【18話】翔真と遥飛 2
シュートをうったあと、翔真はその場にひざをついた。
頭のなかがまっしろになる。
体のふるえがとまらない。
はしってくるしいはずなのに、思うように息ができない。
「翔真、ドンマイ。でも、ナイスシュート」
陽介がさけんだ。
「そうです。ナイスシュートです、翔真さん」
天音が駆けより、自分の手を翔真の手にかさねる。
「だいじょうぶです。翔真さんには、みんながついています」
天音の手のあたたかさで、体のふるえがすこしだけおさまった。
「すごいよ、翔真」
「ナイスファイト、ショウちゃん」
仲間たちが声をかけてくれる。
――そうだ、だいじょうぶだ。
――おれには、みんながついてるんだ。
時間をかけて、ゆっくり息をはきだす。
「天音ちゃん、ありがとう。もうだいじょうぶ」
天音に礼をいうと、翔真は自分の力でたちあがった。
「つぎはきめる」
翔真は遥飛をふりかえった。
「つぎはきめる。ぜったいに」
言葉の直後に、つよい風がフィールドのなかを駆けぬけていった。
* * * * *
本気の顔。
そして本気の言葉。
翔真の本気を知って、興奮が遥飛の体をつらぬいた。
あいつは本気だ。
技術、気力、体力。
そのすべてをぶつけて、本気でおれと戦おうとしているんだ。
――戦える。
――かつて目標にしていた男と本気で戦える。
うれしくて、遥飛は自分でも気づかないうちにわらっていた。
「そんなにニヤニヤしてどうしたんだ、ハルハル」
いつのまにかうしろにいた陽介が、おかしそうに遥飛の顔をのぞきこんだ。
「なんか、たのしいことでもあったのか?」
「おまえには関係ない」
遥飛はあわてて顔をひきしめると、守備のためにゴールまえにはしった。
そのあとも中浦FCは、さまざまな歌舞伎戦術で得点をねらった。
クモの糸のように、パスをはりめぐらせて攻撃をしかけるツチグモ。
ディフェンダーの時雨をフォワードにまわして、陽介とのお調子者コンビでせめるヤジキタ。
「天翔る心」の合図で、天音と翔真がまえにとびだして奇襲をかけるヤマトタケル。
つぎからつぎへとくりだされる予測不能な戦術は、なにがとびだすかわからないビックリ箱のようだ。
だが、フレスベルグも負けていない。
前半10分。
右サイドからせめていたフォワードの隼里に、翔真がショルダーチャージをしかけた。
強烈なチャージをうけて、隼里のドリブルがとまる。
「隼里、うしろにパス」
遥飛が隼里のうしろにはしった。
「まさか!」
遥飛のやろうとしていることに気づいて、翔真はあわてた。
「八雲、気をつけろ。ユミハリヅキだ」
隼里が、うしろにパスをだす。
そして遥飛が30メートルごえのロングシュートをうった。
八雲がジャンプして、ボールに手をのばす。
その手が、指が、想いが。
遥飛のシュートを――ふせげない。
八雲の指をかすめたボールは、つきさすようなはげしさでゴールネットをゆらした。
ゴールがきまった瞬間――。
応援団の歓声。
ラッパとたいこのファンファーレ。
たくさんの音が、試合会場になりひびいた。
「……ナイスシュート」
自分のポジションにもどる遥飛にむかって、翔真がいった。
「さすがだな。まさか自分たちの戦術で点をとられるとは思わなかったよ」
「いい戦術は積極的に活用しろ。大鳳監督のおしえだ」
「いい戦術……か」
翔真があせをぬぐいながら、そっと――でも、ほこらしげに笑みをこぼした。
遥飛の1点はフレスベルグの追い風となった。
前半13分。
コーナーキックからのヘディングシュートで、副キャプテンの橘智雪が、さらに1点をあげると、ふたたびフレスベルグの応援団が歓声をあげた。
そして、そのまま2―0で前半戦が終了した。
ハーフタイムになると、
「やっぱ、つよいな。あいつら」
タオルであせをふきながら陽介がいった。
「でも、たのしい。そうでしょ?」
失点したにもかかわらず、八雲の顔はイキイキと活力にみちている。
ふきだすあせさえ、まぶしくひかる真珠のようだ。
「ああ。試合がたのしくてしかたねえよ」
「あの人たちもそうなのかな?」
美羽がフレスベルグのベンチに顔をむける。
ベンチでは、大鳳監督が選手たちと作戦会議をしていた。
「きっとそうだぜ。翔真がシュートをうったとき、ハルハルが、うれしそうにわらってたからな。翔真、おまえも気づいただろ?」
「ああ」
スポーツドリンクをのむと、翔真はおおきく息をすった。
「みんな、後半戦はテンシュモノガタリをしかけよう」
テンシュモノガタリ。
それは、これまで一度もつかわないでいた中浦FCの秘密兵器ともいえる戦術だった。
みんながおどろいて、自分の顔をみつめる。
……と翔真は思っていたが、仲間の反応は予想とまったくちがっていた。
「そういうと思っていました」
天音があせまみれの顔でほほえむ。
「翔真さんがシュートをうったときから、わたくし、この試合でテンシュモノガタリをしかけるような気がしていましたの」
「あーちゃんだけじゃないぜ。おれや美羽もそんな気がしてたんだ」
陽介と美羽がおたがいの顔をみて、わらいあった。
「ショウちゃん、じつはぼくたちもなんだ」
八雲と5年男子がおかしそうに目をほそめる。
「翔真さん、遥飛さんにみせてあげましょう。あなたの、そして、わたくしたち中浦FCの本気を」
「うん」
翔真は力づよくうなずくと、天音と陽介の肩に手をまわした。
「みんな、もう一度、円陣をくもう」
中浦の選手があつまり、ひとつの輪をつくる。
「あっ、われら中浦えふしぃ~」
「ふぁいと、おぉ~」
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




