第092話 極振りヒーラー、イベント前の最終調整
翌日。
ギルドメンバー全員が訓練場に集まっていた。
「じゃあ、今日は八人での連携練習をしよう」
ヒマワリの提案に、全員が頷く。イベントまで残された時間は少ない。だからこそ、今できる準備はすべてやる。
「まずは模擬戦闘から始めましょう」
ティアが冷静に指示を出す。訓練場の管理NPCに話しかけ、高難易度モードを選択。
次の瞬間、訓練場の奥から光が溢れ出した。
現れたのは――《トレーニングゴーレム》十体。
「いくよ!」
ヒマワリが真っ先に飛び出す。
二刀を構え、《ストームスタンス》発動。全身に風と雷が走り、移動速度が一気に跳ね上がる。
一直線に最前列のゴーレムへ突進。
「――《疾風連斬》!」
右手、左手。交互に閃く斬撃。
十連撃が重装甲を削り取り、火花が散った。
「俺も!」
バルトが大盾を構えて前へ出る。
「《挑発》!」
低く響く声とともに、周囲のゴーレムの視線が一斉に集まった。
五体が同時に襲いかかる。
だが――
「《アイアンウォール》!」
重い衝撃音。盾が攻撃を受け止める。
さらに《カウンターシールド》が発動。反撃ダメージが返り、ゴーレムの体表に亀裂が走った。
「バルトさん、サポートします!」
ステラが杖を掲げる。
《ヒール》《リジェネ》《再生の祝炎》を連続発動。淡い光がバルトを包み込み、《リストア・ヴェール》が厚く展開される。
続けて、
《プロテス》《剛力》《迅速》《魔力増幅》《星の巡り》。
幾重もの強化光が重なり、ステータスが底上げされていく。
「みんなにもバフをかけるね」
ステラが静かに目を閉じる。
「――《慈愛の抱擁》」
背中から白い光の翼が六枚、ふわりと展開。頭上に金色の光輪が浮かび上がる。
柔らかな白金色の光が広がり、光の羽が舞い散った。
その瞬間。
ステラが展開していたすべての強化効果が、範囲内の味方へ一斉に拡張される。
ヒマワリ、バルト、ノエル、リリア、ティア、ルナ、ソル。
八人全員が、バリアと継続回復の光に包まれた。
「……すご」
ノエルは思わず息を呑みながら、大剣を振り抜いた。
衝撃が走り、ゴーレムの装甲が砕け散る。反撃を受けても、ダメージはすぐに光に溶けて消えていった。
前線の横では、リリアが静かに手を掲げる。
一枚の神聖障壁が展開され、ゴーレムの攻撃を受け止める。隙を見て放たれた光の雨が、上空から降り注ぎ、敵の動きを確実に削っていった。
後方――
ティアは無言で弓を引く。
放たれた矢は速く、正確だった。
装甲の継ぎ目を射抜き、さらに指定地点へと矢の雨を降らせる。複数のゴーレムが同時に揺らいだ。
「……今だ」
ルナが杖を構える。
《二重魔法》
灼熱の炎弾が一直線に突き進み、ほぼ同時に雷撃が走る。
2つの魔力が放たれ、直撃と同時に爆発が起きた。
衝撃波に巻き込まれ、周囲のゴーレムがまとめて後退する。
「よし、いける!」
その隙を逃さず、ソルが低く跳んだ。
短剣が閃き、確実な一撃が装甲に亀裂を走らせる。続く連撃は、すべてが急所を捉えていた。
七撃目が決まった瞬間――
淡い光が、ソルの体を包む。
「……え?」
足を止め、ソルが自分のステータス画面を見る。
そこに、新しい表示が浮かび上がっていた。
【スキル習得:《奇跡の連鎖》】
「クリティカルのたびに……強くなる、のか……?」
驚きと興奮が入り混じった声が漏れる。
だが、戦闘はまだ終わらない。
連携は、確かに形になり始めていた。
いいね、水+風は“制圧戦向き”で戦術的にも映える。
差し替えリライトいくね。
驚きを隠せないまま、ソルは再び踏み込んだ。
短剣が閃くたび、確かな手応えが返る。クリティカルが発生するたびに、体の奥が熱を帯び、力が積み上がっていくのが分かった。
STR、VIT、AGIがわずかずつ上昇する。
動きは軽く、鋭く。攻撃速度もダメージも、目に見えて増していく。
「ソル、すごい!」
ヒマワリは雷撃の三連撃を叩き込み、そのまま風の斬撃を飛ばす。手数で押し切る二刀流が、ゴーレムの装甲を削り続ける。
「一気に制圧するよ!」
ルナが前に出た。
杖を高く掲げ、全身の魔力を圧縮する。
《マジックブースト》。
青白い光が体を包み込み、魔法攻撃力が跳ね上がる。空気が震え、水分がわずかに揺らいだ。
右手に《ウォーターショット》。
左手に《ウィンドカッター》。
同時発動――《二重魔法》。
放たれた水弾が一直線に撃ち抜き、直後、風の刃が追い打ちをかける。
水を纏った装甲を、鋭い風が深く切り裂く。衝撃で生まれた水飛沫が周囲に散り、さらに追撃の風刃が乱舞した。
連続詠唱。
水弾が敵の動きを鈍らせ、
風刃がその隙を正確に断つ。
まるで嵐のような連撃。
残っていたゴーレムたちは耐えきれず、次々と亀裂を走らせ、崩壊していった。
「……すご……」
リリアが呆然と呟く。
派手な爆発はない。だが、制御された連撃は確実に敵を制圧していた。
「……やった」
ルナは膝をつき、息を整える。
MPは大きく削られている。それでも、その瞳は充実感に満ちていた。
「全部、倒した……?」
ノエルが周囲を見回す。
十体の《トレーニングゴーレム》は、すべて光の粒となって消えている。
「……完璧でした」
ティアが静かに告げた。
ティアが戦場を一瞥し、冷静に評価を下す。
「八人の連携に、問題はありません」
その一言で、場の空気が引き締まった。
「前衛はヒマワリさん、バルトさん、ノエルさん、ソルさん。敵の注意を引きつけ、戦線を固定しています。ステラさんとリリアさんが回復とバフを担当。被ダメージを抑えつつ、継戦能力を維持。ルナさん、そしてティアが後方から攻撃。火力と削りを安定して供給できています」
「役割分担が、きちんと機能しています」
バルトが満足そうに頷いた。
「特に、ステラの《慈愛の抱擁》が強力だな。全員にバリアと回復が共有される。生存能力が段違いだ」
「うん」
ヒマワリも同意する。
「これなら、五デスリタイアでも何とか戦えそう」
「えへへ……」
ステラは少し照れたように笑った。
「役に立てて、よかったです」
「それに、ルナとソルも新しいスキルを覚えたね」
リリアが嬉しそうに言う。
「うん! 《マジックブースト》、すごく強い!」
ルナは興奮を隠せない様子だ。
「魔法攻撃力が二倍になるから、《二重魔法》と組み合わせると……」
「敵が一瞬で溶ける」
ヒマワリが苦笑混じりにまとめる。
「俺の《奇跡の連鎖》も……」
ソルが少し誇らしげに言った。
「クリティカルが出るたびに強くなる。戦闘が長引くほど、火力が上がっていくんだ」
「それは頼もしいな」
バルトが大きく頷く。
「では、次に進みましょう」
ティアが視線を巡らせた。
「次は、チャネリング所持者の護衛訓練です」
全員が自然と気を引き締める。
訓練は、もう遊びではない。
イベント本番に向けて――
ギルドの連携は、確実に研ぎ澄まされていった。
次は4/9 21時投稿予定
お楽しみに!




