第52話:解読の糸口
その夜、アルノーは師匠の記録を読んだ。
レイドが寝た後、部屋の魔法灯を最小限に絞って、箱の中の記録紙を広げた。
師匠の字だ。細く、丁寧だ。以前読んだ部分とは違う記録紙で、紙が少し厚い。保存のために、特別な紙を使ったのだろう。
最初の一枚を読み始めた。
記録陣式の解読に関する記録だった。
以前読んだ部分では、解読のためには陣式が発するリズムを聴き取り、パターンを記録する必要があること、流れの原則に馴染んだ感覚を持つ者が最も解読に適していることが書かれていた。
この記録紙には、その続きがあった。
「リズムのパターンには、三つの種類がある」
師匠の字で書かれた一行を、アルノーはもう一度読んだ。
三つの種類。
「一つ目は、場所を示すパターン。二つ目は、時を示すパターン。三つ目は、意図を示すパターン。三つが組み合わさることで、記録陣式は一つの意味を持つ」
アルノーは記録紙を置いた。
場所、時、意図。
旧市街の壁に刻まれた陣式が、この三つのパターンを持っているとすれば——何かが記録されている。三百年前に流れの原則の流派が排除される前に、誰かが何かを壁に刻んだ。
次の記録紙を読んだ。
「解読には、二人の観測者が必要だ。一人は視覚で陣式の構造を読む。一人は聴覚でリズムを読む。二人の観測が重なることで、パターンが正確に把握できる」
二人。
視覚と聴覚。
アルノーとソレル、ということだ。
次の日の昼休み、アルノーはソレルを探した。
食堂の隅に、いつもの席でソレルが一人で食事を取っていた。アルノーが近づくと、ソレルが顔を上げた。
「師匠の記録の続きを読みました」アルノーは言った。「記録陣式の解読に、ソレルの協力が必要です」
「どういう協力だ」
「旧市街の壁の陣式を、もう一度観測したい。今度は、リズムのパターンを記録しながら」
ソレルがしばらく考えた。
「前回は、言葉みたいだと言った」
「はい。師匠の記録によれば、陣式のリズムには場所・時・意図を示す三つのパターンがあります。ソレルがそのパターンを区別できるかもしれません」
「区別できるかどうか、分からない」
「やってみなければ分かりません」
ソレルが少し間を置いた。
「アルデンに確認したか」
「これから確認します。ただし、ソレルが協力できるかどうかを先に確認したかった」
「……協力する」
「ありがとうございます」
工房でアルデンに話すと、アルデンは記録紙を一枚取り出した。
「解読の手順が、この紙に書いてある」アルデンが言った。「師匠が作ったものだ」
記録紙には、具体的な手順が書かれていた。
まず陣式の前に立ち、視覚の観測者が陣式の構造を記録する。次に、聴覚の観測者がリズムのパターンを読み上げる。視覚の観測者がそれを書き留める。最後に、補助線を重ねて意味を抽出する。
「ソレルを連れてきます」
「分かった。準備しておけ」




