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第28話:地下の音

区長への確認は、前日に済ませておいた。


同行者を連れていくことを伝えると、区長は少し考えてから「修復の邪魔にならないなら構わない」と言った。修復依頼は先日完了しているが、壁の陣式の確認のために再訪することも了承してもらった。


当日の放課後、三人で旧市街に向かった。


レイドが歩きながら周囲を見回した。


「旧市街、初めて来た。新市街と全然違うな」


「建物が古い分、歪みが蓄積しています」アルノーは言った。


「お前は本当に、どこでも歪みを見るな」


「見えてしまうので」


ソレルは黙って歩いていた。旧市街に入ってから、耳が細かく動いている。新市街より音の種類が多いのだろう。石造りの古い建物は、風や振動に対して独特の音を出す。


区長の家に着いた。区長が三人を見て、少し驚いた顔をした。


「仲間を連れてきたのか」


「確認したいことがあって。地下通路の奥の壁の陣式を、もう一度見てもいいですか」


「構わないが、何のためだ」


「音の確認をしたい人間がいます」アルノーがソレルを指した。「感覚が鋭い異種族で、陣式の音が聞こえます。壁の陣式がどんな音を出しているか確認したい」


区長がソレルを見た。ソレルは無言で頷いた。


「分かった。気をつけて降りろ」


地下通路に降りた。


先日修復した照明陣が、通路を均等に照らしている。三人で通路の奥に進んだ。先日、アルノーが素描を取った壁の前に着いた。


「これだ」


アルノーが壁を指した。


直径一メートルほどの、石壁に刻まれた魔法陣。薄暗い通路の奥で、その陣だけが独特の存在感を放っていた。


ソレルが陣の前に立った。


目を閉じた。


しばらく、何も言わなかった。耳だけが、ゆっくり動いている。


「ソレル」アルノーが静かに言った。「聞こえますか」


「……聞こえる」ソレルが目を閉じたまま答えた。「動いている」


「動いている?」


「この陣式、まだ機能している。かすかだが、魔力が流れている」


アルノーは陣式に手を当てた。


観測した。


微細だが、確かに魔力の流れがある。照明陣とは全く異なる流れ方だ。外周から中心に向かって、螺旋状に流れている。


「螺旋状に流れています。外周から中心に向かって」


「そう」ソレルが目を開けた。「音も螺旋状に動いている。一定のリズムで、ゆっくりと」


「何のための陣式か、分かりますか」


「分からない。でも——」ソレルが壁に手を当てた。「不快ではない。むしろ、落ち着く感じがする」


レイドが二人の様子を見ながら言った。


「俺には何も聞こえないし見えないが」レイドが陣式に手を当てた。「触ると、少し温かい気がする」


アルノーが確認した。


確かに、陣式の周辺の石が、わずかに温かい。魔力が流れているためだ。外気温より、明らかに高い。


「百年以上、動き続けているということですか」レイドが言った。


「少なくとも、今も機能しています」


「それってすごいことじゃないか。現行の陣式は、どのくらい持続するんだ」


「標準的な陣式は、定期的な補充がなければ数年で劣化します」


「百年以上と数年」レイドが陣式を見た。「設計が全然違うんだな」


「ソレル、リズムは一定ですか」


「そう。でも、たまに少しだけ変わる。何かを刻んでいるみたいな……言葉みたいだ」


「言葉」


アルノーはソレルの言葉を反芻した。


音が、リズムが、意味を持っている。それは情報の記録を目的とした陣式ということだろうか。


「記録陣式……」


アルノーは小声で呟き、陣式の細部をもう一度目に焼き付けた。

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