第57話:共有
セインが帰った後、レイドとソレルが裏庭に来た。
レイドが入り口でセインとすれ違ったらしく、少し怪訝な顔をしていた。
「あいつと何を話していたんだ」
「話せることと、話せないことがあります」アルノーは言った。「ただし、二人には共有しておく必要があると思うことがあります」
「聞く」ソレルが言った。
「セインの本当の立場が分かりました。ただし、詳細は話せません。一つだけ言えることは——セインは、敵ではないということです」
レイドが眉を寄せた。
「それだけか」
「今は、それだけです」
「詳細が話せない理由は」
「セインが話してくれたことは、セインの個人的な事情です。私が勝手に広めることではありません」
レイドがしばらく考えた。
「……お前がそう言うなら、信じる」
「ありがとうございます」
ソレルが言った。
「声は揺れていたか」
「最初から最後まで揺れていました」
「なら本当のことを話した」ソレルが頷いた。「それで十分だ」
レイドが腕を組んだ。
「ただ、一つだけ聞かせてくれ。セインは、俺たちの仲間か」
アルノーは少し考えた。
仲間、という言葉の定義が、アルノーにはまだ難しい。レイドやソレルは——裏庭で実験を始めた日から、何かが変わり始めた。セインは違う。最初から別の目的で近づいてきた。しかし今日、正直に話してきた。
「仲間という言葉が正確かどうか分かりません。ただし、信頼できる人間だと思い始めています」
「それで十分だ」レイドが言った。「俺もそう思う。なんか、あいつは本物だと感じてたから」
「本物、というのは」
「作ってる感じがあったけど、それを超えたところに——何か正直なものがある、という感じ」レイドが言った。「うまく説明できないが」
ソレルが補足した。
「声が、だんだん揺れるようになっていた。最初は揺れなかったのに。それが——本物が出てきた、ということだと思う」
アルノーは二人の観測を聞いて、自分の観測と照合した。
レイドの直感とソレルの聴覚が、同じ方向を示している。アルノーの観測眼も、同じ方向を示している。
三つの方法で確認できた。
「では、セインへの接し方は今まで通りでいいと思います。ただし、一つお願いがあります」
「何だ」
「セインが王子であることは、外に出さないでください」
レイドが少し目を丸くした。
「……王子?」
アルノーは少し間を置いた。言いすぎた、と思った。
「詳しくは言えません。ただし、セインの立場は複雑です。外で話すと、セインに迷惑がかかる可能性があります」
「分かった」レイドが言った。「口には出さない」
ソレルが頷いた。
しばらく裏庭に静かな時間が流れた。
レイドが石床に腰を下ろした。
「なあ、アルノー。最近、色々なことが重なってるな。学園の審査、旧市街の解読、帝国の皇子。お前が入学してから、まだ一か月半だぞ」
「四十二日です」
「そう、その四十二日で世界が動きすぎだ」レイドが笑った。「でも、退屈しなくていいな」
「そうですね」
アルノーは月を見た。
まだ昼間だが、空には白い月が微かに浮かんでいた。
見えている側と、見えていない側。
少しずつ、見えていない側が、姿を現し始めていた。




