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第59話:照合

翌日、アルノーは工房に向かった。


二回分の観測記録を持参した。低い音と高い音のパターン、細かい変化のリズム、一周期の長さ。二回分を並べると、パターンの一致が明確に見える。


アルデンは奥の部屋にいた。複合陣式の調整を続けているらしく、作業台の前に立っていた。アルノーが入ると、手を止めた。


「観測記録を持ってきました。照合をお願いしたいのですが。」


「見せろ。」


アルノーが記録紙を作業台に広げた。アルデンが眼鏡を外して間近で確認した。


しばらく黙って見ていた。


「二回分の観測が一致している。」アルデンが言った。


「はい。パターンが再現されています。」


「低い音の中に、三対一のリズムがある。高い音の中に、二回と途切れるパターンがある。」


「そうです。」


アルデンが棚から師匠の記録を取り出した。解読に関する部分を開いて、観測記録と並べた。


しばらく比較した。


「……師匠の記録に、数列の話がある。」アルデンが言った。「記録陣式は、魔力のリズムを数列として表現する。数列が場所・時・意図のそれぞれを示す。」


「どういう数列ですか。」


「場所を示す数列は、三つの数字の組み合わせで表される。」アルデンが記録紙を指した。「低い音の三対一のリズムが、その数列に対応する可能性がある。三回高く、一回低い——これが一桁目の数字を示しているかもしれない。」


「一桁目。」


「場所の数列が、複数の桁で構成されているということだ。一周期の観測で、一桁分が読める。」


アルノーは整理した。


一周期が約十分。一桁分の情報が取れる。場所を示す数列が何桁あるかによって、観測回数が決まる。


「場所の数列は何桁ですか。」


「師匠の推測では、三桁だ。」アルデンが言った。「三回の観測で、場所の情報が揃う。」


「ということは——次の三回目の観測で、場所の数列が完成します。」


「そうなる。」アルデンが記録紙を見た。「高い音のパターン——二回と途切れる——これは別の情報だ。時を示すパターンか、意図を示すパターンだろう。場所の解読が終わってから、次に取り組む。」


アルノーは頷いた。


「一つ確認させてください。場所の数列が解読できた場合、それはどういう意味を持ちますか。具体的にどこを示しますか。」


「旧市街の地下に、複数の記録陣式がある可能性がある。」アルデンが言った。「一つ目の陣式が示す場所に、二つ目の陣式があるかもしれない。二つ目が三つ目を示す。連鎖している可能性だ。」


「連鎖。」


「師匠の記録に、そういう記述がある。」アルデンが記録紙を指した。「記録陣式は、単独では意味をなさない場合がある。複数が連鎖することで、全体の意味が分かる。」


アルノーは少し考えた。


連鎖する記録陣式。一つ目が二つ目を示し、二つ目が三つ目を示す。最終的に何かに辿り着く。


三百年前に流れの原則の流派が排除された。その前に、誰かが地下に記録陣式を連鎖させた。排除されても消えないように。読める人間が現れたときに、伝わるように。


「三百年後に、読まれることを想定していたのかもしれません。」アルノーは言った。


アルデンが少し間を置いた。


「……そうかもしれない。」


「三百年前の人間が、今の私たちに何かを伝えようとした。」


「壮大な話だな。」アルデンが言った。「ただし——師匠が気づいて、記録した。俺が工房を続けてきた。お前が来た。それが繋がって、解読に辿り着こうとしている。」


「三世代ではなく、もっと長い繋がりかもしれません。」


「三百年分の。」アルデンが短く言った。


しばらく沈黙があった。


工房の外から、街の音が聞こえてくる。いつもと同じ音だ。荷車の音、人の声。三百年前も、旧市街には同じような音があっただろう。


「アルデン。」アルノーが言った。


「何だ。」


「三回目の観測が終わったら、場所の数列を解析します。その場所に実際に行く必要があります。ヴェラに相談したいのですが、いいですか。」


アルデンが少し考えた。


「ヴェラは旧市街に詳しい。地下の構造も知っている。相談する価値はある。」アルデンは言った。「ただし、解読した内容を外に広める前に、俺に先に話せ。」


「分かりました。」


「もう一つ。」アルデンが続けた。「連鎖する記録陣式の最終地点が何であるかは、今の段階では分からない。覚悟しておけ。」


「どういう覚悟ですか。」


「三百年間、王立が排除してきたものが、そこにある可能性がある。王立にとって、都合が悪いものかもしれない。」


アルノーはその言葉を聞いて、少し考えた。


王立にとって都合が悪いもの。三百年間隠されてきたもの。


「それでも、知りたいです。」


「お前らしい。」アルデンが短く笑った。「では、三回目の観測を急げ。ソレルの耳が重要だ。」


「分かりました。」


工房を出た。


夕方の路地を歩きながら、アルノーは場所の数列のことを考えた。


三桁の数列。一桁目はすでに取れている可能性がある。三回目で完成する。


その場所に、次の陣式がある。


次の陣式がさらに別の場所を示す。


最終的に——何かに辿り着く。


空を見上げた。


夕方の空に、昨日より少し太くなった月が出ていた。


満ちていく途中の月だ。


解読も、満ちていく途中だ。


アルノーは学園への道を歩きながら、三回目の観測の準備を頭の中で始めた。

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