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第24話:流れの形

裏庭に来ると、レイドがすでに練習をしていた。


昨日より安定している。三点分散の感覚が、少しずつ体に馴染んできているのだろう。炎の大きさが均等で、揺れが少ない。アルノーは裏庭の入り口で立ち止まり、しばらく観測してから中に入った。


「今日は早いな」レイドが炎を消しながら言った。


「話したいことがあって」


「珍しいな。お前から話しかけてくるのは」


「そうですか」


ソレルが壁際から近づいてきた。アルノーが「話したいことがある」と言っただけで、何かを察したのだろう。


「何があった」ソレルが聞いた。


アルノーは素描を取り出した。


「旧市街の地下通路で見つけた陣式です。アルデンに見せたら、三百年前に排除された魔法の流派の陣式だと分かりました」


レイドが覗き込んだ。


「これが、その陣式か。なんか複雑だな」


「補助線の配置が、現行の標準様式とは全く違います」


「どう違うんだ」


「現行の様式は、魔力を中心から外周に一気に流す設計です。この陣式は——」アルノーは素描を指でなぞった。「複数の経路に分散させながら流す設計になっています。一点に集中させるのではなく、広げながら流す」


「それって、お前の均整理論と違うのか」


「方向は同じですが、方法が違います。均整理論は歪みの方向を制御します。この陣式は歪みに沿って流す」


レイドが腕を組んだ。


「歪みに沿って流す、か。それって諦めてるってことじゃないのか。歪んでるなら、直せばいいだろ」


「いいえ」アルノーは言った。「直すのではなく、利用するんです。レイド、川を想像してください」アルノーは言った。「障害物があるとき、川は諦めていますか」


レイドが眉を寄せた。


「川は……迂回するな」


「諦めているのではなく、流れの方向を変えている。最終的には同じ場所に向かいながら」


「……それが、この陣式の発想か」


「そう理解しています。ただし、アルデンに設計意図を自分で考えてくるよう言われました。まだ確信はありません」


ソレルが素描を手に取った。


しばらく眺めてから、言った。


「音が想像できる」


「どういうことですか」


「この陣式が動いていたら、どんな音がするか」ソレルは素描を返した。「現行の陣式は、一点から全方向に音が広がる。さっき言っていた、頭に刺さる感じだ。この陣式は——複数の場所から、別々の方向に音が出る気がする」


「複数の経路から、それぞれ違う方向に」


「そうだ。だから頭に刺さらないかもしれない」


アルノーはその言葉を聞いて、素描を改めて見た。


複数の経路に分散させながら流す設計。それは音の発生点も分散させることになる。一点から全方向に広がるのではなく、複数の点から別々の方向に出る。


ソレルにとっては、それが「刺さらない音」になる可能性がある。


「ソレル。この陣式が実際に動いていたら、不快に感じませんか」


「分からない。想像しただけだから」ソレルは言った。「ただ、現行の陣式よりは楽な気がする」


「旧市街の通路の陣式は、百年以上前から壁に刻まれています。あなたの感覚で確認できますか」


「行けば分かるかもしれない」


「次の依頼のときに、一緒に行きましょう。区長には許可を取ります」


ソレルが頷いた。


アルノーは素描を仕舞い、レイドの練習に戻った。


歪みを受け入れ、流れを作る。その理論は、ソレルの耳を救う鍵になるかもしれない。アルノーの中で、パズルのピースが一つ、はまった音がした。

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