁画がある、という話だ。」
アルノーは整理した。
消えない壁画。描いた者が分からない。
記録陣式で表面を覆われた壁画の可能性がある。
「その場所に入ることはできますか。」
「建物が古くて危険だ。ただし——入れなくはない。案内できる。」ヴェラが言った。「ただし、一つ条件がある。」
「何ですか。」
「解読した内容を、私にも教えること。最終的に何が分かったか。」
アルノーはアルデンを見た。アルデンが頷いた。
「分かりました。アルデンへの報告の後、ヴェラにも伝えます。」
「それでいい。」ヴェラが立ち上がった。「明後日、案内する。朝早い方がいい。人目が少ない。」
「学務室への申告が必要です。前日までに済ませます。」
ヴェラが少し目を細めた。
「学生は、そういうことをするのか。」
「条件です。外部活動は学務室への申告が必要です。」
「真面目だな。」ヴェラが言った。「まあ、それがお前らしい。」
工房を出た。
夜の路地を歩きながら、アルノーは北区画の第七通路のことを考えた。
消えない壁画。誰が描いたか分からない。
三百年前に流れの原則の流派が排除された。記録陣式を地下に刻んだ。その記録が示す場所に、壁画がある。
壁画が何かを示しているとすれば——次の陣式があるか、あるいは——最終的な答えがあるか。
夜の空に、半月が出ていた。
満ちていく途中。ちょうど真ん中だ。
解読も、真ん中まで来た。
次の場所に行けば、また先が見える。
アルノーは学園への道を歩いた。




