【13話】Bチームのプライド 3
ピイィィ、ピイィィ、ピイィィィィ。
試合終了のホイッスルがなった。
結果は1―1の同点。
試合はひきわけにおわった。
「サンキュー。たのしかったぜ」
陽介が流星に握手をもとめた。
だが、流星は手をださなかった。
そのとき、鳩山監督と雉原監督がフィールドにはいってきた。
「翔真くん、PK戦をしないかい?」
雉原監督がいった。
PK戦とは試合がひきわけでおわったとき、両チームの選手が交互にシュートをうち、ゴールをきめた数で勝敗をきめるシュート対決のことだ。
「すばらしい試合だった。だからこそ勝敗をはっきりさせたい。そう思わないかい」
「それは……」
翔真はとまどった。
公式の試合ならともかく、練習試合でPK戦なんて、したことない。
鳩山監督に目配せすると、
「歌舞伎サッカーは、きみたちのサッカーだ。だから、きみたちがたのしいと思えるようにしていいよ」
やさしく翔真の肩に手をおいてくれた。
「せっかく観客もいるんだ。翔真、PK戦をやろうぜ」
どうやら、陽介はPK戦をしたいようだ。
するとキーパーの八雲が、
「PK戦か。すごく緊張するだろうな」
「じゃあ、やめようか?」
「じょうだん! たしかに緊張はするだろうけど、それ以上にたのしいのはまちがいないもんね」
八雲がキーパーグローブをはめなおす。
「ショウちゃん、ぼくもPK戦をやりたい」
「……わかった」
翔真は雉原監督をふりかえった。
「雉原監督。PK戦をやりましょう」
「それじゃあきまりだね。では、さっそく準備をはじめよう」
きゅうきょ、おこなわれることになった3対3のPK戦に、あつまった観客たちもおおよろこびだった。
* * * * *
PK戦をするまえに、まずはシュートをうつチームの順番をきめなければいけない。
これはコイントスでBチームが先攻、中浦FCが後攻にきまった。
そのあと、中浦FCではキッカーえらびがおこなわれた。
「だれか、けりたいやつはいるか?」
「はいはいはい。おれ、ぜったい、けりたい」
まっさきに手をあげたのは陽介だった。
「キャプテン、おれもけりたいっす」
「……おれも」
5年生の燕倉時雨と鶉部雷輝も手をあげる。
「よし。それじゃあ、キッカーは、この3人できまりだ」
3人で話しあい、ボールは時雨、雷輝、陽介の順番でけることになった。
「これより、中浦FCと市沢フレスベルグBチームのPK戦をはじめます」
審判のたからかな宣言。
それが運動場を、ふたたび戦いの場にかえる。
Bチーム最初のキッカーはフォワードの小夜鳴シエルだ。
ペナルティマークにボールをおき、シエルがおおきく息をすう。
息をのむ観客。
いのる選手たち。
そして、おとずれる運命の瞬間。
ピッ!
ホイッスルがなり、シエルがボールをける。
左にとんでゆくボール。
手をのばす八雲。
のばした、その手がボールを――はじけない。
「しゃあ!」
ゴールをきめて、シエルがガッツポーズをとった。
つぎは中浦FCがボールをける番だ。
キッカーはディフェンダーの時雨。
気持ちをおちつかせ、ボールをペナルティマークにおく。
ピッ!
ホイッスルがなりひびく。
時雨はキーパーが左にとぶと予測して、ボールを右にけった。
結果は――。
「やったー」
予測は、みごと的中。
ゴールをきめた時雨が、その場でとびはねた。
まずは両チームともシュートに成功。
この時点での結果は、
Bチーム ○
中浦FC ○
となった。
つぎのBチームのキッカーは小夜鳴エイル。
シエルの双子の弟だ。
ホイッスルがなり、エイルが強烈なシュートをうった。
だが、コースがあまかった。
八雲はひざをおとして、とんでくるボールを両手ではじいた。
「ナイス、八雲」
陽介がさけぶ。
八雲もうれしそうに親指をたてた。
中浦FC2番目のキッカーは雷輝だ。
雷輝のシュートは正確にゴールの右すみにとんでいった。
だが、コースをよまれて、キーパーにとめられてしまった。
この時点での結果は、
Bチーム ○×
中浦FC ○×
となった。
Bチーム最後のキッカーはキャプテンの鳶尾流星。
ペナルティマークにボールをおくと、流星は八雲をにらみつけた。
――ぜったいにきめてやる。
そういっているような目つきだった。
――そうはさせないよ。
隈取をした顔で、八雲も流星をみかえす。
ピッ!
ボールを左にける流星。
横にジャンプする八雲。
パシィッ。
グローブにボールがあたる。
はじきだされたボールがフィールドの外にとんでゆく。
八雲がシュートをふせいだ!
「くそっ!」
シュートをはずした流星が、くやしまぎれに地面をけった。
中浦FC最後のキッカーは陽介だ。
選手、監督、観客。
みんなの視線が陽介にあつまる。
ボールをおくと、陽介はかわいたくちびるをなめた。
隈取をした顔が、うっすらわらっている。
まるで、プレッシャーをたのしんでいるようだ。
ピッ!
陽介がうつ、きょう一番の強烈なシュート。
キーパーが右にとぶ。
ボールが一直線にとんでゆく。
ゴールのどまんなかに!
「ゴール!」
シュートがきまり、陽介が大声でさけぶ。
この瞬間、
Bチーム ○××
中浦FC ○×○
で、試合は中浦FCの勝利となった。
ワーッという大歓声が運動場をつつんだ。
「すごいぞ、陽介」
中浦の選手がはしって、陽介のもとにあつまる。
「陽介、やっぱり、おまえはエースストライカーだ」
翔真は陽介のうでをとり、太陽にむかって高々とかかげた。
* * * * *
試合に勝ってよろこぶ中浦FCの選手をみて、遥飛のいらだちはマグマのようにあつい怒りへとかわった。
――あいつらはサッカーをたのしんでいる。
――そして、たのしむことでつよくなっている。
それが遥飛にはゆるせなかった。
遥飛は、もともと体のよわいこどもだった。
けど、サッカーが好きで、1年生のときから、ずっとプロのサッカー選手になることを夢みてきた。
そして夢をかなえるために、だれよりもサッカーの練習をしてきた。
つらいときもあった。
くるしいときもあった。
サッカーをやめようと思ったことだってある。
でも、夢をかなえたかった。
翔真との約束をはたしたかった。
だから、必死に努力してきた。
戦術の勉強。
体力づくりのランニング。
夢をかなえるために、そのすべてをおこなってきた。
だからこそ、遥飛はAチームのキャプテンになることができた。
なのに……。
なのに、あいつらはサッカーをたのしみながら、つよくなっている。
くるしむことで力をつけてきた遥飛には、それがゆるせなかった。
――おれは必死に努力して、ここまできたんだ。
――たのしむだけで、夢がかなえられるわけないだろ。
遥飛のこぶしがふるえているのに気づいたのは大鳳監督だけだった。
(つづく)
更新は毎日おこなう予定です。




