第093話 極振りヒーラー、第4回イベント開幕
転送待機エリアには、五十を超えるギルドから集まった数百名のプレイヤーがひしめいていた。
果てしなく広がる白い空間。その各所で、各ギルドが円陣を組み、最終確認の声を交わしている。
遠くから響くざわめきは、緊張と興奮が混じり合った熱を帯びていた。
【星天の翼】の八人も、自然と円を作る。
中心に立つティアが、静かに口を開いた。
「みんな」
その一言で、空気が引き締まる。
ステラが柔らかく問いかけた。
「準備、できてる?」
「任せろ」
バルトが短く頷く。
「えへへ……私の魔法、ちゃんと見せるからね!」
ルナが拳を握る。
「絶対、勝つぞ!」
ノエルの声が円陣に勢いを与える。
ステラは一人ひとりを見渡しながら、《プロテス》を付与していく。
淡い光が仲間を包み込み、防御力が底上げされる。
開幕直後の乱戦に備えた、確かな布石だ。
そのとき――
空中に、巨大なカウントダウンが浮かび上がる。
『三、二、一――』
直後、眩い光の柱が全プレイヤーを包み込んだ。
視界が白に染まり、世界が切り替わる。
視界が晴れると、《星天の翼》のメンバー全員が同じ場所に転送されていた。
「ここが……私たちの拠点?」
ステラが周囲を見渡す。
転送された場所は、山の中腹にある洞窟のような場所だった。
天然の岩壁に囲まれた空間で、天井も岩で覆われている。
外の光が入口から差し込み、内部をほのかに照らしている。
奥には広めのスペースがあり、全員が休めそうな場所だ。
出入口は一箇所のみ。
「……良い拠点ですね」
ティアが洞窟の構造を確認する。
「出入口が一箇所だから、不意な奇襲を受けるリスクが少ない。小規模ギルド用の防衛しやすい構造です」
バルトが入口に立ち、外を見渡す。入口は人が三人並んで通れる程度の幅で、狭すぎず広すぎない。
「ここを押さえれば、侵入は防げるな」
洞窟の最奥部には、【星天の翼】専用のクリスタルが設置されている。
淡い青白い光を放つ水晶のような物体で、高さは約一メートル。
美しい光を放ちながら、静かに浮遊している。
「このクリスタルは絶対に守らないと……五回破壊されたら、私たちはリタイアだよね」
リリアが心配そうに見つめる。
「大丈夫だよ。みんなで協力すれば、守り切れるよ」
ステラが柔らかく微笑む。
「では、作戦開始です」
ティアが全員に指示を出す。
「攻撃チームはヒマワリさん、バルトさん、私の三名。偵察を兼ねて小規模ギルド拠点を襲撃し、クリスタル破壊によるポイント獲得を狙います」
続けて、防衛メンバーへ視線を向けた。
「防衛チームはステラさん、ノエルさん、リリアさん、ソルさん、ルナさん。本拠地の維持を最優先で」
「任せて!」
ノエルが元気よく頷く。
「行こう」
ヒマワリが先頭に立ち、バルトが続き、ティアが最後に振り返る。
洞窟の入口から差し込む光の向こうへ――三人は駆け出した。
ヒマワリ、バルト、ティアの三名が洞窟を出て、森の中を進む。
ティアが簡易マップを確認しながら、最も近い小規模ギルドの拠点へ向かった。
バルトのAGIは低いため移動速度が遅いが、ヒマワリが《加速》で先行し、ティアが中間を保つ形で進む。
約二十分後、小規模ギルドの拠点を発見する。
同じく洞窟のような場所だった。
ティアが遠くから観察する。
「……敵の拠点も洞窟構造ですね」
ティアは距離を保ったまま、入口の様子を観察する。
洞窟の奥には、かすかに淡い光が見えた。
「クリスタル、あるみたいだけど……遠いね」
ヒマワリが目を細める。
「確認します」
ティアが《ホークアイ》を発動する。
視界が研ぎ澄まされ、洞窟の奥まで鮮明に映し出された。
「距離、約二百メートル。クリスタル確認。周囲に敵プレイヤー三名」
「……その距離から、どうするつもり?」
ヒマワリが首を傾げる。
「《必中の一矢》で必中化し、《五の矢 貫》で破壊します」
「マジで!?」
追いついたバルトが低く息を吐く。
三人が茂みに隠れ、敵に発見されないよう警戒する。
ティアが弓を構える。特別な矢を番え、深く息を吸った。
「……《必中の一矢》」
矢が淡い光に包まれる。必中効果が付与された。
「……《五の矢 貫》」
放たれた矢は、音もなく闇を裂いた。
洞窟の入口を一直線に通過し、奥へ――。
パリン、と乾いた破壊音が響く。
洞窟の奥で、クリスタルに亀裂が走り、欠片が散った。
直後、洞窟内が騒然となった。
「襲撃だ! どこから撃たれた!?」
「敵はどこだ!」
武器を構えた三名が飛び出し、周囲を警戒する。
だが森は静まり返り、襲撃者の姿はどこにもない。
「……下がります」
三人は気配を消したまま後退する。
やがて敵は索敵を諦め、洞窟へ戻っていく。
「すごい……遠距離からクリスタルを破壊するなんて」
ヒマワリが感心する。
「ここからは二手に分かれましょう」
ティアが提案する。
「バルトとティアで小規模ギルドを回ってクリスタルを破壊します。ヒマワリは中規模、大規模ギルドの偵察をお願いします」
「初日のうちに稼げるだけ稼いでおきたいね。二日目以降は警戒されるだろうし」
ヒマワリが言う。
「はい。その通りです。初日が勝負です」
ティアが頷いた。
「了解! じゃあ、行ってくる!」
ヒマワリが《加速》を発動し、駆け出した。
ティアとバルトは、そのまま次の小規模ギルドへ向かった。
マップによれば、東にもう一つ拠点がある。
森を抜け、岩場を越え、慎重に距離を詰めていく。
ほどなく見えてきたのは、またしても洞窟構造の拠点だった。
「……同型ですね」
ティアが《ホークアイ》を発動し、洞窟内部を覗き込む。
奥には淡く光るクリスタル。
その周囲に、敵プレイヤーが四名。
「狙撃できそうです」
ティアが同じ手順で《必中の一矢》と《五の矢 貫》を組み合わせる。
矢が放たれ、洞窟の奥にあるクリスタルに直撃した。
パリン――
「これで二つ目だな」
次の小規模ギルドへ向かうと、同じく洞窟構造だった。
しかしこちらは入口が狭く、中の様子がほとんど見えない。
「……入口が狭すぎます。クリスタルが見えません」
ティアが《ホークアイ》で確認するが、視界が遮られている。
「はい。このタイプは狙撃不可です。飛ばしましょう」
さらに巡回を続ける。
崖の上に築かれた拠点。
森の奥深く、偶然でなければ辿り着けない場所にある拠点。
すべてが同じ条件ではない。
狙撃が通用する拠点もあれば、完全に手出しできない拠点もある。
それでも――。
条件が揃った拠点では、確実に結果を出していった。
一つ、また一つ。
遠距離から、気づかれる前に、静かに削る。
「……四つ目ですね」
ティアが淡々と数を確認する。
「悪くない」
バルトは短くそう言った。
ヒマワリは単独で中規模ギルドの拠点へ向かった。
《加速》と《跳躍》を切り替えながら、地形を蹴るように進む。
枝を越え、段差を飛び、森を一直線に駆け抜けるその姿は、まさに風そのものだった。
十五分ほどで、最初の拠点が視界に入る。
「……なるほど」
拠点は、天井こそあるものの、壁が存在しない構造だった。
太い柱だけが立っている開放的な空間で、クリスタルが中央に設置されている。
屋根があるため雨風は防げるが、四方から侵入できる構造だ。
「これは……壁がないから、守りにくいね」
ヒマワリが観察する。敵は約十五名が配置されており、四方に散らばって厳重に防衛している。
「でも、壁がないってことは……ティアの狙撃も通用するかも」
ヒマワリが情報をメモする。
続いて足を運んだのは、大規模ギルドの拠点だった。
小高い丘の上。周囲に遮るものはなく、遠くまで見渡せる。
「うわ……これは近づきにくい」
遠目でも分かる防衛の厚さ。
三十名近いプレイヤーが交代しながら巡回し、警戒を切らしていない。
クリスタルは巨大な石碑のそばに設置され、その周囲を重装と後衛が固めている。
「あ、レヴィンもいる」
指揮役が前線に出ている時点で、本気の防衛だ。
「人数で全部カバーしてるタイプだね。ここは……論外」
無理をする意味はない。
ヒマワリは静かに距離を取り、次へ向かう。
もう一つの大規模ギルドの拠点も、同じく開けた地形だった。
今度は魔法使いたちが円陣を組み、中心のクリスタルを囲んでいる。
淡い光の膜――属性魔法による防御障壁が張られているのが見えた。
「防御結界まで完備……そりゃ簡単には落ちないよね」
中心には幹部と思しき四名。
連携も取れており、隙は見当たらない。
「ここもパス、と」
ヒマワリは情報を頭に叩き込み、すぐに次の中規模ギルドの偵察へ向かう。
戦わず、姿も見せず、ただ記録する。
この地味な積み重ねこそが、あとで効いてくると分かっているから。
その頃、【星天の翼】の洞窟拠点には襲撃者が現れていた。
小規模ギルドの五名が洞窟の入口に到着する。
前衛三名、魔法使い二名の編成だ。
「入口は狭いが……押し切れない数じゃない。行くぞ」
リーダーの号令とともに、前衛が踏み込もうとする。
しかしノエルが入口に立ちはだかった。
大剣を地面に構え、動じる様子はない。
「悪いけど……ここは通さないよ」
洞窟の入口は狭く、横に並べるのは二人が限界。
数の差は、ここでは意味を持たなかった。
「行けっ!」
敵前衛が強引に突入する。
ノエルは一歩も引かず、大剣を振り抜いた。
「《ブレイクスラッシュ》!」
大剣が敵の前衛を薙ぎ払い、大ダメージを与える。
入口という狭い空間が、ノエルに有利に働いた。
「《ホーリー・アロー》!」
背後から、リリアの放った純白の矢が飛ぶ。
後衛に構えていた敵魔法使いの肩を射抜き、詠唱を中断させた。
「反撃するぞ!」
敵魔法使いが《ファイアボルト》を放つが――
「《マジックブースト》!」
ルナの全身が淡く輝き、《ウォーターショット》が放たれる。
水の弾丸が火球を飲み込み、そのまま敵後衛へと直撃し、すべてを飲み込んで光へと消えた。
さらにソルが《ラッキーストライク》で敵の前衛を攻撃する。
確定クリティカルの一撃が、崩れた体勢の急所を正確に貫いた。
敵プレイヤーのHPが一気に消し飛び、光となって消失する。
残る前衛に、ノエルが踏み込んだ。
《ブレイクスラッシュ》。
大剣が横薙ぎに振るわれ、洞窟内に鈍い衝撃音が響く。
壁に叩きつけられた敵は、追撃の余地すらなく消滅した。
最後に残った一人にステラが不死鳥の炎を放つ。
「《聖炎》」
浄化するような光の中で、敵プレイヤーのHPが削り切られる。
身体が淡い光となり、粒子へと崩れた。
「何とか守り切ったね」
「入口が狭いおかげで、守りやすかったね」
リリアが頷く。
防衛チームは無事に最初の襲撃を撃退した。洞窟という地形を活かし、完璧な防衛を見せたのだった。
次は4/10 21時投稿予定
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