第083話 極振りヒーラー、二重魔法を手に入れる
ギルドホーム、談話室。
翌朝、全員が揃ったところで、ステラが一歩前に出て口を開いた。
「ルナちゃんとソルくんのレベルを上げないと、イベントまでに間に合わないよね」
その言葉に、バルトが腕を組んだまま頷く。
「そうだな。第三階層のモンスターは、レベル差があると一気に厳しくなる。まずは基礎を作らないといけない」
「じゃあ、こうしよう」
ステラは少し考えてから、にこりと笑う。
「ルナちゃんは私と一緒に第三階層でレベリング。ソルくんはヒマワリと一緒に、回避技術を学びながらレベリングするのはどうかな」
「回避技術……?」
ソルがきょとんとした顔で首を傾げる。
「ソルくんはLUK極振りだから、防御力が低いでしょ。それに短剣使いは、どうしても相手に近づく必要がある。避けられなきゃ、クリティカルを出す前に倒されちゃうよ」
ヒマワリが、実感のこもった口調で補足する。
「確かに……俺、よく死ぬんですよね」
ソルは苦笑しながら頭を掻いた。
「それは困るね。『俺の運を信じろ』じゃなくて、『俺の足を信じろ』になっちゃう」
ステラがくすっと笑う。
「それ、全然違う感じがしますけど……まあ、お願いします!」
ソルは深く頭を下げた。
「ルナは私に任せて。楽しくレベリングしようね!」
ステラが優しく声をかける。
「はい! よろしくお願いします!」
ルナも元気よく返事をした。
こうして――
ステラとルナ、ヒマワリとソル。
二組に分かれてのレベリングが決定したのだった。
第三階層、風の空中庭園。
柔らかな風が吹き抜け、白い石造りの建物が陽光を受けてきらめいている。ステラとルナは並んで庭園の道を歩いていた。
「ここは《ウィンドホーク》や《エレメンタルスライム》が出るから、レベリングに向いてるよ」
ステラがそう説明する。
「了解です! やっちゃうよー!」
ルナが元気よく杖を構えた。
空から《ウィンドホーク》が三体、鋭い羽音を立てて急降下してくる。
「《ファイアボルト》!」
ルナが杖を振ると、巨大な火球が放たれ、一体を正面から撃ち抜いた。
「もう一発! 《ファイアボルト》!」
続けざまに放たれた炎が残る二体を包み込み、三体すべてが一瞬で撃破される。
「やった! 経験値いっぱい!」
ルナが嬉しそうに声を上げる。
ステラは後衛でバリアを維持し、ルナを守るように立っていた。《ヒール》《リジェネ》でHPを管理しつつ、時折、聖炎で援護する。
今度は《エレメンタルスライム》の群れが現れた。
「やっちゃうよ! 《ファイアボルト》!」
炎の弾が着弾した瞬間、スライムたちはまとめて爆散した。
「ルナちゃん、INT極振りだと、こんなに威力が出るんだね……」
ステラが感心したように呟く。
「えへへ、これが私の自慢です!」
順調に経験値が積み重なり、レベルが上がっていく。
二人はそのまま、風の庭園の奥へと進んでいった。
しばらく歩き続けたところで、ステラがふと足を止めた。
「……あれ?」
「どうしたんですか?」
「ここ……見たことない場所だよ」
周囲を見回すと、そこにはいつもの庭園とは異なる景色が広がっていた。白い建物は途切れ、むき出しの岩肌が続く崖地へと変わっている。
「あれ……ここ、どこ?」
ルナが不思議そうに首を傾げる。
ステラは地図を開いた。だが、画面には何も表示されない。
「未踏破エリア……迷い込んじゃったのかも」
「えー! どうしよう!」
「落ち着いて。来た道を戻ればいいだけだよ」
ステラは冷静に言った。
だが、そのとき――
崖の隙間に、小さな洞窟の入口があるのが目に入った。
「あ、洞窟だ。入ってみる?」
ルナが興味津々といった様子で指差す。
「モンスターもいるかもしれないし……どうしようかな」
ステラが少しだけ考え込む。
「せっかくだし! 行きましょうよ!」
「……うん、じゃあ慎重に」
二人は顔を見合わせ、洞窟の中へと足を踏み入れた。
洞窟の中は薄暗かった。
一歩踏み出すたび、体の内側に何かが染み込んでくるような感覚がある。
「なんか……空気が違う」
ルナが小さく呟いた。
「マナが濃い……この洞窟、普通じゃないかも」
ステラは杖を握り直す。壁面がうっすらと輝き、魔力が満ちているのがはっきりと分かった。
まるで洞窟そのものが、魔力で満たされているかのようだった。
奥へ進むにつれ、微かな光が見えてくる。
「あれ……光ってる?」
二人はその光へと近づいた。
そこには――
床一面に描かれた、巨大な魔法陣があった。
二重の円が重なり合い、複雑な紋様が刻まれている。淡い金色の光を放ち、静かに脈動していた。
「これ……二重魔法陣……?」
ルナは目を輝かせ、魔法陣へと歩み寄る。
「ルナちゃん、待って——」
ステラが止めるより早く、ルナの指先が魔法陣に触れた。
瞬間、魔法陣が強く輝き、光がルナの体へと流れ込む。
「わっ!?」
直後、魔法陣の中央に光が収束し、やがて巨大な影が形を成した。
《ルーンガーディアン》
石造りの巨人。右手からは炎が、左手からは氷が滲み出している。二つの属性を同時に纏った守護者だ。
「出た!」
「《ヒール》! 《リジェネ》! 《再生の祝炎》!」
ステラが即座に回復スキルを発動し、淡い光のバリアを展開する。
「さらに――《プロテス》! 《迅速》! 《魔力増幅》! 《星の巡り》!」
畳みかけるようにバフを付与し、続けて《慈愛の抱擁》を発動した。背中から白い翼が広がり、光の羽が舞い散る。ルナを包み込むように、継続回復とダメージ軽減の効果が広がった。
さらに《マルチディバイン・シールド》が展開され、三重の盾が前方に重なる。
ステラは即座に、防御態勢を整える。
「ルナちゃん、攻撃して!」
「はい! 《ファイアボルト》!」
炎の弾がルーンガーディアンへと飛ぶ。
だが――
ルーンガーディアンの右手が炎を掴んだ。炎は抵抗することなく、巨人の体へと吸収されていく。
「え、効かない!?」
「違う属性を試してみて!」
ステラが叫ぶ。
「《ウィンドカッター》!」
風の刃が放たれる。だが、それも同じように吸収された。
《ウォーターショット》や《サンダーボルト》もまた、消えていった。
「ほかの属性も効かないよ!?」
ルナが焦った表情を浮かべる。
その時、ルーンガーディアンが右腕を振るった。
足元に魔法陣が三枚展開され、同時に炎、氷、風の魔法が放たれる。
マルチディバイン・シールドが攻撃を受け止める。だが、連続する魔法がバリアを削っていく。《リフレクト・ヴェール》が反射ダメージを返すが、攻撃は止まらない。
四枚目の魔法陣が展開され、雷の魔法が加わった。
「くっ……!」
バリアが砕け散る。
「《ヒール》!」
ステラが即座に回復し、再びバリアを展開する。
「どうすれば……!」
ルナは必死に、活路を探した。
その時、ステラが足元の魔法陣に気づいた。
「ルナちゃん、あの魔法陣……壊せるかもしれない! 《聖炎》!」
聖なる炎が魔法陣を撃ち抜く。光の円にひびが走った。
「あ、効いてる! じゃあ私も——」
ルナは炎の魔符を取り出し、即座に起動する。
「《ファイアボルト》!」
同時に、杖を振るう。
「《ウォーターショット》!」
二つの魔法が別々の魔法陣に直撃し、ほぼ同時に砕け散った。
魔法陣が消えた瞬間、ルーンガーディアンの体に、初めて確かなダメージが刻まれる。
「今の、通った!」
「魔法陣を全部壊せば、本体にダメージが入みたいだね。どんどんやっちゃおう!」
「了解です!」
ステラが《聖炎》で魔法陣を牽制する。
「今だよ、ルナちゃん!」
「はいっ!」
ルナは炎の魔符を起動しながら、同時に杖を振る。
「《ファイアボルト》!」
炎の魔符が放った火球と、ルナ自身の魔法が重なり、二つの魔法陣を同時に砕いた。
間を置かず、ルナは水の魔符を投げ捨てるように起動する。
「《ウォーターショット》!」
自身の詠唱と魔符の魔法がほぼ同時に発動し、別々の魔法陣を撃ち抜く。
さらに風、雷と切り替えていく。
「《ウィンドカッター》!」
「《サンダーボルト》!」
魔符の補助によって生まれた“時間差ゼロ”の連続魔法が、魔法陣を次々と破壊していった。
そして――
ルーンガーディアンのHPが二割を切った瞬間、その全身が眩い光を放ち始めた。
「来る……!」
ステラが即座に察知する。
「《魔源共鳴》!」
黒い光が弾け、ステラの体を包み込む。魔族の力が奔流となって溢れ出し、WISの数値がそのままINTへと転換されていく。空気が震え、魔力の密度が一気に跳ね上がった。
「《魔弾雨》!」
ステラが杖を掲げる。
次の瞬間、前方超広範囲に無数の魔力弾が降り注いだ。
ルーンガーディアンが何かを発動しようと動いた――その刹那。
黒紫の弾幕が巨体を完全に覆い尽くす。
爆ぜる光。
断末魔すら上げることなく、ルーンガーディアンは光の粒となって霧散した。
変身中の攻撃はご法度というお約束を破りながら……
視界の中央に、半透明のシステムウィンドウが静かに展開される。
【スキル習得:《二重魔法》】
効果:同ランクの魔法を二つ、同時に発動できる。
「……え?」
一拍遅れて、ルナの目が見開かれた。
「え、えっ!? スキル、習得した!?」
弾けるように声を上げる。
「二重魔法……魔法を二つ同時に!?」
「ちょっと待ってください、これ……めちゃくちゃ強くないですか!?」
理解した瞬間、興奮を抑えきれず杖を握りしめた。
「やっちゃうよ、これ……絶対やっちゃうやつですよ!」
その隣で、ステラの視界にも新たな通知が表示されていた。
【スキル習得:《ハイヒール》】
効果:HPを中回復。WIS依存で回復量増加。
「……私にも、新しいスキルが来てる」
思わず声が弾む。
「ハイヒール……今までのヒールより、回復量が上がるのかな」
「ステラさんのWISなら、すごい回復量になりそうです!」
ルナが目を輝かせて言う。
「うん。次のイベントで、試してみよう」
二人は顔を見合わせ、自然と笑顔になって頷いた。
やがて洞窟を抜けると、外には第三階層――風の空中庭園が広がっていた。
柔らかな風と淡い光が、二人を優しく包み込む。
新しい力を手にした魔法使いと、
それを支える最強のヒーラー。
この偶然の出会いが、やがて――
ギルドの未来を大きく変えることになるのだが。
それを、今の二人はまだ知らない。
次は3/31 21時投稿予定
お楽しみに!




