第22話:通路の奥
翌日の放課後、アルノーは再び旧市街に向かった。
学務室への追加申告を朝のうちに済ませておいた。昨日は一日目の作業内容を報告したが、今日は二日目の継続作業として改めて申告が必要だった。職員は少し面倒そうな顔をしたが、受理の判を押した。
区長の家に着くと、区長が扉の前で待っていた。
「今日で終わるか」
「終わらせます」
「頼む。昨日、通路が少し明るくなったと住民から連絡が来た。みんな喜んでいた」
アルノーは頷いて、地下通路に降りた。
昨日修復した六個の陣は、今日も光っていた。外周からの補正が保たれている。問題ない。
残りの十二個に取りかかった。
作業を進めながら、アルノーは旧式の陣式の設計を観測し続けた。一個ずつ修復するたびに、この陣式の設計意図が少しずつ分かってきた。
現行の標準様式は、出力を最大化することを優先している。魔力を中心から外周に一気に流す設計だ。効率はいいが、経年で中心部の主線に負荷が集中する。
旧式の陣式は違った。出力より持続性を優先している。魔力を中心から外周に、複数の経路に分散させながら流す設計だ。効率は現行より低いが、負荷が分散するため劣化が遅い。百年以上前に設置されたこの陣式が、今でも半分は機能しているのはそのためだろう。
非対称ではないが——発想が近い。
歪みの方向を制御するのではなく、負荷の方向を分散させている。
修復作業が半分ほど終わったところで、アルノーはふと通路の奥に目が向いた。
照明陣が設置されている範囲よりさらに奥、通路が続いている。区長の話では、奥は昔の貯蔵庫で行き止まりになっているはずだった。
「区長、あの奥を確認してもいいですか」
「構わないが、気をつけろ」
アルノーは修復作業を一時中断して、通路の奥に進んだ。
魔法灯を持っていないので、修復した照明陣 of 光が届く範囲しか見えない。少し進むと完全に暗くなった。指先に微量の魔力を流して、簡単な照明を作った。
通路の壁を観測しながら進んだ。
十メートルほど進んだところで、壁に何かが刻まれているのに気づいた。
近づいて確認すると、魔法陣だった。
照明陣ではない。直径一メートルほどの大きな陣で、壁に直接彫り込まれている。設計が、照明陣よりさらに古い。補助線の配置が複雑で、符号の形が見慣れないものばかりだ。
観測した。
歪みはあるが、陣そのものは機能している。ただし何のための陣かが分からない。照明でも防壁でも加熱でもない。魔力の流れ方が、アルノーがこれまで見てきたどの陣式とも異なる。
「……これは」
アルノーは陣の前に立ったまま、しばらく観測を続けた。
分からない。
分からないことは珍しくないが、この陣は分からない度合いが違う。歪みの方向は分かる。補助線の交点の角度も確認できる。しかし全体として何をしているのかが、見えない。
記録した。懐から紙を取り出し、陣の形を素描した。補助線の配置、符号の位置、交点の角度。できる限り正確に写し取った。
通路を戻り、作業を再開した。
残りの八個を修復するのに三時間かかった。通路全体の照明が回復した。
区長が降りてきて、通路を歩いた。
「全部ついた」区長が感銘を受けたように言った。「これで夜も安心して通れる。ありがとう、アルノーさん」
報酬を受け取り、地上に出たときには、すでに星が出ていた。
アルノーは懐の素描に触れた。
あの陣式が何であるか、一人だけ心当たりがあった。




