第097話 極振りヒーラー、手痛い犠牲
前衛の一人が《加速》を発動し、一気に間合いを詰めてきた。
ヒマワリが《サンダーラッシュ》で迎撃するが、相手も速い。剣と剣が激突し、火花が散った。
別の前衛が横から槍を突き出す。
ヒマワリが《跳躍》で高く跳び上がり、攻撃を回避する。
しかし空中で体勢を崩したところに、三人目の前衛が大剣を振り上げてきた。
「くっ……!」
ヒマワリが《ウィンドスラッシュ》で剣に風を纏わせ、空中から斬撃を放つ。
衝撃波が相手を牽制し、直撃は免れたが、着地の余裕はない。
そこへ、後方から雷光が走る。
魔法使いの《ライトニングチェイン》。
連鎖する雷が、逃げ道を塞ぐように広がっていく。
「っ――」
ヒマワリは《陽炎》を展開。
視界を歪ませ、着地と同時に横へ転がることで、雷撃をかわす。
しかし、状況は明らかに悪かった。
前衛三名、魔法使い二名、そして――
「逃がさない」
遠距離から、ジンが弓を引き絞る。
《トリプルボルト》が発動し、三本の矢が同時に放たれた。
退路を塞ぐ、完全な包囲射撃。
ヒマワリは《蜃気楼》で虚像を生み出し、矢をやり過ごす。
だが、それも時間稼ぎに過ぎない。
敵は確実に距離を詰め、包囲網を完成させつつあった。
「このままじゃ……」
そう思った瞬間。
――空から、淡い光が降り注いだ。
夜空を背に、浮かび上がる一つの影。
透明な魔力の手――《マジック・ハンド》が巨大化し、その上にステラが立っていた。
「ヒマワリちゃん!」
ステラが《マジック・ハンド》でヒマワリを掴み、上空に逃がす。間一髪のタイミングだった。
前衛の攻撃がヒマワリがいた場所を空振りする。
「……何だ、あれは」
ジンが思わず呟き、上空を見上げた。
夜空に浮かぶステラの姿が、ゆっくりと変質していく。
《魔源共鳴》が発動した瞬間、空気が軋んだ。
全身を包み込むのは、漆黒の魔力。
背中からは禍々しい翼が展開し、額には角が生える。
人の姿を保ちながらも、その存在は明らかに“異質”だった。
魔力の波動が夜空に広がり、圧となって地上へ降り注ぐ。
「……っ」
【流星の覇者】のメンバーたちが、言葉を失う。
本能的な恐怖が、背筋を駆け上がった。
「《魔弾雨》」
次の瞬間、無数の魔弾が空から降り注いだ。
漆黒の弾丸は流星のように地面へと叩きつけられ、着弾と同時に爆発を起こす。
爆炎が連鎖し、森の一角が一気に戦場と化した。
前衛三名が慌てて回避するが、範囲が広すぎて逃げ切れない。
「くっ……!」
魔法使いが防御魔法を展開するが、魔弾の威力は凄まじく、障壁が次々と破壊されていく。
そして――
「《フェニックス・フレア》」
ステラの背後で、不死鳥の炎が形を成す。
WIS依存の強力な聖炎が解き放たれ、地を這うように広がった。
白金に近い灼熱の炎が、前衛二名を包み込む。
「う、あああっ!」
悲鳴とともに、光の粒子が夜に散った。
「……撤退だ!」
ジンが即座に判断する。
これ以上の交戦は危険――そう本能が告げていた。
魔法使いたちが煙幕を展開し、視界を遮る。
その隙に【流星の覇者】のメンバーは一斉に後退していった。
夜の森に、静寂が戻る。
――しかし。
煙幕の向こうで、ジンがミラージュに通信を送った。
「ステラが拠点にいない。今なら襲撃できる」
【星天の翼】の洞窟拠点に、夜の闇を裂くように敵影が迫っていた。
先頭に立つのはミラージュ。そして前衛三名、後衛の魔法使い一名
――計五名の精鋭部隊だ。
バルトが洞窟の入口に立ちはだかり、巨躯で通路を塞ぐ。だが、その視界の端で――嫌な気配が弾けた。
「《ナイトステップ》」
ミラージュの姿が霧のように掻き消え、次の瞬間、バルトの背後に出現する。
同時に、洞窟入口から前衛三名が一斉に突入。挟撃――完璧な連携だった。
「《ディバイン・シールド》!」
リリアが叫び、神聖な光の障壁が洞窟内に展開される。だが、ミラージュは止まらない。
「――遅い」
《超加速》が発動。身体が光を引き裂くように前へ滑り、障壁の縁をかすめるように回避すると、そのまま洞窟の奥へ突進した。
「させないよ!《マジックブースト》――《二重魔法》!」
魔力が臨界まで高まり、詠唱が重なる。
「《ファイアボルト》!《サンダーボルト》!」
炎と雷が同時に放たれ、逃げ場を塞ぐ――はずだった。
「《シルバーファントム》」
ミラージュの身体が銀色の残像を残して透過する。
二条の魔法は虚空を貫き、洞窟の壁を焦がしただけだった。
「どこ!?」
ソルが声を上げ、必死に周囲を見渡す。しかし、ミラージュの姿はどこにもない。
その隙を逃さず、前衛三名が一気に洞窟内へとなだれ込む。
一人が《加速》を発動し、影のような速度で戦場を駆け回る。
もう一人は巨大な大剣を振りかぶり、岩を砕くような一撃をノエルへ叩きつけた。
三人目は槍使い。間合いを保ちつつ、側面から鋭い突きを繰り出す。
「くっ……!」
ノエルは《ブレイクスラッシュ》で大剣使いに反撃するが、横合いから槍の切っ先が割り込む。体勢を崩した瞬間――
「させるか!」
バルトが《シールドバッシュ》を叩き込み、敵の一人をスタンさせる。
だが、間髪入れず別の前衛が前に出てきた。攻めの手が途切れない。
さらに――
「《ライトニングチェイン》」
洞窟入口から、敵魔法使いの詠唱が響く。雷光が鎖のように跳ね、ルナとソルを狙って走った。
直撃は免れたが、VITゼロの二人にとって、その余波は致命的だった。
「うわっ!」
電撃が身体を駆け抜け、HPが一気に削られる。
「《ホーリー・アロー》!」
リリアが反撃の光矢を放つが、敵前衛が壁となって立ちはだかり、魔法使いを守り切る。
――その瞬間。
ふっと、空気が揺れた。
透明化が解除され、ミラージュの姿が浮かび上がる。
場所は、クリスタルの目前。ルナとソルの背後だった。
「そこ!」
ソルが振り返りざまに《ラッキーストライク》を放つ。
しかし――
「甘い」
ミラージュが《スプリットダガー》で短剣を二回突き出し、ソルの攻撃を弾く。
「《シャドウスラッシュ》」
影を引くような斬撃が三連続で走る。
すべてがソルに命中し、光の粒子となって消えていった。
「ソル!」
ルナが《ウォーターショット》を放つが、ミラージュは半歩だけ側面にずれ、容易く回避する。
そして《シャドウスラッシュ》をルナにも叩き込んだ。
「くっ……!」
ルナまでもHPがゼロになり、撃破されてしまう。
「やった……!」
ミラージュは勝利を確信したように呟き、クリスタルへと向き直る。
短剣が翻り、《シャドウスラッシュ》の連続斬撃が無防備な結晶へ叩き込まれた。
パリン――
澄んだ破壊音が洞窟に響く。
「クリスタルを破壊した! 撤退する!」
目的は達した――はずだった。
しかしその時、洞窟の入口から淡い光が差し込んできた。ステラとヒマワリが帰還したのだ。
「みんな!」
ステラが《魔源共鳴》を維持したまま、洞窟内に飛び込む。
魔族化した姿のまま、漆黒の魔力が溢れ出している。
「《魔砲》」
ステラが両手を前に突き出す。巨大な魔力の砲撃がミラージュに向かって放たれた。
漆黒の光の奔流が洞窟内を駆け抜け、ミラージュを直撃する。
「うわっ……!」
衝撃と共に、ミラージュの身体が吹き飛ばされ、壁へ叩きつけられた。
圧倒的な威力。HPが一気に削り取られる。
ヒマワリが《ストームスタンス》を発動する。
全身が風と雷の光に包まれ、移動速度が上昇する。
《疾風連斬》を発動し、ミラージュに五連撃を叩き込む。
風と雷の追加ダメージが加わり、連続攻撃がミラージュを襲った。
「くっ……」
ミラージュのHPがゼロになり、光の粒子となって消えた。
「ミラージュさんがやられた!」
指揮官を失った敵前衛三名と魔法使いは、慌てて洞窟から逃げ出す。
ノエルとバルトが追撃に出ようとするが、敵は煙幕を展開し、そのまま闇に紛れた。
ステラは《魔源共鳴》を解除し、元の姿へ戻る。
張り詰めていた力が抜け、強烈な疲労が一気に押し寄せた。
「ルナ、ソル……」
ステラが小さく呟く。
二人は五分間リスポーンできない。さらに一デスのペナルティで、ステータスが五%減少している。
「大丈夫だよ。まだ四回残ってる」
ノエルが前向きに言う。
五分後――淡い光が洞窟の奥に灯る。
粒子が集まり、形を成す。
「……戻った」
ルナがゆっくりと目を開ける。
続いてソルも姿を取り戻した。
ステータスは五%減少。わずかな数値の低下だが、その重みは決して小さくない。
「ごめん……やられちゃった」
ルナが申し訳なさそうに視線を落とす。
「俺も……ミラージュ、速すぎた」
ソルが悔しそうに拳を握る。
「大丈夫だよ。次は気をつければいいんだから」
ステラが優しく微笑む。
初日の夜は、激しい攻防戦で幕を閉じた。
【星天の翼】はクリスタルを一回破壊され、ルナとソルが一デスした。
しかしミラージュを撃破し、【流星の覇者】にも痛手を与えることができた。
「今日はここまでにしましょう。明日に備えて休息を取ります」
全員が同時に休むことはせず、四人ずつ三時間交代で警戒に当たった。
前半組が洞窟入口と内部を見張り、後半組は洞窟の奥で短い休息を取る。
深夜、交代。
大きな動きはなく、再び四人が休みに入った。
やがて夜が明ける。
洞窟に朝の光が差し込み、二日目が始まった。
次は4/14 21時投稿予定
お楽しみに!




