第079話 極振りヒーラー、ヒマワリの試練2
最後の間に足を踏み入れる。
そこには、ただ一体――《剣聖の化身》の剣士像が立っていた。
像が光を帯び、静かに口を開く。
「汝、ここまで無傷で辿り着いたな。だが、最後の試練はさらに厳しい――」
ヒマワリは片手剣を構え、ぎゅっと握り締める。
「上等……!」
空気がピンと張りつめ、戦いの気配が一気に周囲を支配した。
《剣聖の化身》が、静かに二本の剣を取り出す。二刀流の構えだ。
閃光のような速度で斬りかかってくる。二本の剣が同時に襲いかかり、回避は困難を極める。
「《加速》!」
ヒマワリは全力で体を滑らせ、右の剣が頬をかすめるギリギリの距離でかわした。
化身の連続攻撃――右、左、右、左。交互に繰り出される斬撃を、ヒマワリは最小限の動きで躱す。
剣の軌道を読み、一歩、半歩とずれるたび、空気が切り裂かれる音だけが残る。
「《サンダーボルト》!」
雷の魔法が化身に直撃。HPバーがわずかに削れる。
しかし、化身は微動だにせず、再び距離を取り投擲攻撃――剣が空中を飛ぶ。
「《跳躍》!」
ヒマワリは瞬時に跳び上がり、剣は足元をかすめ壁に突き刺さった。
着地と同時に反撃――
「《サンダーラッシュ》!」
雷の三連撃が化身を打ち据える。一撃、二撃、三撃――確実にHPを削っていく。
「《蜃気楼》!」
虚像が三体現れ、化身を囲む。
化身は虚像を次々と斬るが――本体は背後に回り込んでいた。
「《ウィンドスラッシュ》!」
風を纏った剣が、化身の背中を切り裂く。
化身のHPが半分を切った時、化身の体が光を帯び始める。
動きがさらに速くなり、刹那の残像が残像が空中に走った。
その速度はまるで瞬間移動のよう。二刀流の剣が嵐の如く襲いかかる。
ヒマワリは目を細め、剣の軌道を読み取る。
一本目は右上から、二本目は左下から――体を捻り、ぎりぎりで躱す。
剣風が髪を揺らすが、本体には当たらない。
「《陽炎》!」
視界が波打ち、揺らぎが化身の攻撃を外れさせる。
だが、それでも圧倒的な手数は変わらない。
ヒマワリは《加速》と《跳躍》を組み合わせ、立体的に回避する。
地上で躱し、空中に逃げ、再び地上に降りる――絶え間ない動きで攻撃を避け続ける。
化身が新たな技を放った。二刀流の剣を交差させ、十字状の衝撃波――。
範囲攻撃で、回避する場所はほとんどない。
「くっ……!」
ヒマワリは咄嗟に《跳躍》で真上へ飛ぶ。
衝撃波が足元をかすめ、靴の底を掠める。紙一重の回避。
空中から反撃――
「《ウィンドカッター》!」
風の刃が連続で飛び、化身を襲う。一発、二発、三発――確実に命中し、化身が一瞬よろめく。
「《疾風連斬》!」
着地と同時に五連撃。剣が化身を切り裂き、HPをさらに削る。
化身のHPが、ついに残り二割を切った。
化身が両手の剣を構え直す。
全身から凄まじいオーラが迸り、空気が震える。
「やるな……ならば見せよう、二刀流の真髄を――」
化身が《二刀流奥義:双龍乱舞》を発動する。
二本の剣が龍の如く舞い、無数の斬撃が空間を切り裂く。
攻撃範囲は広く、回避する隙間はほとんどない。
剣の残像が祠の中を埋め尽くし、どこに逃げても斬られる――そう錯覚するほどだ。
「……やばい……!」
ヒマワリは全ての回避スキルを総動員する。
「《加速》!《跳躍》!《蜃気楼》!《陽炎》!」
虚像が次々と現れ、揺らぎの中で化身の攻撃を外させる。
だが、攻撃の手数は圧倒的。右から、左から、上から、下から――あらゆる角度から斬撃が飛ぶ。
ヒマワリは一歩前、半歩右、一歩後ろ――最小限の動きで躱し続ける。
剣が髪を掠め、頬をかすめる――が、ヒマワリは刹那の反応で剣を受け止め、跳ね返す。
攻撃を受けないように、集中力が極限まで研ぎ澄まされる。
一瞬の隙も逃さず、化身の攻撃パターンを読む。
三撃目の後、0.2秒の隙――そこを狙えば――
「……見えた」
ヒマワリは化身の懐に飛び込む。
最も危険な距離、だが最も攻撃が届く距離。
「《ストームスタンス》!」
風と雷を纏い、攻撃力と速度が跳ね上がる。
「《ファイアボルト》!《アースバレット》!」
火と土の魔法を連射し、化身の動きを一瞬止める。
その隙に――
「《疾風連斬》!」
疾風がごとく、五連撃が化身の胴体を貫く。
化身が膝をつき、二本の剣が地面に落ちた。
「……見事だ。汝、真に剣の道を極めし者なり」
化身が光となり、静かに消えていく。
祠には、長い沈黙と共に、勝利の余韻が残った。
祠の中央に、眩い光と共に宝箱が出現する。
ヒマワリはそっと近づき、宝箱の蓋を開けた。
中には――スキルスクロールが入っている。
【スキルスクロール:二刀流】
ヒマワリはスクロールに手を触れ、力を込める。
【スキル習得:二刀流】
効果:両手に片手剣を装備可能。攻撃速度上昇、攻撃回数2倍
「これで……もっと強くなれる」
拳を握り、微かに笑みを浮かべるヒマワリ。
新たな力が、体の内側からじわりと満ちていくのを感じた。
そして、祠の外に足を踏み出す。
光が眩しく、風が髪を揺らす。剣を握る手に、新たに習得した《二刀流》の感覚がしっかりと刻まれていた。
やがて見慣れた街並みが視界に入る。
ギルドホーム――温かい光が窓から漏れ、仲間たちの声が遠くから聞こえてきた。
「ただいま――!」
ヒマワリの声が、ギルドの建物に響き渡る。
「おかえり!どうだった?」
ステラが目を輝かせて尋ねる。
「ちょっと面白いことがあってさ」
ヒマワリは手元のスキル習得画面を見せる。《二刀流》のアイコンが眩しく光っていた。
「二刀流!? すごい!」
リリアが思わず声を上げる。
「……珍しいスキルですね」
ティアは静かに、しかし興味深げに言った。
「うん。でも、剣が一本足りないんだよね」
ヒマワリは少し苦笑する。
「あ、それなら俺が作ろうか?」
ノエルが顔を上げ、頼もしい笑みを浮かべた。
「本当?助かります!」
ヒマワリの目が輝く。
「フルグラウス戦で手に入れた素材を使ってもいい?」
ノエルは《巨大な爪》を取り出す。
表面には淡い青白い光が細かく流れる模様が刻まれ、触れるだけでほんのりと力が伝わってくるようだった。
「よし、任せて!最高の剣を作るから!」
「お願い!」
「楽しみだね!」
ステラが笑顔で言う。
「完成したら見せてね!」
リリアが期待の眼差しを向けた。
ヒマワリは仲間たちの声を聞きながら、新たな力を手にした自分を改めて実感する。
笑い声と会話に包まれたギルドホームは、今日も温かく、冒険者たちの活気で満ちていた。
数日後。
ギルドホームの演習場には、ギルドメンバー全員が集まっていた。
「できた!」
ノエルが完成した剣を持って現れる。
片手剣――刀身は銀色に輝き、表面には雷の文様が走る。
柄には青い宝石が埋め込まれ、微かに光を放っていた。
【雷凰剣】
雷属性付与
攻撃時、一定確率で追加雷ダメージ
STR+10、AGI+8
「すごい……!」
ヒマワリは既に持っている片手剣と、新たに手にした《雷凰剣》を両手に構える。二刀流の構えだ。
「かっこいい……!」
ステラが目を輝かせる。
「似合ってる!」
リリアも笑顔で言った。
「じゃあ、ちょっと試してみるね」
ヒマワリは訓練用のダミーに向かい、剣を振り抜く。
「《サンダーラッシュ》!」
本来三連撃の技が、二刀流によって六連撃に変化する。
右、左、右、左、右、左――剣が残像を残し、ダミーを斬り刻む。
雷属性の追加ダメージが発動し、ダミーが雷に包まれて粉々に砕けた。
全員が呆然と見つめる。
「つ、強すぎる……!」
ノエルも驚きを隠せない。
「……攻撃回数が倍になるだけで、ここまで火力が上がるとは」
ティアは冷静に分析する。
「これは……頼もしいな」
バルトも頷いた。
ヒマワリは剣を鞘に納め、微笑む。
「ありがとう、ノエル。最高の剣だよ」
「えへへ……良かった!」
「これで、次の冒険も安心だね!」
ステラが嬉しそうに言う。
「うん!絶対勝てるよ!」
リリアも頷く。
全員の笑顔が、演習場を暖かく包み込む。
ヒマワリは二本の剣を見つめながら、心の奥で決意を新たにした。
――これで、私たちの冒険は、さらに力強く進める。
次は3/27 21時投稿予定
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