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第13話:首席の見方

合同実技の授業は、月に一度行われる。


白棟、赤棟、灰練の全生徒が同じ演習場に集まり、課題に取り組む。普段は寮ごとに分かれている授業が、この日だけ一つになる。建前は「互いの技術を学ぶ機会」とされているが、実態は寮ごとの実力差が露わになる場だった。


演習場は学園の中央にある広い石床の空間で、天井が高く、四方に観覧席がある。アルノーは灰練の列に並んで、演習場全体を観測した。


床の石板は均等に敷かれているが、中央より東側がわずかに沈んでいる。長年の使用で基礎が傷んでいるのだろう。天井の魔法灯は左右対称に配置されているが、右奥の一灯だけ光量が落ちている。陣の歪みか、魔力の供給が不安定なのか。


「また何か見つけたのか」


隣に立っていたレイドが、アルノーの目線の先を追いながら言った。


「天井の魔法灯が一つ、出力が落ちています。右奥です」


「言わなくていいからな、今日は」


「言いません」


今日の課題は、防壁陣の展開だった。指定された範囲に防壁陣を張り、その強度と持続時間を評価する。魔力量が多いほど強く、制御が精密なほど長く持続する。


白棟の生徒が次々と陣を展開していく。完璧な対称形の防壁陣が、演習場の各所に光の壁として現れた。美しい。そして出力が高い。


アルノーはその陣を観測しながら、交点の詰まりを確認した。どの陣も、中心部から放射状に伸びる補助線の交点で魔力がわずかに滞留している。出力が高ければ高いほど、その滞留が熱となり、陣の寿命を削っている。


「次、首席のセレスティナ・アークライト」


教師の声と共に、一人の少女が前に出た。


白棟の制服を着た、金髪の少女だった。背筋が伸びており、所作に無駄がない。掲示板の一位に名前があった、今回の首席合格者だ。


彼女が陣を描き始めると、周囲の生徒が静まり返った。


白墨を使わず、空中に魔力を直接編み込んでいく「無媒体展開」だった。一年生でこれを扱える者は数少ない。描かれるのは多重構造の六角形陣。驚くほど正確な対称形だった。


陣が完成し、魔力が流し込まれた。


光の壁が演習場の中央に出現した。他の生徒の陣とは規模が違う。光の壁が厚く、圧迫感がある。強度は明らかに最高水準だ。


アルノーはその陣を観測した。


補助線の交点に、予想以上の滞留がある。魔力量が多いために、滞留の量も多い。陣全体が重い。強いが、重い。


「どのくらい持続できますか」


「この強度で十分程度です」リュミエールは答えた。「問題がありますか」


「問題というより、気になる点があります」


「言いなさい」


「補助線の交点に魔力が滞留しています。滞留が多いと、持続時間が短くなります。滞留を減らせば、同じ魔力量でもっと長く持続できます」


リュミエールがアルノーを見た。


「滞留を減らすには、交点の精度を上げることです。私の陣の精度が低いと言いたいのですか」


「精度の問題ではありません。対称形の設計上、交点に滞留が生じやすい。どれほど精度を上げても、完全には解消できません」


「では、どうすれば解消できるのですか」


「交点の角度を非対称に変えれば、滞留が一方向に流れます」


リュミエールが少し黙った。


周囲の生徒が、二人の会話に気づいて視線を向けていた。首席と最下位が話している。それだけで目立つ。


「非対称に変えると、陣の美しさが損なわれる」リュミエールは言った。「王立の陣式は、対称形であることに意味があります。美しさが、術者の精神的な安定をもたらす」


アルノーはその言葉を聞いて、少し考えた。


「美しさが安定をもたらす。それは分かります。ですが、その美しさが効率を下げているとしたら、それは歪みの一種ではないでしょうか」


「歪み……」


「完全な対称を求めるあまり、現実の魔力の流れを無視しているように見えます」


リュミエールの目が鋭くなった。


「灰練の生徒が、王立の理論を否定するつもりですか」


「否定ではなく、観測の結果を述べているだけです」


「……いいでしょう。ならば、あなたの言う『非対称の陣』を見せてみなさい。私の陣よりも長く持続すると言うのなら」


アルノーは頷いた。


演習場の端に移動し、石床の上に立った。


周囲の視線が集まるのを感じた。レイドが心配そうな顔をしていた。ソレルは耳を動かして、空気の振動を確認している。


アルノーは白墨を取り、陣を描き始めた。


描くのは、リュミエールと同じ防壁陣。ただし、補助線の交点をわずかに内側にずらし、魔力が時計回りに流れるように設計した非対称の陣だ。


見た目は少しだけ歪んでいる。


魔力を流すと、光の壁が現れた。リュミエールのものに比べれば薄く、迫力はない。


しかし、音が違った。


滞留が解消されたことで、陣特有のノイズが消えていた。魔力は淀みなく流れ続け、陣を維持し続ける。


一分、三分、五分。


十分が経過したとき、リュミエールの陣が微かに揺れ始めた。魔力の滞留による熱が、構造を限界まで押し広げている。


十五分。


リュミエールの陣が霧散した。


アルノーの陣は、まだそこにあった。薄い光の壁は、揺らぐことなく演習場に立ち続けていた。


「出力は半分以下ですが、持続時間は私の方が上です」


アルノーはリュミエールを見て言った。


演習場が静まり返った。


リュミエールは、消えた自分の陣があった場所と、アルノーの歪んだ陣を交互に見ていた。その瞳に、驚きと、それ以上に深い戸惑いが浮かんでいた。


「……それが、あなたの言う均整ですか」


「今ある魔力で、最も長く存在できる形です」


アルノーはそう答えて、静かに魔力を断った。


光の壁が消え、演習場には静寂だけが残った。

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