第56話:セインの正体
翌日の昼休み、セインが裏庭に来た。
レイドとソレルはまだ来ていない時間だった。アルノーが一人で師匠の記録を読んでいると、裏庭の入り口にセインが現れた。
「話せますか」
「どうぞ」
セインが裏庭に入って、石床に腰を下ろした。いつもは立ったまま話すことが多いが、今日は座った。それだけで、今日の話が長くなることが分かった。
「いずれ話すと言っていました」セインが言った。
「はい」
「そのいずれが、来たと思っています」
アルノーは記録紙を置いた。
「聞きます」
セインが少し間を置いた。
「私の本当の立場を話します」セインが言った。「私は、王国の第三王子です。セイン・アルディアという名前で、灰練に入りました」
アルノーは少し間を置いた。
「王子」
「はい」
「なぜ灰練に」
「入学試験であなたが防壁陣を崩したという話を聞いて、直接見てみたかった」セインが続けた。「王子として動けば、あなたは構えてしまう。普通の学生として近づく方が、本当のことが見えると思った」
「観測しやすい状況を作った、ということですか」
「そうです」セインが少し笑った。「あなたと同じ発想ですね」
アルノーは確かにそうだ、と思った。
「帝国との繋がりについて聞いてもいいですか」
セインが少し驚いた顔をした。
「知っていたのですか」
「ソレルが廊下で声を聞いていました。帝国という言葉が聞こえた。それと昨日、別の場所で情報を得ました」
セインが小さく息を吐いた。
「……隠し通せる相手ではないですね。その通りです。私は帝国の第二皇子、ヴァルトと繋がりがあります」
「王国の王子が、帝国の皇子と」
「公的な繋がりではありません」セインは言った。「国同士は緊張状態にありますが、私たちは個人的に連絡を取り合っています。どちらの国も、今の王立の体制への疑問を、個人として話し合ってきました」
「なぜそういう関係になったのですか」
「五年前、外交の場で会いました。当時、私は十歳でした。ヴァルトは十三歳だった」セインは言った。「大人たちが形式的な話をしている中で、私たちは隅で話した。どちらの国も、今の体制に問題があるという話をした。それが始まりです」
アルノーは整理した。
セインとヴァルト。王国の第三王子と、帝国の第二皇子。五年前から個人として繋がっている。国の立場ではなく、同じ疑問を持つ人間同士として。
「均整理論の審査の結果を、ヴァルトに話しましたか」
「話しました」セインが言った。「ヴァルトが均整理論に関心を持ったのは、帝国の利益のためではありません。帝国の魔法体系にも、同じ問題があるからです。歪みを排除しようとして、歪みが別の場所に移る。それを個人として面白いと思っている」
「帝国でも、同じ問題が」
「そうです」セインが続けた。「ヴァルトは均整理論を、国のためではなく——純粋に知りたいと思っている。そういう人間です」
アルノーは少し考えた。
国のためではなく、純粋に知りたい。それはアルノー自身と、近い動機だ。
「あなたが均整理論の話をヴァルトにしたのは、報告のためですか。それとも、面白いことが起きているという個人的な話としてですか」
セインが少し間を置いた。
「後者です」セインは言った。「ヴァルトは友人です。面白いことが起きていれば、話したくなる。それだけです」
「友人」
「はい。国の立場を超えた友人は、作りにくい。でも作れることがある」セインはアルノーを見た。
「あなたとも、そうなれればいいと思っています」




