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第15話:工房の扉

ギルドへの二度目の依頼は、店の防犯陣の誤作動だった。


学務室への事前申告を済ませてから、アルノーは西門をくぐった。依頼主の店は、ギルドの近くの路地にある小さな雑貨屋だ。店主は六十代の男性で、アルノーが来ると少し驚いた顔をしたが、前回の民家の話が伝わっていたのか、すぐに中に通してくれた。


防犯陣は店の入り口の上部に設置されていた。不審者が入ろうとすると警告音を発する仕組みだが、最近は誰も入っていないのに音が鳴るようになったという。


アルノーは陣を観測した。


原因はすぐに分かった。陣の感知範囲を決める外周線が、右側だけ経年で広がっていた。本来の感知範囲より外側の空間まで反応するようになっており、通行人が前を通るだけで誤作動する。


外周線の右側を内側に押し戻した。三分ほどの作業だった。


「試してみてください」


店主が店の外に出て、入り口の前を歩いた。警告音は鳴らなかった。それから扉に触れた。警告音が鳴った。


「直った」店主が目を丸くした。「何をしたんですか」


「感知範囲を元の大きさに戻しました」


「こんなに早く。職人に頼んだら、陣を全部描き直すと言われて、高い費用を請求されたんですが」


「描き直す必要はありませんでした」


店主が礼を言いながら、依頼票に記載された金額を支払った。それから「もう一つ聞いてもいいですか」と言った。


「何ですか」


「この近くに、魔法陣の修理を専門にしている古い工房があるんです。そこの主人が偏屈でね。最近、体の調子が悪いらしくて、仕事が滞っているそうなんです。もしよかったら、顔を出してあげてもらえませんか。エレナさんにも話は通してあります」


「工房ですか」


「ええ。アルデンさんという方です」


アルノーは頷いた。魔法陣を専門に扱う工房には興味があった。学園やギルドの依頼とはまた違う、深い知識に触れられるかもしれない。


店を出て、教えられた路地を進む。


建物の隙間にある、古びた木製の扉。看板も出ていないが、扉の横に小さく「アルデン工房」と書かれていた。


扉をノックすると、しばらく間があってから「誰だ」という声がした。


「エレナさんに紹介されてきました。アルノー・ヴァレリウスです」


また間があった。


扉が開いた。


出てきたのは、七十代と思われる老人だった。白髪で、眼鏡をかけている。背は低いが、目が鋭い。アルノーを頭から足まで見てから「学生か」と言った。


「はい」


「エレナに紹介されたということは、魔法陣の修復ができるということか」


「観測と修正ができます」


「観測」老人が繰り返した。「どの程度できる」


「〇・一のずれが見えます」


老人がしばらくアルノーを見た。それから扉を大きく開いた。


「入れ」


工房の中は、外観とは全く異なる空間だった。


壁一面に棚が並んでおり、様々な魔導具と魔法陣の記録紙が積み上がっている。中央に大きな作業台があり、分解された器具が並んでいた。奥にさらに扉があり、その向こうは見えない。


「アルデンだ」老人が作業台に向かいながら言った。「元王立研究所の主席研究員。今は廃業寸前の爺だ」


「なぜ研究所を辞めたのですか」


「理論が硬直した」アルデンは短く答えた。「三千年変わらない体系を守ることに、意味を見出せなくなった」


アルノーはその言葉を聞いて、工房の中を観測した。


棚に並んでいる器具の多くは、王立では使われていない型式のものだ。設計が古いものもあれば、明らかに王立の標準様式とは異なる設計のものもある。


「この器具は、王立の標準様式ではありませんね」


「気づいたか。俺が独自に設計した改良型だ。効率は三割高いが、王立は認めなかった。対称性が崩れている、とな」


アルデンが自嘲気味に笑った。


アルノーは、その改良型の魔法陣に目を奪われた。非対称。だが、そこにはアルノーが目指している「均整」が、より高度な形で実現されていた。

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