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第46話:変わった理由

その日の昼食時、ソレルがアルノーの隣に座った。


レイドはまだ来ていない。食堂は混んでいて、話し声が重なっている。ソレルはそういう環境が苦手なはずだが、今日は耳をそれほど動かしていなかった。


「セインの件。新しいことが分かった」


ソレルが静かに言った。


「聞かせてください」


「昨日の夜、廊下で声を聞いた。セインが一人で、小声で何かを確認するように話していた。独り言だ」


「内容は」


「全部は聞こえなかった。ただし、いくつか聞こえた言葉がある」ソレルが続けた。「均整、審査、それと——帝国、という言葉が聞こえた」


アルノーは少し間を置いた。


帝国。


「確かに聞こえましたか」


「聞き間違いはない」


「前後の文脈は分かりますか」


「均整と審査は続けて言っていた。帝国は、少し間があってから出てきた。繋がっているかどうかは分からない」


アルノーは整理した。


セインが均整理論と審査委員会の件を把握している。それは既知の情報だ。帝国という言葉が出てきたことは、新しい情報だ。


セインが帝国の話を独り言で確認している。それが何を意味するかは、まだ分からない。


「ありがとうございます。引き続き観測を続けてください」


「分かった」


その午後、裏庭でレイドと練習をしていると、セインが来た。


珍しいことだった。セインが裏庭に来たのは、初めてだ。


「少し話せますか」


セインが入り口に立ったまま言った。笑顔だったが、セインの表情が、作った笑顔から離れていた。


「私が灰練に入ったのは、あなたを観察するためでした。誰かに頼まれたわけではなく——私自身の判断で」


「誰かに頼まれたわけではない」アルノーが繰り返した。


「はい」


「では、なぜ」


セインが少し間を置いた。


「入学試験で、防壁陣を崩したという話を聞きました。三百年誰も崩せなかった陣を、灰練に配属された一年生が崩した。王国の魔法体系に限界を感じていた私には、それが気になった。どういう人間なのか、直接見てみたかった」


「それで灰練に入った」


「そうです。ただし——」セインが続けた。「観察するうちに、理論そのものより、あなた自身に興味が移りました」


「私に」


「あなたは、周囲が動くのを観測するだけで、自分では動かない。でも周囲が動いている。首席が来た。工房の研究が表に出た。審査委員会が動いた。あなたが動かなくても、流れができていく」


「流れの原則、という発想があります」アルノーは言った。「川は障害物を自分で動かさない。川が流れ続けることで、障害物が動く」


「その通りのことが、起きていた」セインが言った。「私はそれを見ていた」


レイドが黙って聞いていた。ソレルの耳が、静かに動いている。


「一つ確認します」アルノーが言った。「帝国と、何か関係がありますか」


セインの表情が、一瞬だけ変わった。


〇・一秒の変化。しかし確かに変わった。


「……なぜそれを聞くのですか」


「観測した結果です」


セインがしばらく黙っていた。

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