【14話】Bチームのプライド 4
「なんでだよ!」
その声で運動場から歓声がきえた。
「なんで、おれたちが負けるんだよ」
流星はいまにもなきだしそうな顔で陽介をにらみつけた。
「たしかにおれたちはBチームだよ。でも、なんで本気でサッカーにむきあえないやつに負けなくちゃいけないんだよ」
そういった直後に地面にひざをつき、声をあげてなきはじめた。
「なんでだよ。なんで……」
Bチームのなかには流星とおなじようにないている選手もいる。
彼らは本気でサッカーにむきあっている。
本気だからこそ、くやしなみだをながせるのだ。
「みんな、もどろう」
翔真がベンチへもどるよう仲間をうながす。
しかし、陽介だけはその場をうごかなかった。
「ふざけてない」
陽介が流星にいった。
「おれたちはふざけてサッカーをしてるわけじゃない」
「じゃあ、なんで隈取なんかしてんだよ!」
流星はたちあがって、陽介につかみかかろうとした。
「それがふざけてるっていってんだよ!」
「やめろ、流星」
雉原監督と中浦の選手があわてて、とめにはいる。
そのあいだ、陽介は1歩もその場をうごかなかった。
じっと。
ただ、じっと、あばれる流星をみつめていた。
* * * * *
雉原監督と流星があやまりにきたのは、それから10分後のことだった。
「あんなことになって、ほんとうにもうしわけありません」
運動場のすみで、雉原監督が鳩山監督と中浦の選手に頭をさげた。
「流星、きみもあやまるんだ」
流星はだれの顔もみずに、
「ごめんなさい」
はきすてるようにつぶやいた。
「流星、あやまるときはちゃんと人の顔をみるんだ」
雉原監督が注意する。
「鳩山監督。そして中浦FCのみなさん。流星がごめいわくをおかけして、もうしわけありませんでした。すべてはBチームの監督である、わたしの責任です」
もう一度、雉原監督が頭をさげる。
「雉原監督、もうすぎたことなんですし、顔をあげてください」
そういって、鳩山監督は陽介のせなかに手をまわした。
「陽介くん、流星くんにいいたいことがあるんだよね?」
「はい」
陽介が流星にちかよる。
「さっきもいったけど、おれたちはふざけてサッカーをしてるわけじゃない」
流星はなにもいわない。
「隈取がそうみえるのはわかってる。でも、それはふざけてやってるわけじゃない」
「じゃあ、なんでしてるんだよ」
流星がボソッとつぶやく。
「サッカーをたのしむためだよ」
「たのしむ?」
「ああ。歌舞伎サッカーは、もともとサッカーをたのしむためにはじめたことなんだ。でも自分たちだけじゃなくて、相手チームもたのしんでくれたら、それが一番いいんじゃないかって、うちのキーパーがおしえてくれたんだよ」
ゆびをさされて、八雲がおおきな体をてれくさそうにすぼめた。
「相手にたのしんでもらうには、おれたち自身がつよくならなくちゃいけない。だから、おれたちもフレスベルグに負けないぐらい練習したんだぜ」
毎日のランニングと自主トレーニング。
大学生との合同練習。
隈取の練習に歌舞伎の勉強。
陽介はそのすべてを流星に話した。
「毎日、練習でたいへんだけど、おれ、それがすごくたのしいんだ。ちょっとずつだけど、みんなでサッカーがうまくなっていくのが、すごくたのしい」
そういって、陽介はすこしのあいだ、流星の目をみつめた。
「おまえとおなじで、おれたちもサッカーが好きなんだ。だから本気でみんながたのしめるサッカーにむきあってる。ぜったいにふざけてサッカーをしてるわけじゃない」
それ以上、陽介はなにもいわなかった。
そして、いうひつようもなかった。
「ごめん」
流星が陽介の――そして中浦FCみんなの顔をみて、あやまった。
「ふざけてるなんていってわるかった。 さっきの話を聞いてわかったよ。 おまえらも本気でサッカーにむきあってるんだな」
流星が手をさしだす。
「試合のあと、握手しなくて、ごめんな。おそくなったけど、おれと握手してくれるか?」
「もちろん」
「また、いつか試合しような」
「ああ」
そう約束して、陽介と流星はおたがいの手をにぎりあった。
* * * * *
市沢フレスベルグがかえると、翔真たちは運動場の整備をはじめた。
トンボという道具で地面を整備していると、
「なあ、翔真」
とつぜん、陽介が声をかけてきた。
「歌舞伎サッカーって、たのしいよな」
「なんだよ、いきなり」
「いや、歌舞伎サッカーって、たのしいなって思ってさ」
そして、とおくでトンボをかける天音たちをみながら、
「このまま、ずっと、みんなで歌舞伎サッカーができたらいいのにな」
「陽介?」
「なんでもない。さ、はやいとこ運動場をきれいにして、みんなでラーメンでもたべにいこうぜ」
「たべにいこうって……そんな金、どこにあるんだよ?」
「きまってんだろ。あそこだよ」
陽介があごでさしたのは、ボールをかたづける鳩山監督だった。
「陽介、おまえ、まさか――」
「そのとおり! 監督、お昼は監督のおごりでラーメンをたべにいきましょうよー」
鳩山監督が顔をまっさおにして、悲鳴をあげた。
けど、その声はこどもたちのよろこぶ声にかきけされてしまった。
(つづく)
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