【15話】ホンキのカブキ 1
夏やすみがおわり、9月になった。
その日は日曜日で、翔真たちは中浦小学校の運動場で練習をしていた。
「きょうの練習はこれでおしまい。みんな、おつかれさま」
「監督、きょうもありがとうございました」
こどもたちが鳩山監督に頭をさげる。
「それじゃあ、みんなで行きますか」
ニヤニヤしながら、陽介がみんなのほうをむいた。
「ボウリング場に!」
「おぉー」
日焼けしたこどもたちの手が、いきおいよく青空にのびる。
練習のあと、翔真たちは大人と一緒にボウリング場にでかけ、日がくれるまで、ボウリングをたのしんだ。
「これでたのしいことは、ぜんぶやりきったね」
ボウリング場をでたとき、八雲がいった。
「映画鑑賞、カラオケパーティー、遊園地めぐり、いろんなことをしたね」
「のこすは県大会だけか」
夕暮れの空をみあげて、陽介がつぶやいた。
県大会とは、その県のナンバー1・ジュニアサッカーチームをきめる大会で、優勝したチームは県の代表として、12月にひらかれる全国大会に出場することができる。
鳩山監督が浜井サッカークラブの監督に合併を来年までまってもらったのも、翔真たちを中浦FCとして、県大会に出場させてあげたかったからだ。
「そうだ、翔真。地区予選のくみあわせ抽選会って、たしか来週の日曜日だよね?」
思いだしたように、美羽がたずねる。
「いきなり、フレスベルグと戦うことになったりして」
「フレスベルグはシードチームだから、最初に戦うことはないよ」
「でも、おなじ地区なんだから、勝ちすすんだら、そのうち戦うことになるんでしょ?」
「まあな」
「じゃあ、2試合目がフレスベルグってこともありえるわけか」
美羽がうでをくんだ。
そのとき、
「なあ、みんな」
陽介がみんなに声をかけた。
「みんなはさ、浜井サッカークラブと合併したあとも、このまま歌舞伎サッカーをつづけられると思うか?」
「陽介、きゅうにどうしたの?」
美羽がふしぎそうにたずねる。
「合併したら選手の数も多くなるし、なにより監督の教え方だってかわる。そうなったら、おれたち、歌舞伎サッカーをつづけられるかな?」
「陽介――」
「なーんてな」
陽介がこちらをふりかえった。
「空がかなしい色してたから、ガラにもないこと考えちまっただけだよ。歌舞伎サッカーに反対する人もいるけど、応援してくれる人だって、たくさんいるんだ。だいじょうぶ、合併しても歌舞伎サッカーはつづけられるさ」
陽介が笑顔でピースサインをした。
でも、その笑顔は、なんだか、むりしてつくっているみたいだった。
* * * * *
1週間後の日曜日。
地区予選のくみあわせ抽選会は風吹市民ホールでおこなわれた。
抽選会にはチームのキャプテン、副キャプテン、監督が参加することになっている。
中浦FCからも翔真、陽介、鳩山監督の3人が抽選会に参加した。
最初に大会のスタッフから、マナーについての説明があった。
「以上のことを、みなさんにはまもってもらいたいと思います。そして、もうひとつ」
ステージの上で説明していたおじさんが、鳩山監督をにらみつけた。
「この大会はこどもたちにとって、とてもたいせつなものです。けっして隈取をして試合にはでないように」
「それについては、この子たちともきちんと話をしています。県大会では、けっして歌舞伎サッカーを――」
「わたしは、やってもらいたいですがね」
きゅうに大鳳監督が、いすからたちあがった。
「みなさんが、どう思っているかは知りません。ですが、わたしは彼らに歌舞伎サッカーをやってもらいたいですね」
「本気ですか、監督!」
遥飛がさけんだ。
「ああ、本気だ」
そして中浦FCのテーブルに体をむけた。
「鳩山監督。たしか歌舞伎サッカーはこどもたちのアイデアでしたね。では、やるかやらないかも、こどもたちにきめてもらってはどうです?」
「しかし、それでは――」
「鷹峰キャプテン、きみはどうしたい?」
大鳳監督が、ためすように翔真に問う。
「歌舞伎サッカーをやりたいか、やりたくないか。きみの意見を聞きたい」
「おれは――」
翔真は大鳳監督の挑戦をうけるようにたちあがった。
「おれはやりたいです。歌舞伎サッカーは、おれたちのサッカーだから」
「ではきまりだ」
大鳳監督がわらった。
……ようにみえたのは、たぶん気のせいだろう。
「スタッフおよび、ほかのチームのみなさま。もし、市沢フレスベルグと中浦FCが戦うことになった場合、その試合を歌舞伎サッカーでおこないたいのですが、それをこの場でおゆるしいただけないでしょうか」
会場がざわつく。
進行役のおねえさんもステージ上のおじさんもオロオロするばかりで、どうしていいかわからない。
そのとき、どこかのチームが、
パチ、パチ、パチ。
大鳳監督に拍手をおくった。
拍手の数はすこしずつふえ、ついには会場をうめつくすほどになった。
「あぁー、もう! わかりましたよ」
おじさんが、あらい鼻息をあげる。
「もし、中浦FCと市沢フレスベルグが戦うことになった場合、その試合のみ歌舞伎サッカーをすることを認めましょう」
「ありがとうございます」
つぎにおじさんは翔真をにらみつけた。
「フレスベルグ以外の試合では、けっして歌舞伎サッカーをしないように。いいね?」
「はい」
「あの、歌舞伎戦術は?」
陽介があわてて、たちあがる。
「歌舞伎戦術もつかっちゃダメですか?」
「作戦名を歌舞伎のお話でつたえるやつだね。まあ、それぐらいは認めるとしよう」
「ありがとうございます」
すわるとき、おじさんにみえないようにして、陽介が翔真にガッツポーズをおくった。
* * * * *
そのあと、抽選会がはじまった。
対戦するチームのくみあわせは、箱のなかから数字の書かれた紙をとりだしてきめる、くじびき方式でおこなわれた。
「岩木スポーツ少年団。12番」
「王川ファイターズ。8番」
「下村ハレルーヤ。5番」
顔なじみのチームの抽選が、つぎつぎにおこなわれてゆく。
「つづきまして、中浦FC」
ついに中浦FCの番がやってきた。
緊張しながら、翔真はステージにあがった。
心臓の鼓動にあわせて、こめかみがうずく。
じっとりあせばんだ手とはぎゃくに、口のなかはカラカラにかわいていた。
「それでは、くじをひいてください」
翔真は箱に手をいれ、ちいさな紙をとりだした。
紙には3の数字が書かれていた。
「中浦FC。3番」
トーナメント表の3番に、中浦FCのふだがつけられる。
それをみて、翔真はハッとした。
トーナメント表の1番はシードわく。
つまり市沢フレスベルグのわくだ。
もし、中浦FCが2番の二野宮FCに勝てば、つぎはフレスベルグと戦わなければならない。
「案外はやくできるかもな、歌舞伎サッカー」
テーブルにもどると、翔真が陽介にいった。
「ああ。もちろん、あいつらに勝てばの話だけどな」
陽介は横目で二野宮FCのテーブルをうかがった。
二野宮FCのキャプテンは、トップチームの仲間いりをはたした中浦FCと戦うことになり、がっくりと肩をおとしていた。
* * * * *
すべてのチームのくみあわせがきまり、抽選会は幕をとじた。
「どうして、あんなことをいったんですか」
かえりの車のなかで、遥飛は大鳳監督にたずねた。
信号が赤になり、大鳳監督が車をとめる。
「監督がすすめなければ、あいつらだって歌舞伎サッカーをするつもりはなかったんです。なのに、どうしてすすめたんですか」
「いいわけされてもこまるだろ」
「いいわけ?」
「歌舞伎サッカーじゃなかったから、本気をだせなかった。そんないいわけをされたくなかったから、ああいったんだ」
――ウソがヘタですね、監督。
遥飛は、大鳳監督のウソをみぬいていた。
けど、なぜウソをつくのかはわからなかった。
「実力なら、いまの中浦のほうが二野宮より上だ」
副キャプテンの橘智雪がいった。
「おそらく、おれたちが戦う相手は中浦になる」
「そうでなくちゃこまる。たのしむだけのサッカーじゃ、本気のサッカーには勝てないことを、おれたちがおしえてやるんだ」
遥飛の声は、けっしておおきくはなかった。
でも、はきだす言葉には、もえるようなあつい闘志がやどっていた。
信号が青にかわり、大鳳監督がアクセルペダルをふむ。
車がゆっくりとまえへ、そして未来にむかって、うごきはじめた。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




