第084話 極振りヒーラー、奇跡の一撃
ステラとルナが二重魔法を習得していたその頃。
第三階層――風の空中庭園、その外縁に近いエリア。
宙に浮かぶ回廊を、ヒマワリとソルが並んで歩いていた。
「LUK極振りだとさ、装備でどのくらいステータス補えてる?」
何気ない調子で、ヒマワリが尋ねる。
「VITは、ほぼゼロですね。AGIも……装備で少し上がってる程度です」
「なるほど。じゃあ、直撃したら一撃で終わる可能性もあるね」
ヒマワリは前を向いたまま、淡々と言った。
「今日は“当たらない”ことを最優先にしよ。攻撃より、生き残る動き」
「回避、ですか……。俺、足遅いんですよね」
少し気後れした声で、ソルが答える。
「AGIが低くても関係ないよ」
ヒマワリは振り返り、軽く笑った。
「大事なのは速さじゃなくて、動く“タイミング”。敵の動きを読んで、先に動く。それだけで、体感は全然変わる」
そう言いながら、ヒマワリは前方に現れた《ウィンドホーク》の群れへと歩み出た。
「見てて」
次の瞬間、鷹が甲高い鳴き声を上げ、急降下してくる。
だがヒマワリは、走ることも構えることもせず、歩調を変えない。
攻撃が届く直前――
ほんの半歩、横にずれた。
鋭い爪が、空を切る。
「来る直前に動く。大きく避けなくていい。最小限で十分」
何事もなかったかのように、ヒマワリは続けた。
「……やってみます」
ソルが短剣を構え、別の鷹へと向き直る。
甲高い鳴き声とともに、鷹が急降下してきた。
ソルは反射的に、大きく横へ跳ぶ。
「もう少し小さく動いてみよっか。大きく避けると、次の動きが遅れちゃう」
「だって……怖くて」
「最初はみんなそうだよ。慣れれば自然にできる。もう一回」
次の鷹が迫る。
今度は、ソルが小さく前へ踏み込んだ。
鋭い爪が肩を掠めるが、致命傷にはならない。
「惜しい! でも、さっきよりずっといい」
「ちょっとだけ掠りましたけど……!」
「それで十分。じゃ、今度は攻撃も混ぜてみよう」
ソルが短剣を振るう。
「《ラッキーストライク》!」
光を帯びた刃が鷹を貫く。
【クリティカル!】
鷹は抵抗する間もなく、光の粒となって消えた。
「よっしゃ、またクリティカル!」
「LUK極振り……クリ率えぐいね」
ヒマワリは思わず苦笑する。
「これが俺の武器です!」
以降は連携も安定していった。
ヒマワリが前に出て敵を引きつけ、ソルが安全圏から一撃を叩き込む。
「《ラッキーセブン》!」
七連の斬撃。そのうち三つがクリティカルとなり、モンスターは霧散した。
「三回クリティカル出た!」
「運の乱数が、全部味方してる感じだね」
「俺の運を信じろ、です!」
「……まあ、強いから文句はないか」
経験値が積み重なり、二人はさらに庭園の奥へと進んでいった。
その時だった。
草むらの影から、きらりと金色の光がこぼれた。
「あれ……?」
ヒマワリが足を止める。
次の瞬間、草むらから転がるように現れたのは――
全身が黄金色に輝く、小さなスライムだった。
《ゴールデンスライム》
「あ、レアだ。倒したい」
即座にヒマワリが前に出る。
「え、なにあれ!?」
「めったに出ないやつ。倒せたら、かなり美味しいよ」
その声を聞いた瞬間、ゴールデンスライムがぴょんっと跳ねた。
そして――逃げた。
「ちょ、待って!」
二人が追いかける。
弾むような動きで、ゴールデンスライムはすり抜けていく。
「速い! スライムなのに!」
「逃げ足だけは一流なんだよ。諦めないで!」
庭園の整った道を外れ、細い獣道へ。
木々の間を抜けた先で、突然視界が開けた。
「……あれ?」
二人は同時に足を止める。
そこにあったのは、苔に覆われた古い神殿。
石造りの壁には古代文字が刻まれ、地図には表示されていない。
未踏破エリア――。
ゴールデンスライムは迷うことなく、神殿の中へと飛び込んでいった。
「逃げ込んだね……」
「追います?」
ソルが短く尋ねる。
ヒマワリは一瞬だけ考え、笑う。
「せっかくだし。こういうの、嫌いじゃないでしょ?」
二人は顔を見合わせ、神殿の中へと足を踏み入れた。
神殿の内部は薄暗かった。
松明の代わりに、壁に埋め込まれた宝石が淡く光を放っている。床に刻まれた古代紋様が、足音を静かに反響させた。
ゴールデンスライムの痕跡を追い、奥へ進む。
やがて二人は、中央の祭壇へと辿り着いた。
祭壇の上に置かれていたのは――金色のコインが一枚。
見慣れない紋様が刻まれ、不思議な輝きを放っている。
そのすぐそばで、ゴールデンスライムがぴょんぴょんと跳ねていた。
「……これ、何だろ」
ソルが興味を隠せず、一歩近づく。
「ソル、待って――」
ヒマワリが制止するより早く、ソルの指がコインに触れた。
瞬間――
眩い光が弾け、神殿全体が低く唸るように震えた。壁の紋様が一斉に輝き出す。
「なっ……!?」
光が収束し、祭壇の前に影が立ち上がる。
金色の鎧を纏った騎士。
両手に二本の剣を携え、その存在だけで空気が張り詰めた。
《幸運の守護者フォーチュンナイト》
「幸運のコインを手にする資格を――示せ」
重く、静かな声が神殿に響く。
「……また守護者系か」
ヒマワリが剣を抜く。
「で、でも……俺、LUK極振りですよ?幸運のコインなら、相性良さそうじゃないですか?」
「たぶん、そういう話じゃないと思うけどね」
ヒマワリは苦笑しつつ、構えを取る。
「……行きます!」
ソルも短剣を構え、前に出た。
フォーチュンナイトは静かに剣を構える。
二本の剣が交差し、金色の光を纏う。その動きに一切の無駄はない。
長年、戦い続けてきた者だけが持つ洗練された構えだった。
先手を取ったのはフォーチュンナイト。
二振りの剣が同時に振るわれ、ソルへと迫る。
「うわっ!」
ソルは反射的に大きく跳んだ。
「小さく動いて! さっき練習したでしょ!」
「分かってますけど、体が勝手に!」
跳躍のおかげで直撃は免れたものの、着地は不安定だ。
「――《ラッキーストライク》!」
着地と同時に反撃。短剣が光を纏い、フォーチュンナイトの鎧を叩いた。
金属が弾け、フォーチュンナイトが一歩後退する。
「効いてる!」
「下がってて。私が引きつけるね!」
ヒマワリが前に出る。
「《蜃気楼》! 《陽炎》!」
三体の虚像が展開され、視界が揺らぐ。フォーチュンナイトの視線が定まらない。
「今だよ、ソル!」
「《ダブルアタック》!」
ソルの短剣が二度、立て続けに脇腹を捉えた。一撃目はクリティカル。二撃目も確実にダメージを与える。
だが、フォーチュンナイトは怯まない。
左の剣が一閃。三体の虚像が同時に掻き消される。
続けて右の剣を構え、ヒマワリへと突進してきた。
「《跳躍》!」
ヒマワリは上空へ飛び、剣撃を躱す。
「《疾風連斬》!」
空中からの五連撃。フォーチュンナイトのHPバーが目に見えて削れた。
しかし、フォーチュンナイトは両剣を交差させ、金色の衝撃波を放つ。扇状に広がる攻撃が二人を同時に襲った。
「散れ!」
二人は左右に跳び、間一髪で回避する。
「俺に任せてください! 《フォーチュンブレイド》!」
ソルの短剣がLUKの力を纏い、黄金色に輝く。踏み込みと同時に、高火力の一撃を叩き込んだ。
フォーチュンナイトが大きく後退する。
「いいね、その調子!」
「まだ行きます!」
フォーチュンナイトは体勢を立て直し、二本の剣を高速で振るいながら突進してくる。
剣の軌跡が光の残像となり、まるで光の嵐だ。
「《疾風連斬》! 《ウィンドスラッシュ》!」
ヒマワリが五連撃を放ち、さらに風の刃で迎撃する。激突の瞬間、火花が散った。
「今だよ、ソル! 背後から!」
「《ラッキーセブン》!」
背後に回り込んだソルが七連撃を叩き込む。
一撃目、クリティカル。
二撃目、三撃目は通常ダメージ。
四撃目、再びクリティカル。
そして――五撃目、その瞬間、短剣の手応えが変わった。。
「《奇跡》……!?」
突如、短剣が眩い黄金色に輝いた。
第五撃がフォーチュンナイトの胸部へ吸い込まれる。
次の瞬間、爆発的な光が炸裂した。
フォーチュンナイトは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。HPバーが一気に半分以上削れた。
「な……今のは!?」
ヒマワリが目を見開く。
「俺も何が起きたか分かんないです!」
「分かんないんだ!?」
六撃目、七撃目が続き、HPは残り僅か。
よろめきながら、フォーチュンナイトは最後の力を振り絞り、二本の剣を天に掲げた。
金色のオーラが膨れ上がる。
「させない! 《ダブルアタック》! 《ラッキーストライク》!」
ソルが跳び込む。
二連撃――両方ともクリティカル。
フォーチュンナイトの動きが止まり、剣が力なく地に落ちた。
「……汝の幸運、真のものと認めよう」
その言葉を残し、フォーチュンナイトは光の粒となって消えた。
神殿内に静寂が戻る。
「……勝った」
ソルは呆然と立ち尽くした。
「さっきの光、何だったの?」
ヒマワリの問いに、システムウィンドウが答える。
【スキル習得:奇跡の一撃】
効果:低確率で超高火力の一撃が発動するパッシブスキル
「スキル、習得した……!」
「あの爆発みたいなのが?」
「これ……強くないですか?」
「LUK極振りだから、発動率も高そうだよね」
「俺の運を信じろ、ってやつです!」
ソルは拳を握る。
祭壇のコインが静かに輝き、彼の手元に収まった。
神殿を出ると、木漏れ日が二人を迎える。
「回避、少しだけ上手くなったよ」
ヒマワリが笑う。
「まだまだですけど……続けます」
ソルは真剣な表情で頷いた。
「うん。イベントまでに、もっと磨いていこう」
二人は並んで歩き出す。
ソルはコインを空に投げ、受け取った。
表だった。
「やっぱり俺、運いいかも」
「ゲームの中だけね」
「そこ言います!?」
ヒマワリが笑い、ソルも笑った。
次は4/1 21時投稿予定
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