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死ぬのが怖いので、不人気の回復職を選びました。  作者: s-rush


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第089話 極振りヒーラー、甘味の理想郷2

《魔法のオーブ》が、眩いほどの光を放った。


供えられた十種類のスイーツが淡く輝き、次々と光の粒子へとほどけていく。

光は渦を巻き、膨らみ、やがて――人の輪郭を形作り始めた。


一つ、また一つ。

お菓子が消えるたび、そこに“存在”が生まれる。


チョコレート色の鎧を纏った剣士、《ナイトショコラ》。

水色の髪を揺らす双剣の少女、《ジェラート》。

虹色のマントを翻す大剣使い、《シュトレン》。

星模様の盾を構えた少年、《ビスコルド》。

黄金の重装鎧と巨大な大盾を誇る、《チョコガルド》。

炎色の髪に弓を携えた、《キャンディス》。

天空色のローブを纏う魔導士、《マジョレーヌ》。

補助の杖を手にした、実直そうな青年、《ショコア》。

いたずらっぽい笑みを浮かべる、《キャラメリア》。


そして最後に――

虹色のフルーツを髪飾りにした、優しげな少女。《シスタルト》。


十体の聖霊が、静かにステラを囲んだ。


ナイトショコラが一歩前へ進み、片膝をつく。


「我ら、甘味に宿りし聖霊」


低く、しかし確かな声が響く。


「あなたの想いに応え、ここに顕現した。これより先、剣となり、盾となり、共に歩もう」


他の聖霊たちも、音もなく頭を垂れた。


ステラは、言葉を失ったまま立ち尽くす。


「みんな……」


シスタルトが一歩近づき、柔らかな微笑みを向ける。


「私たちは、あなたの願いから生まれました。

甘いものを大切にする心も、誰かを守ろうとする想いも――全部」


ステラの胸が、じんわりと熱くなる。


「ありがとう……」


小さな声だったが、確かに届いた。


十の聖霊が、静かに応えるように、淡く光を放った。



その時――


「ちっ……邪魔が入ったか」


闇の奥から、スイートシーフが再び姿を現した。


「だが、これくらいで諦めるかよ!」


瞬間、地を蹴る。

AGI特化の高速移動。聖霊たちの隙間を縫うように、一直線に突進してくる。


重い足音が響いた。


チョコガルドが前に出る。


「通さん!」


巨大な大盾を構え、最前線に立つ。

すぐ横に、ビスコルドが中型盾を掲げて並んだ。


「僕も手伝うよ!」


二枚の盾が重なり、防御陣形が完成する。


次の瞬間――

スイートシーフの突進が、大盾に激突した。


「なっ……硬い……!?」


「当然だ」


チョコガルドは、一歩も引かない。


その隙を逃さず、ナイトショコラが盾の間から飛び出した。

片手剣が閃き、無駄のない連撃がスイートシーフを襲う。


反対側から、ジェラートが滑り込む。

双剣の刃が、風を裂いて高速で舞った。


「遅いですよ」


スイートシーフが距離を取る。


「そこです!」


シュトレンが両手剣を振り上げ、豪快な一撃を叩き込む。

横跳びでかわしたスイートシーフ――


だが、着地した瞬間。

すでにキャンディスが弓を引き絞っていた。


「当たってください!」


放たれた矢が一直線に走り、スイートシーフの肩を射抜いた。


「くっ……!」


その隙を逃さず、マジョレーヌが魔導書を開く。

ページに描かれた甘味紋様が淡く光り、静かな詠唱が響いた。


「《スイート・フレイム》」


溶けたチョコレートのような炎が渦を巻き、スイートシーフに直撃する。

甘い香りとともに弾け、HPバーが目に見えて削れた。


「なっ……甘い、のに……熱い……!?」


ショコアが一歩前に出て、補助杖を高く掲げる。


「みんなの力を、高めます。

《アタックアップ》《ガードアップ》《ヘイスト》!」


柔らかな光が味方全体を包み込み、身体が軽くなるのが分かった。


キャラメリアが楽しそうに微笑み、杖を向ける。


「代わりに、あなたは弱くなってください。

《アタックダウン》《ガードダウン》《スロウ》!」


黒い霧がスイートシーフに絡みつき、動きを縛る。


「体が……重い……!?」


「……ステラ様」

柔らかな声が、すぐ隣から聞こえた。


シスタルトが静かに立ち、両手を広げる。

淡い光が溢れ、ステラの身体を包み込んだ。

「ご安心ください。あなたは、私たちが守ります。《ヒール》」


温かな光がステラを包み、削られていたHPが一気に回復する。

さらに手を広げ、前衛へと癒しを送った。


「《シュガーヒール》」


甘く優しい回復の光が広がり、聖霊たちのHPも満ちていく。


「……ありがとう」


ステラは小さく頷き、改めて前を見据えた。


「みんな、一気に行こう!」


ステラの声に応えるように、チョコガルドとビスコルドが左右から盾を寄せる。

重なり合う防御の壁が、スイートシーフの退路を完全に断った。


動きが止まった、その瞬間——前衛が同時に踏み込む。


正面からナイトショコラ。

左からジェラート。

右からシュトレン。


三方向からの斬撃が、寸分の狂いもなく叩き込まれた。


さらにキャンディスの矢が連続して突き刺さり、マジョレーヌの魔法が追い打ちをかける。

甘く輝く魔力が、容赦なくHPを削っていく。


ショコアが杖を掲げ、最後の支援を解き放った。


「《クリティカルアップ》!」


全員の攻撃が鋭い輝きを帯びる。


「ぐあぁっ……こんな……!」


断末魔とともに、スイートシーフのHPバーがゼロを示す。

次の瞬間、その身体は光の粒となり、静かに消滅した。


戦いの余韻が消えた空間で、聖霊たちが自然とステラの周囲に集まる。

守るように、寄り添うように。


ナイトショコラが一歩前に出て、静かに告げた。


「我らは、常に貴女と共にあります」


その言葉に重なるように、視界の端にシステムウィンドウが浮かび上がった。


【スキル習得!《スイート・レギオン》】


《スイート・レギオン》

甘味に宿った想いを聖霊として顕現させるスキル。

最大十体の聖霊を召喚可能。

聖霊は使用者の補助・防衛を最優先とし、それぞれが独自の能力と意志を持つ。

撃破された聖霊は1日再召喚不可。

個別召喚可。


「……みんな、いつでも呼べるんだ」


ステラは説明文をなぞるように読みながら、ぽつりと呟いた。


その隣で、シスタルトが柔らかく微笑む。


「はい。いつでも、お呼びください」


ステラは嬉しそうに、何度も頷いた。


《魔法のオーブ》は、役目を終えたかのように光を失い、静かに消え去った。


それに呼応するように、聖霊たちの姿も次第に淡い光へと変わっていく。


シスタルトが、最後にステラの前へと歩み寄った。


「また、会いましょうね」


その声は優しく、どこか温かい。


ナイトショコラは片膝をつき、深く頭を下げる。


「次にお呼びいただくまで」


チョコガルドは豪快に笑い、親指を立てた。


「また暴れさせてくれよな!」


ジェラートは控えめに、小さく手を振る。


「また……ね」


他の聖霊たちも、それぞれ短い言葉を残しながら、光に溶けて消えていった。


やがて、そこに残ったのはステラ一人。


祭壇の周囲には、戦いの痕跡も光もない。

ただ、ほんのりと甘い香りだけが、静かに漂っていた。


「……みんな、ありがとう」


ステラはそう呟き、そっと微笑んだ。






翌日。


ヒマワリがギルドホームにログインする。

扉を開けると、談話室からおいしそうな香りが漂っていた。

テーブルを見ると、ステラが誰かと向かい合ってケーキを食べている。


ヒマワリが目を凝らす。

相手は、虹色のフルーツを髪飾りにした優しそうな少女だった。


「ステラ……? その子、誰……?」


ステラが顔を上げ、嬉しそうに言う。


「シスタルトちゃん! 新しいスキルで召喚したの。一緒にスイーツ作ってもらってたんだ」

「シスタルト……ちゃん?」

「うん」

「……誰?」


ステラは一瞬きょとんとしたあと、はっとして手を打つ。


「あ、そっか。ヒマワリ、昨日途中で落ちたもんね」

「うん。だから、知らない子がいきなり一緒にお菓子作ってるように見えるんだけど」


ヒマワリがシスタルトをちらりと見る。

彼女は穏やかに微笑み、丁寧に頭を下げた。


「はじめまして。シスタルトと申します」

「……礼儀正しい」


ステラが少し照れたように説明する。


「えっとね。昨日のクエストで……新しいスキル、覚えたの」

「スキル?」

「うん。召喚系……みたいな感じで」

「……みたい、って何」


「呼ぶとね、一緒に戦ってくれたり、回復してくれたりするの」

「なるほど。で、その子が……」

「そう! シスタルトちゃん!」


シスタルトが静かに頷く。


「ステラ様の回復を、お手伝いしています」


ヒマワリは一瞬だけ言葉を失い、

次の瞬間、深くため息をついた。


「……なるほどね」

「分かった?」

「うん。分かったうえで言うけど」


ヒマワリは椅子を引いて腰を下ろす。

テーブルの上には、色とりどりのスイーツが整然と並んでいた。


「強力な召喚スキル覚えた翌日に、やってることがスイーツ作りって……一個もらっていい?」

「どうぞ!」


ツッコミを入れながらもヒマワリがタルトを一口かじる。


「……おいしい」

「でしょ!」


ステラが満面の笑みを浮かべる。

シスタルトも、どこか嬉しそうに微笑んでいた。


「ステラ様、もう一切れいかがですか?」

「いただきます!」


ヒマワリがその様子を眺めながら、小さく笑った。


どんな強敵を倒しても、帰ってきたらスイーツを作っている。

それがステラというプレイヤーだと、ヒマワリは改めて思った。


次は4/6 21時投稿予定

お楽しみに!

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